ロミと妖精たちの物語156 Ⅳ-42 聖なる山の頂きに⑯ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

インカの古都クスコの郊外、サクサイワマンの遺跡は標高およそ3700メートルの高地にある。

 

夜明け前はかなり冷える、トーガに守られているロミと妖精たちとは違い、アイルランドのいたずら妖精フィニアンには少し寒かった。西に沈みゆく紅い月の浮かぶ遺跡の広場、ユパンキと父との別れの愁嘆場にいたロミたちの後ろで、フィニアンは思わずくしゃみをしてしまった。

 

ロミは、抱き起こしたユパンキの肩を抱いたまま振り返った。

「あらフィニアン、いたのね」

「もちろんいました、ずっとここで皆さんを見守っていたのですよ」

 

フィニアンは、ロミに変わってユパンキの肩を自分の肩に乗せ、彼の身体を支えた。

「間もなく太陽が昇ります、ユパンキさんはもう限界でしょう、休ませなくては」

 

ロミは頷くと、城壁から下りてきたマリアを労(ねぎら)いながら優しく抱いて包んだ。

「そうね、今日はここまで、みんな少し休みましょう」

そう言ってロミは、もう片方の腕を伸ばして、ファンションの小さな身体も包んだ。

 

フィニアンは、ユパンキを支えながら3美神に近づいて、黙っままロミにウインクをすると、人さし指を立ててトネリコのステッキを手品のように取り出し、それを頭上でクルリと回した。

 

いつの間にか上空で待機していた、フェアリーシップの船室にロミたちは移った。

座席に着いて落ち着くと、ユパンキは姿を消して魂となり、ロミの乳房の上に潜り込んだ。

 

「あっ、ずるいわユパンキさん、そこは私の寝床なのに」

マリアが拗(す)ねると、ファンションが優しく彼女の肩を抱いてあげた。

するとたちまちマリアは親指姫となり、愛の妖精の胸元に飛び込んだ。

 

――この寝床、大きくて柔らかい、お姉さま、しばらく休ませてね。

 

「あらマリア、私でいいのかしら?」ファンションは目をパチクリして応えた。

ロミはそれに気づくと、小声でファンションに耳打ちした。

 

「ファンション驚いたわ、マリアは乙女の乳房でないと眠れないのよ、あなたも乙女を守って生きてきたのね、いったいあなたお幾つなの?」

 

「フィニアンさんとたいして変わらないわ、最初のジャガイモ飢饉の時代から、取り替えっ子のシーオークいたずら妖精だったのよ」

 

ロミはファンションの言葉を聞いて、すると二人とも400年を超えて生きているのかしらと思ったが、ザ・ワンのマリアたちの寿命を考えると、自分はこれからどのくらい生きてゆくのか、いつまで乙女でいるのかと考えると、もう年齢のことはどうでもいいかなと思い直した。

 

 

 

 

「フィニアン、これからどうするのかしら?」

 

「聖なる泉の麓に温泉付きのペンションがあります。そこで食事をして、ゆっくり温泉に浸かるというのは、いかがでしょう」

 

「温泉、いいわね、じゃあ、チェケラチョコとマシュマロは、そこで休んだ後に行きましょう」

 

ロミの言葉を聞いて、操縦席から万里生が呟いた。

――ロミ姉さん、それを言うならチョケキラオとマチュ・ピチュでしょ、よっぽどお腹が空いたんだね、まあ次の作戦は、それからということで。

 

――それではユマ、タンボマチャイの聖なる泉へ向かおう、速度はギャロップでゆっくりとね。

 

ゆっくりと飛行するフェアリーシップの中で、ロミは自分の乳房の上に眠るユパンキの魂と、隣の座席で可愛い寝息を立てているファンション、そしてその乳房に眠る親指姫に、そっと静かに目を覚まさぬように、愛と癒しのエンパシーを送った。

 

南極大陸の最高峰ヴィンソン・マシフで愛の妖精ファンションに出会い、取り替えっ子の子供たちをロンドンに見送ったあと、こんどはニューヨークのイースターパレードにインカの英雄ユパンキが現れた。彼に頼まれて来たマチュ・ピチュの太陽の神殿、そしてピラミッドの遺跡から、次はチョケキラオに向かう。これはみんな、トーマスから与えられた宿題なのかしら。

 

――さあ、今は一先ず美味しいものを食べて、温泉で身体を休めましょう。

 

ほんのつかの間、ロミもトムの夢を見ながら眠りに落ちていた。

 


フェアリーシップ・ユマは聖なる泉の上空を超えて、そこから急峻な断崖を、およそ千メートル近く下降してウルバンバ川の渓谷の底に着いた、目的の建物を見つけるとフェアリーシップは音もたてずにペンションの庭に降り立った。

 

急峻な断崖の下、信じられないほど大きな一枚岩を背に、鬱蒼と生い茂る木々の間に、ログハウスと石造りを混合したようなペンションが建っていた。ダイニングで種類豊富な野菜に、トウモロコシとトカゲ肉のシチュー、メインディッシュはアルパカのステーキだった。ラムのような歯ごたえだが、臭みは無くとても食べやすかった。

 

「これとても美味しいわユパンキさん、ワシントン広場でも戴きたかったわね」

 

「そうですか、わたしはクイのほうが好みですが。どうも今の時代、アルパカは食用肉として持ち出すことが出来なかったようです」

 

「そうなんだ、やっぱりご当地でいただくのが一番かもね」

 

昨夜から何も食べていなかった、ロミと一同は出された料理をぺろりと平らげた。

 

最後に、ミント味の効いたシャーベットをいただくと、ロミと妖精たちは満足そうにペンションのオーナーと家族に礼を言い、愛のエンパシーを送って応えた。

 

 

そしてペンションの裏手、岩と樹木に囲まれた温泉浴場にロミたちは入った。

急峻な山々に囲まれて、朝の日差しはまだ届かないが、山間に囲まれた小さな空は青々と透き通り清々しい野天風呂日和りだった。

 

ロミたちはアンデスの植物オイルの石鹸で身体を洗い、天然の温泉に首まで浸かった。

かなり温度の高い湯で、3人は赤く火照った身体を川から吹き上がる風で涼ませた。

 

「あっ見て、とてもきれいな鳥」

 

「ほんとうだ、あれはハチドリかしら」

 

「あっこっちにも、この子は知っているわ、アンデスイワドリよ、図鑑で見たことがある」

南極大陸の氷の塔で育ったマリアは、野鳥図鑑やインターネットで勉強をしていた。

 

「鮮やかな紅い色ね、初めて見たわ」

 

きゃっきゃと騒いでいる3人に、岩の壁の向こうからフィニアンが声を掛けた。

「ロミ、そろそろお部屋に戻りましょう、今夜に備えてお休みくださいな」

 

「はーい」

3人揃って返事をした。

 

部屋に戻ると、マリアは親指姫に変身し、ロミの胸元に潜り込んだ。

――まあ、可愛いマリア、いい夢を見てね。

――ファンション、今夜もあの紅い月は昇るのかしら。

 

ロミは左腕にファンションを抱いて、右手で胸元のマリアを優しく包み、

ゆっくりと、腹式呼吸をしながら、静かな眠りの世界に入っていった。

 

 

次項Ⅳ-43に続く

 

 

 

 

 

(7年前のメトロック・まだ神バンドは降臨していません、、むふ、可愛い3姫ですね)