ロミと妖精たちの物語165 Ⅳ-51 愛すれど心さみしく① | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

ワイナピチュの月の神殿から飛び立った、フェアリーシップが安定高度に達すると、前列の助手席に座っているフィニアンが、後部座席にいるロミに向かって思念の言葉をかけてきた。

 

――ロミ、ひとつ気にかかることがあります。

――何かしら、フィニアン。

 

――ロ我々がインカに着いてから、最初に時を超えたのは1492年でしたね。

――ええそうよ、でもそれは、あなたが見た計器にそう出ていたからでしょ。

 

――そうです、そこにいたインカの人々はタワンティンスーユの北の大陸に侵略者が来たことを知らない、まだインカの神を失っていなかった時代だから、ヨーロッパとアジアの血脈を持つロミ(美しいあなた)を見て、月の女神だと信じたということで、よろしいのでしょうな。

 

ロミは、たぶんそうだと思って頷いた。

 

――そして、先ほどユパンキのミイラを見たあの神殿は、西暦で1591年でした。

――ユパンキは何時(いつ)生まれて、何時死んだのでしょうか。

 

――もし彼が、15代皇帝だとしたら、30才にも成らないうちに殺されています。

――だがあのユパンキを見て、息子のトゥパクは父親だとすぐにわかった。

 

――フィニアン、あなた何が言いたいの?

 

――ロミ、あのユパンキが歴史に残るマンコ・インカ・ユパンキ皇帝であれば、親子はほとんど接点がありません、皇帝の死後にトゥパクが生まれているのですから。

 

――まあ、ほんとうに?

 

――ええロミ、あなたが旅をする宇宙のワームホールとは違い、時を超えることはとても危険な旅ではないかと思ったのです。

 

――それって、タイムパラドックスとかいうもの?

 

――そうです、我々は歴史を変えてしまうのかも知れません。

――あるいは別の次元のユパンキが聖少女ロミを、あなたを必要としたのかも知れない。

――皇帝アタワルパとユパンキも歴史の記録では親子ではなく兄弟ともいわれています。

――まあ、インカに文字の文明は無かったのですから、それが正確とは思えませんが。

 

 

――そうなのね、では私たちをここまで導いてくれたユマに聞いてみるわね。

 

ロミは目を閉じて、黄金色に輝く心眼を開き、アンドロメダの思念の翼を開いた。

――ユマ、あなたの思いを教えて、あなたの願いを聞かせて。

 

だが、ロミの問いかけに、フェアリーシップ・ユマは、何も応えなかった。

 

――ロミ、先ほどまであった、時の計器が無くなっている。

 

――フィニアン、ユマはきっともう時間を超える必要はないと思っているのではないかしら。

 

――そうですなロミ、これからあなたが成すべきことは、今度の冬至の日に月の神殿を訪れてユパンキの望みを叶えることでしょう。

――ただそれが――どんな事なのか今は分からない。

――いずれにしろ、その日まであと2ヶ月近くあります、ロミ、備えるには十分な時間でしょう。

 

ユパンキは、今度の冬至に新しい月の女神が誕生すると予言していた。

ロミは、自分の乳房の上で眠っているおやゆび姫マリアをそっと撫でて、今の話を聞かせた。

 

――マリア、そういう訳で、まだまだ試練の時が続きそうよ。

 

――ロミ、大丈夫よ、私もファンションも信じている、この世の誰よりも強くてやさしい、ロミの愛と癒しのエンパシーの力を信じているから。

 

 

 

 

そしてロミたちがニューヨークへ戻ると、マックスアパートのオーナーでもあるロミの従妹、ジェーン・マックス教授がアパートの屋上で待っていてくれた。

 

フェアリーシップのタラップから下りてくるロミと妖精たちに向かって、彼女は両手を広げ、満面の笑みを湛えながら出迎えた。

 

「ロミ、おかえりなさい、とってもいいニュースがあるのよ、あとでゆっくりお話しするわ」

長身のブロンド美女は、その長い腕でロミを抱きしめた。

 

もちろん、ジェーンの伴侶であり、ロミの父親でもあるエジマ博士もそこにいた。

「ロミ、おかえり、マリアもファンションさんも、皆さんおつかれさま」

父博士もジェーンに続いてロミを抱きしめると、続いてマリアとファンションにもハグをした。

そして博士の妹春美の三つ子の次男、万里生の肩を抱きながら「君もよくやった」と褒めた。

 

「ところでロミ、きみの相棒フライデーはどこに?」

 

「パパ、彼は私の従者では無いわ、アイルランドのガンコナー妖精フィニアンさんよ」

「おお、そうだったロミ、で、ミスター・フィニアンはどうしたのかね」

「えっ、フィニアンが?どうしたのかしら」

 

ロミはうしろを振り返ったが、彼の姿は見えなかった。

「いないわね、どうしたのかしら、まだユマの船内にいるかしら」

 

ロミは不審に思い、ユマの機体に戻りかけようとしたその時、目の前に眩い稲光とともに激しい雷鳴が轟いた。突然光り轟いた爆発的な雷鳴の衝撃に、ロミの傍にいた博士はもんどりを打ってひっくり返った。それからしばらく気を失っていた後、博士はロミに助け起こされた。

「なんだ、何があったんだロミ」

空手の達人エジマ博士は、見えない敵に向かって拳を握り、腰を落として身を構えた。

 

博士を助け起こしたあと、ロミはゆっくりとその身を構え、アンドロメダの鋭い眼光を開いた。

そしてなおも打ち続ける雷光に向かって、ロミは怒りのエンパシーを振り下ろした。

するとその一撃で雷鳴は止み、そこに現れたのは、ミルクマンの姿をしたドラゴンだった。

 

「パパ、危ないから下がっていてね」

 

ロミは思念の翼を広げ、新たなドラゴンに向かって、愛と癒しのエンパシーを送った。

 

 

次項Ⅳ-52に続く

 

(2014年3月の武道館、高1と中2のBABYMETALの三人)