ロミと妖精たちの物語53 Ⅱー17「宇宙少女マリア2」 | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

(写真と動画はお借りしています)

 

 

 

氷の塔は冷たい外気を防ぎ、適度な気温で17才の少女マリアを守ってくれていた。

 

マリア、この銀河の中でも遥か遠くケンタウルス座の向こう、ウリギリアス黄海にある、ヒューリト星の惑星ザ・ワンから来た一族の少女マリア、彼女はこの惑星の緩い気候のおかげで健康に育ち、いや育ち過ぎたために一族と離れて、一人取り残されてしまった孤独な少女。

 

 

マリアの成長はザ・ワンの人々の通常の成長より少し早いだけ、みな平均して7フィート近い体格なのだが、宇宙旅行をするためには舟の気圧に合わせて彼らは体格を伸縮する能力を得るのだが、マリアはその能力が備わる前に7フィートを越えてしまっていた。

 

 

「実はこの惑星に残されたのは私一人ではありませんでした。千年前、いえ地球の暦では10万年前に初めて到着してから、第10世代にあたる私たちは身体が大きくなり過ぎた子供が4人おりました。私を除いてあとの3人は男の子でした」

 

「その3人はどうしたの?」真梨花が聞いた。

マリアはその瞳を曇らせて答えた。

「私の父が、向こうに到着したら大きな船を作って迎えに来るまで、ここで待つように言いましたが、3人はこの塔でじっとしている事が出来ずに、それぞれ世界に飛び出してしまいました。今はここには居りません」

 

ロミは、マリアの大きな手を優しく握った。

「可哀そうに、それからあなたは一人ぼっちだったのね」

「それでお迎えはいつ来るの?」

 

「新天地に着くのが地球歴では100年、新しい船を造るのに10年、それから迎えに出て、地球に戻るのが100年かかると言っていました。あれから240年が経ちましたが、まだ現れません」

 

マリアは涙を浮かべながらも話を続けた。

「でも、イギリス人たちがこの塔に入ってきてから、決して私は淋しい子供ではありませんでした。彼らはすでに死んでいたのですが、私のためにここに残ってくれましたから」

 

 

その言葉にロミたちは驚いた。

「あなたのために彼らは幽霊になって、ここに残ったというの?」

 

「ヘンリーがこの塔の扉を開けてこの中に入ったときは、もうお二人は死にかけていましたが、ヘンリーだけはまだしっかりとしていました」

 

そしてロミたちの前に、初めてヘンリー・バワーズ海軍中尉が姿を現した。

 

彼は英国海軍将校の白い夏服を着て、29才の若々しい姿のまま、身長は今のロミより少しだけ低く、フィニアンよりは高かった。ロミに近づくとにこやかな表情でその手をとって、膝を折りそっと口づけをした。

 

「ヘンリーさん、あなたが全部仕組んだことなの?」

――お許しくださいプリンセス。

 

彼はそれまでのことを、言葉にはださず思念で語り始めた。

 

――1912年1月17日、スコット大佐率いる我々英国隊は南極点に到達することが出来ました。しかしそれは、ノルウエーのアムンゼン卿が到達してから1か月以上も後のことでした。

 

――そして、帰りの行軍でわたしたちは全滅してしまいました。エバンスが死に、オーツが死に、最後残されたわたしたちも遂に力尽き、3月下旬の暴風にテントも食料も失い既に亡霊のように凍り付いた雪上を彷徨っていました。

 

――作戦の失敗の原因は、わたしに有りました。当初、極点アタック隊は4名と決まっていたのですが、ビバークポイントで開かれたミーティングで、5人目にわたしが選ばれてしまったのです。そのわたしが、最後まで生き残ってしまいました。

 

――マイナス50度を超える極寒の中で、わたしはケルトの妖精の祈りをゲール語で唱えました。どうせ死ぬのなら故郷のスコットランドの花に埋もれて死にたいと、ドルイドの神様にも祈りました。

 

――すると祈りが届いたのでしょうか、暴風雪がおさまり闇の中に、この塔から漏れる明かりを見つけることが出来ました。

 

