マチュピチュの太陽の神殿に立つロミは、神殿を囲む庭園の芝生の上で、膝を落としてロミを見上げているインカの人々に向かって、ゆっくりと両手を広げ、黄金色に輝く心眼から愛と癒しのエンパシーを発し、思念の翼をゆっくりと羽ばたかせ、そこに集まったインカ人(びと)の頭上に送った、愛と癒しのエンパシーに包まれた人々は、両手を握り合わせて目を閉じた。
人々の視線を閉じると、ロミは後方のインティワタナに合体しているフェアリーシップを見た。
――万里生(まりお)、船は大丈夫?
――何も問題は無いけど、計器が一つ増えている、たぶんこれは時間と位置を表す目盛りだと思う。読み上げると、S:13-94-7、W:72-32-44、TH:1492.Earthとなっている。
――私たちは時を超えてしまったのかしら。
――そうだと思う、いや間違いないと思うよ、ロミ姉さん、ここは600年前のマチュピチュだ。
――600年前?では、コロンブスの新大陸発見の時代ということかしら。
――そうだね、ロミ姉さんとマリアは宇宙のスケールだし、ファンションと合わせて三人になると、オーバータイムのスケールになる、大変な組み合わせが出来てしまったのだと思うよ。
ロミはあらためて、太陽を繋ぐインティワタナの更に後方に聳(そび)える、月の女神の神殿があるワイナピチュの頂を仰いだ。東の空から昇り始めた太陽の光に消されることも無く、巨大な紅い月は山頂の上にあった。
「ところでユパンキさん、私たちに何をお望みなのか教えてください」
――お許しくださいロミ様。 (ユパンキは人々に聞こえぬよう、思念の言葉を使った)
――赦すって、何を? (ロミも思念で応えた)
――わたしたちは、ザ・ワンの使者に食糧を捧げる約束で、ザ・ワンの力をお借りし、空飛ぶ舟を利用してこの地に太陽の神殿を造りました。
――それは作物の豊作に必要な、正確な季節を測るのが目的でした。
――しかし、あの山に月の女神の神殿を造ったことは、ザ・ワンには秘密にしていたのです、
――わたしたちにとって、太陽と月は切っても切れない神の和合の姿なのです。
――どうして秘密にしてしまったのかしら。
――ザ・ワンの神は宇宙に一つ、それを象徴するのが、唯一絶対の太陽神だったのです。
――そうなのね、分かるわ、私もあなたと同じよ、この世に人々の言語は様々にあるように、神は一つであり八百萬(やおろず)でもあると信じているわ。ユパンキさん、ザ・ワンの使者の方にそれを前もってきちんと説明していれば、きっと解かってもらえたはずなのに。
ロミの言葉を聞いて、ユパンキは頭を下げた。
――ロミ様、ありがとうございます、おっしゃる通りでした。
――それで、あの神殿に何があるの?
――さきの夏至の日にこの年の豊作を占いましてところ、占いとは別にご宣託があり、月の神殿に新しい使者が現れる、その使者が邪神とならぬようザ・ワンの神の使者に祈りを捧げよと、太陽神からご宣託が下されました。
――まあ、それであなたは時を超えて私たちのもとへいらしたの?でも、この世界に居るはずの神の使者の方は、いったい何処へ行かれたのかしら。
――わかりません、わたしは神の命ずるままに北の都へ、あなた達のもとへ参ったのです。
ユパンキは東の空を見上げ、太陽の位置を確かめると、ロミに向き直った。
――ロミ様、間もなくインティワタナの上に、冬至の光が差します。
ロミはユパンキの話に頷き、微笑みのエンパシーを送ると、傍らに立つマリアとファンションの手を握り、三人お互いに、目と目で思いを確かめた。
――フィニアン、私たちをあの山に案内してもらえる?
――もちろんですよ、おまかせくださいロミ。――マリア、ドラゴンボウルのご用意を、わたしの杖に光の渦を。そして愛の妖精ファンション、この山に集まってくれた精霊たちに、お祈りを。
こんどはユパンキも含めた四人の頭上で、アイルランドの妖精フィニアンはトネリコの杖をくるりと回し、虹色の光の粒を降り注いだ。そして再び見えない馬車に乗り、ロミと妖精たちとインカの英雄は、巨大な紅い月の下、ワイナピチュにある月の神殿に降り立った。
次項Ⅳ-39へ続く
