ロミと妖精たちの物語166 Ⅳ-52 愛すれど心さみしく② | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

ロミと妖精たちがフェアリーシップ・ユマに乗ってニューヨークに戻り、従姉妹のジェーンと父博士に迎えられ、アパートの屋上に降り立って挨拶をしていたその時。

 

突然雷鳴とともに現れたドラゴンは、この正月に四国の三嶺(みうね)の猛吹雪の中で、フィニアンに連れられてアメリカ軍のリムジンに乗り込んできた大きな人、そして洞窟ドームでロミと共に月依姫を守った正義の人、幼なじみの太っちょトーマスがそのまま大人になったような姿を思わせる、あの心優しい大男、ミルクマンだった。

 

屋上の芝生の上に倒れ込んだミルクマンは、ロミの癒しのエンパシーに包まれて目を覚ますことが出来た。

 

ミルクマンは首を振りながらゆっくりと立ち上がり、微笑みながらロミに近づこうとしたが、何も知らない父博士がロミを庇うようにして、ミルクマンの前に立ち塞がった。

 

「きさまは何者だ!」

博士は、ミルクマンの差し出そうとした手を取り、手首と肘を押さえ、足を絡めて体落としの技をかけた。ミルクマンは抵抗もせず、そのまま受け身の態勢をとって芝生の上に倒れ落ちると、そのまま博士に首を絞められ、袈裟固めに抑え込まれた。

 

ロミは半ば呆れたように腕組みをして、苦笑ながら二人の様子を見ていた。

 

博士の息が上がると、ミルクマンは博士の背中に手を回して、参りましたと合図をした。

 

博士は袈裟固めをゆるめ、その顔を見下ろすと思わず呟いた。

「なんだ、図体のわりに弱いな君は、うん?前にどこかで会った憶えがあるな」

「パパもう放してあげて、彼は私たちの友達なの」

ロミは笑顔を見せて父博士に言った。

「友だちだって?」

 

「そうよ、彼は三嶺で私たちを助けてくれたの」

博士は、自分が倒したミルクマンを助け起こさなくてはと思ったが、博士が手を放すとミルクマンは素早く立ち上がり、微笑みながら博士に大きな手を差し出した。

 

まだ立ち上がれなかった博士は、ミルクマンに助け起こされることになった。

 

「ふむ、君がロミたちを助けたって?」

博士は、激しい運動で乱れた呼吸を鎮めるように、間を取りながら言葉を続けた。

「凄いじゃないか、大抵の男はロミに助けられるばかりなのに、君はロミを助けたんだね」

博士の変化にも、ミルクマンは穏やかなまま、博士の身体を支えて静かに笑っていた。

 

「そうだろう、君は昔のままだね」

博士は、ようやくミルクマンを認めて、彼の大きな手を握った。

「大きくなったな、太っちょトーマスくん」

身長6フィートちかい博士より、頭ひとつ背の高いミルクマンの肩をそっと叩いた。

 

ロミは、父博士に細かい説明は省いた。

「ミルクマン、あんな雷と一緒に来るなんて、いったいどうしたの?」

 

ミルクマンは、済まなそうに身を縮めて、ロミの問いに応えた。

「いったいどうしたのか、僕の方が聞きたいくらいだよ、ロミさん」

彼はあらためてロミの手を握り、マリアにも握手をした。

 

遅れてユマから下りてきたフィニアンが、大きなミルクマンの背中をそっとたたいた。

「やあミルクマン、よく来てくれたね」

 

「これはフィニアンさん、あなたが僕を呼び出したのですか」

「いや、急に呼び出して済まなかった、まさかきみが宇宙線発電所で仕事をしていたなんて知らなかったのだよ。ロミ、博士、よかったら中でお話しませんか、ユマからメッセージを受け取りましたので、ミルクマン、君も付き合ってくれるね」

 

珍しく真剣な表情で語るフィニアンを見て、ロミは口を結んで静かに頷いた。

「さあ、ミルクマン一緒に私たちの部屋へ行きましょう」

そう言って、ロミはミルクマンと父博士の手を取った。

 

 

次項Ⅳ-53に続く