ロミと妖精たちの物語55 Ⅱー19「宇宙少女マリア4」 | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

ロミとマリア二人の意識は、暗黒空間に浮かぶ巨大な宇宙船を前にしていた。

 

ロミが指し示す道、それは彼女の愛と癒しのエンパシーが引き寄せる天国への道。

さ迷える魂たちを導く行き先は、錯誤のほんのわずかな違いでも見逃すことは無い。

 

それはロミがサイボーグとして40年にわたる哀しき魂たちとの出会いと束の間の交流だから。

 

それは一瞬にして別れなければならない邂逅なのだから、2度と会うことのないその人たちに道を与え、そして別れとなるひと時の愛情の、その相手を見誤ることは無い。

 

だがしかし、今ロミたちが探し求めているのは、生きている人間だ。

 

――マリア、この船はあなたのお父さんの船に間違い無い?

 

――はい、宇宙線エネルギーを利用して飛ぶ私たち一族の船に間違いありません、でもこんなに大きな船は見たことがありません。

 

それは、ロミが今までいやというほど経験してきたことだったが。今、ロミの視線の先にある、暗黒空間に浮かぶ巨大な船、マリアの父親が運航していたはずの船にはそれが無かった。

 

その船には生命体の存在を感じる事が出来ないのだ、まるで幽霊船のように。

ロミは思った、そこには自分にとって未知の存在が有るのかも知れないと。

 

――マリア、呼びかけてみて、あなたのお父さんたちに、心の底から念じてみてちょうだい。

 

マリアは目を閉じて、氷の塔で一緒に生活した日々を思い出し、父親への思いを、そして船に乗っているはずの人々への思いを込めて、深くふかく、心の底から思念をした。

 

――お父さんマリアよ、お迎えに来たの、お父さん、そこにいるのでしょ?

 

暗黒の闇に閉じ込められている船から反応は無い。

 

――お願い、どうか返事をして。

 

暗黒の闇の中に浮かぶ巨大な白い船は、ただそこに在るだけだった。

 

白い船体の上方に広げられた宇宙線エネルギーを捉えるための白いセールも、宙を翔けるための三角形の翼も、その白さがあまりにも美しく、その暗黒の闇に浮かぶ人工構造物には、生命の気配を感じることがまったく出来なかった。

 

ロミは思念の中でマリアの肩を抱き寄せた。

 

――大丈夫、これからよ。

 

マリアの心を勇気のエンパシーで包みこむと、再び思念の翼を広げ、巨大な船の周囲をゆっくりと移動した。

 

白い船体には傷一つ無く、塗装も艶やかに塗られたままの状態だった。

一つ一つの状態を確かめ終わると、再び船首に向かって正対した。

 

ロミは地球から送られてくる精霊たちのエンパシーがまだ届いていることを確かめた。

 

南極のオゾンホールの下、真梨花に集まった精霊たちのエンパシーは、ミドりとエスタによって制御され、この亜空間に届き、ロミとマリアの思念の塊を包んでいる。

 

ロミは心眼を開き、ここへ導いたワームホールを呼び寄せた。

そして強力な思念の波が宇宙空間に拡がってゆくと、そのワームホールまで伝わり、ロミが発する強力な思念に引き寄せられて今、白い宇宙船に並んでワームホールの出口門が現れた。

 

ロミは更に強い思念を起こし、精霊たちのエンパシーを取り込むと、黄金色の心眼を具象化し、ワームホールの出口門に向かって鋭い眼光を発した。

 

――汝れ、宇宙の孤児よ、私の眼を見よ!

 

ロミの黄金色の瞳は眩く光を発し、出口門に向かって突き刺さった。

 

ワームホールの出口門は驚いたように反応し、出口門を大きく開き、その暗黒の中に一つの眼が現れた。暗黒の眼は、ロミの発する鋭い眼光を受け、たじろいだように瞼を伏せた。

 

そして門に続くワームホールの管は大蛇のようにうねうねと蠢き始め、その太く長い大蛇のような腹で宇宙船にとぐろを巻くようにして抱き包むと、獰猛な腹を締めつけて、宇宙船を圧しつぶし消滅させてしまった。

 

そして出口門の眼は二つとなり、大きく見開くと、ロミの黄金色に輝く心眼を睨んだ。

 

――来てくれたのね、いたずら虫さん。 

 

ワームは無言でロミの眼を見返していた。

 

――私はロミ、あなたはどなた?

 

ロミは、愛と癒しのエンパシーを添えて思念を送った。

 

――無理に答えなくてもいいわ、あなたも一人ぼっちなのね、大きな大きな宇宙虫さん。

――私たちはさっきの船の持ち主を探しているの、あなたはあの船を壊してはいないわよね、ただイメージを見せてくれただけ、分かっているのよ、あなたは私に警告してくれたのね。

 

巨大ワームの眼は、ただじっとロミの黄金色に輝く心眼を見つめていた。

 

――でもね、宇宙虫さん、私たちはあの船の人たちを見つけなければならないの、この果てしない空間、宇宙にいる貴重な生命を、私たちの惑星に連れて行かなければいけないの。

 

――あなたもワームの中に、この宇宙の大切な命を守っていることを私たちは知っているわ。

 

――お願い、あの船がどこにいるのか教えてちょうだい。

 

――もし、私を信じてくれたなら、1度眼を閉じてみて。

 

ロミは愛と癒しのエンパシーを送り続けた。

 

ロミの純真な嘘偽りを持たない思念の言葉を聞いて、宇宙虫は眼を閉じた。

 

そして再び開いた宇宙虫の門には、もう迷いに包まれたその眼は無かった。

大きく開いた宇宙虫のワームホールの中には、白い闇が伸びていた。

 

ロミとマリアの思念は、再びワームホールに飛び込んだ、暗黒ではなく白い光の闇に。

 

――ロミ様、気を付けてください、あの船は凶暴なモンスターに囚われています。

――僕を分離した母のワームの中にいます。

 

――まあ宇宙虫さん、あなた英語がお上手ね。

 

――今から行く先は僕の母ワームの胎内です、位置は太陽系の中です。

――母も傷つけられて動けなくなっております、どうか僕の母を救ってください。

――あのモンスターは、この銀河の不幸な出来事を集めた、とても悲惨なカオスなのです。

 

宇宙虫は、ロミたちを送りながら願いを訴えた。

 

――大丈夫よ、私たちがモンスターの前に出たら、あなたはお母さんを救ってあげて。

――哀しき魂たちがいる所には、必ず精霊たちがいる、あなたも私と一緒に精霊たちに祈るのよ、いい?

 

――わかりました、さあ、間もなく到着します。

 

そして、白い闇のワームホールから、ロミたちが降り立ったのは暗黒が支配して、大勢の精霊たちを生み出した、悲惨な血と涙に彩られた、重い哀しみに包まれた暗黒の空間だった。

 

ロミの記憶にある、あの砂漠の海にいたスペースドラゴンを更に巨大な姿にしたものだった。

血に飢えた砂漠の獣よりもなお、獰猛で残忍な目をして、ロミとマリアを待ち構えていた。

 

 

 

次項Ⅱ―20に続く

 

 

物語のミューズ

BABYMETALさんから

写真と動画はお借りしています