ロミと妖精たちの物語151 Ⅳ-37 聖なる山の頂きに⑪ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

マチュピチュの山上にあるインティワタナ ”太陽を繋ぐ石” に繋がれたフェアリーシップの船室から、フィニアンと精霊たちがつくってくれた見えない馬車に乗ってロミと妖精たちは太陽の神殿の上に降りた。

 

暦はまだ四月の秋のクスコ地方、夏から秋へと変わったばかりのはずだが、アンデスの高地太陽の神殿に立つロミを取り囲むインカの人々は、ロミたち3人を女神のように仰ぎ見ている、

 

彼らの姿に邪(よこしま)な思いは見えず、薄明から徐々に明けゆくマチュピチュの初冬を思わせる冷気の中で、黄金色、純白、そして桃色の各々のトーガを纏ったロミと妖精たちの、朝の光に照らし出された姿を、崇めるように見上げていた。

 

彼らの一人ひとりの姿を見守りながらその人それぞれの心の思いに、癒しのエンパシーを送っているロミに、アイルランドの妖精ファンションはそっと耳打ちするように伝えた。

 

「ロミ、この人たちはみんな生きている、けっして幻なんかじゃないわ、一人ひとり名前もあるし、愛の心もちゃんと持っている、私には分かるの、今は私に任せてちょうだい、あなたはそこでしばらく休んでいてね」

 

愛の妖精ファンションは、黄金色のトーガに包まれているロミの姿に、まるで女神を見出すように見つめ続けているインカの人々、彼らの熱い視線からロミを護るようにして大きく両手を広げると、愛の妖精は自分自身の小さな身体を前に出して、太陽の歌を、太陽神と月の女神の愛の歌を唄い始めた。

 

そして献身的な彼女の姿に、ウルバンバ渓谷から集まってくれたこの地の精霊たちは愛のハーモニーで包み、マチュピチュにいる古代インカの人々の頭上にも、ファンションと精霊たちの、その調和のとれた美しい歌声が静かな安らぎを与えていった。

 

 

 

 

白いトーガに包まれてロミと並んで立っているマリアは、記憶の中にこの光景があることを知った。幼き日、父と共にザ・ワンの小型宇宙船に乗り、氷の塔からこの地に来たことを思い出し、或いは父から受け継がれた記憶の中に、この小さな舟で巨大な岩を運び、この天空都市に神殿を造るインカの人々と共に、ザ・ワンの科学技術が静かに協力をしていたことを。

 

ロミは、インカの人々に愛と癒しのエンパシーを送りながら、天空の建物を見回していた。

――マリア、見て、どの建物も壁も石畳も、みんな真っ白で出来たばかりのように美しいわ。

 

――そうねロミ、ここはいまインカ創世の時代かもしれない、私たちは時を超えてしまったみたいだわ、この人たちは、世紀を超えて聖少女ロミ、あなたを招いたのかしら。

 

ロミはマリアの言葉の意味を、時空を超えてしまった自分たちの状況を、これがたとえ自分たちの身を亡ぼすかもしれない、タイムトラベルのパラドックスの罠であったとしても、今ここにいる人々を見捨てることは出来ないと思い、ロミはマリアとファンションの意思を確かめるように、目と目を合わせて互いの信念を確かめあった。

 

――大丈夫よ、私たちは神様を信じている。

 

――うん、見て、精霊たちも大勢集まってくれているわ。

 

そしてロミと妖精たちの前に、インカの英雄ユパンキが再びその逞しい姿を現した。

 

――ロミ、あの山をご覧ください。

 

ユパンキはマチュピチュの前方に聳える、標高2,720メートル、今いるマチュピチュの頂きより約300メートルも高い山の頂、月の女神が支配するというワイナピチュの山頂を指し示した。

 

そこに、不気味な影を落とした紅の月が昇ろうとしていた。

ロミは揺るぐことなく真っ直ぐに、月の女神の頂に昇る、巨大な紅い月を見つめた。

――まだ夜は明けたばかり、あの紅い月の本当の姿を見極めましょう。

 

そして、月の神殿の洞窟の中で、もう一人のロミが目を覚まそうとしていた。

 

 

次項Ⅳ-38に続く

 

 

2012年紅月の中で、自分と闘う14才の中元すず香