――わたしは重症の二人を引きずって、なんとかこの塔の入り口に立つことが出来て、塔に向かって叫びました。妖精の祈りを、ドルイドの祈りを叫び続けました。

すると、入口が開き中からマリア様が現れ、わたしたち3人を迎え入れてくれたのです。

 

 

 

 

 

 

――氷の塔の中は暖かく、まるで天国のようでした。

――ウイルソン医師は最後に、そう、まさに「天国のようだ」と言って死にました。

――それから数日後、スコット卿も同じように、マリアに見守られて死にました。

――だがお二人は天国へは行けませんでした。

――5人目のわたしを連れてきてしまい、エバンスとオーツの命を奪ってしまったと、重い自責の念が天国への道を閉ざしてしまったのです。

 

 

ロミは、跪いたまま涙を流しているヘンリーの手を優しく包んだ。

「ヘンリー、決してあなただけの責任ではないのよ。スコット卿が言っていたわ、それにウイルソン医師も、この極寒の中でノルウエー隊に敗北したことを知り、チーム全員がある種のうつ病に陥ってしまい、全員が死を望んでしまったと、だからあなた一人が責任を感じることでは無いと思うわ。そしてあなたたち英国隊も南極探検の先駆けとして、今でも英雄なのよ」

 

ロミの言葉を聞いて、ヘンリーは顔を上げた。

――ありがとうございますプリンセス。

――今回のことは、確かにわたしが仕組みました。

――英国隊の仲間たちが亡霊となってしまった事とは別にして、実はロミ様のお力をお借りしたく、このような企みを行ってしまいました。

 

「私の力を?ヘンリー、それはどういう事なの」

 

――ロミ様、先ほどマリアが言いました通り、わたしたちはザ・ワンの新天地からの迎えを待っておりました。しかし、時が来てもなかなか現れない船について、ロミ様のお力でお調べ頂きたいと考えて、マリアには秘密にしてこの地へ皆さんを誘導してきたのです。

 

――心優しいマリアは決して宇宙人の力で人を脅かすような娘ではありません。あの雷イカヅチもわたしが仕組んだ妖術です、お許しください。

 

「そうなのね、でもヘンリー、あなたは私たちを試したの?」

 

――ロミ様、申し訳ありません、わたしには、あなたと妖精の皆さんのエンパシーが、あの愛と癒しの思いやりの真心のことは、不安の中にあり、恐ろしくもあったのです。

 

――どうかあなたの力で、ザ・ワンの船が何処にいるのか教えていただきたいのです。

 

今では亡霊となってしまったヘンリーの話を聞いて、ロミは再びマリアの手を握った。

 

「マリア、大丈夫よ、あなたのお父さんは、この地球に向かっているはず。今から私は新ザ・ワンとこの地球との間を見てきましょう」

 

大きな少女マリアは、涙を拭いて小さく頷いた。

 

「真梨花、トニー、私はこれから思念を使って見て来るわね、フィニアン、ジェームス、そしてヘンリー、真梨花を支えていて、いいわね。そしてマリア、あなたは私の後をついてらっしゃい、大丈夫、信じれば出来るわ」

 

ロミの言葉を聞いて、マリアとヘンリーも笑顔を取り戻し、大きく頷いた。

 

ロミはマリアの手を握り、横に並んで立たせた。

向かい合わせにフィニアン、ジェームス、ヘンリーの3人に守られて、真梨花が中央に立ち、手を合わせて精霊たちに愛と癒しのエンパシーを放射している。

 

その後方には妖精軍団を見守るように、トニーが蓮華座を組み、固く印を結び、微動だにせず邪心の入り込まぬよう見えないシールドを構成していた。

 

真梨花のエンパシーを求めて、南極大陸の長い歴史を彩る大勢の精霊たちが集まってくる。

ロミは目を閉じて思念の翼を拡げてゆき、目を閉じると黄金色に輝く心眼を開いた。

 

――マリア、今から私たちは精霊たちのエンパシーに乗って思念の旅をします。何も考えず、私の広げる翼を感じるのよ、そして私の身体と一つになるの、いいわね、いらっしゃい。

 

 

マリアは深く頷き無心となり、ロミの開いた思念の翼に包まれて、ロミと一つになった。

 

 

次項Ⅱ―18に続く