辻惟雄の「十八世紀京都画壇 蕭白、若冲、応挙たちの世界」を読んだ! | とんとん・にっき

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辻惟雄の「十八世紀京都画壇 蕭白、若冲、応挙たちの世界」(講談社選書メチエ:2019年2月7日第1刷発行)を読みました。現在、東京都美術館で「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」が開催されています。その大元となったのが、辻惟雄の「奇想の系譜」であることは、よく知られています。

 

美術史家・辻惟雄氏(1932~)が、1970年に著した「奇想の系譜」。そこに紹介されたのは、それまでまとまって書籍や展覧会で紹介されたこののない、因襲の殻を打ち破り意表を突く、自由で斬新な発想によってわれわれを、非日常的な世界に誘う数々でした。それから半世紀近くたった現在では、かつては江戸時代絵画史の傍流とされてきた画家たちが、その現代に通じる革新性によって熱狂的ともいえる人気を集めている。(「奇想の系譜展」図録、「ごあいさつ」より)

 

本のカバー裏には、以下のようにあります。

十八世紀の京都には、まったく新しい、奇抜な表現をする画家たちがひしめいていた。形にこだわらない自由な発想は市民を魅了し、封建社会において精神の解放の一助となった。池大雅・与謝蕪村の南画、円山応挙の写生画法。「奇」では収まらない曾我蕭白の前衛性、若冲の不可思議―。個性的過ぎる芸術家たちの、みやこに遺した足跡を振り返る。

 

「はじめに」から引用してみよう。

十八世紀の京都画壇の特色は、藤岡作太郎が「旧風革新」と形容したように、狩野派や土佐派、住吉派に代表されるような、手法の伝承のみを重んじる形式主義の殻を破って、これまで見られなかった新しい表現が姿を現したことである。新しい表現をもたらしたのは、集団ではなく、それぞれの画家の個性であった。前世紀における日明貿易の再開によって、長崎から、明、清の新画法がもたらされた。南宗画法による水墨山水画、南蘋画法による彩色花鳥画などがその主なものである。銅版画を通じてもたらされた陰影法や透視遠近法がそれに加わる。旧風革新をもたらした外的要因がそれらであった。

 

奇想の画家たち―京画壇の最後の光芒

十八世紀後半、元号で言えば宝暦から明和、安永、天明、寛政にかけては、伝統を誇る京画壇がその最後の光芒を放ったといえる時期である。前述のような大雅、蕪村による南画の大成、応挙による写生画法の確立はその白眉であり、外来の新様式を伝統とそれぞれの個性とにつなげ、「旧風革新」の中心的役割を果たした。ここで取り上げる蕭白、若冲、芦雪は、同じ時期京都にあって、彼らよりいっそう風変わりで個性的な表現を打ち出し、いわば時代の前衛の役を担った画家たちである。彼らの仕事は当然のことながら個人技に終わり、流派を形成することはなかったのだが、それらを「京奇想派」として括ることは、彼らの表現の共通項にある奇抜な趣向や、グロテスクで非日常的な幻想性、力強い庶民的ユーモアといったものに照明を当てるうえで役立つだろう。

 

「十八世紀京都画壇 蕭白、若冲、応挙たちの世界」は、書下ろしではなく、これまであちこちに掲載された文章の中から、江戸時代の中期に当たる十八世紀京都画壇の状況、およびそこで活躍した画家とその作品に関するものを選び出し、一冊にまとめたものです。全体の点検は元板橋区立美術館長、現北斎館館長の安村敏信氏があたったという。ただし第五章「応挙と円山派」は例外的に書き下ろした文章です。辻自身の応挙観が「奇想の系譜」を書いた時と変わって肯定的になったため、としている。「画を望まば我に乞うべし、絵図を求めんとならば円山主水よかるべし」という、応挙批判の言葉を放ったといわれる蕭白を応挙よりも前に知ったから、応挙は辻から敬遠されてきたという。この一文、この本の中に何度も出てきます。

 

十八世紀から十九世紀初めにかけての京都画壇は、まことに多士済済、百花繚乱の趣。

「小さなルネサンス」がたしかにそこにあった。

(「まえがき」より)

 

辻惟雄:

1932年愛知県生まれ。東京大学文学部美術史学科卒業。東京大学大学院博士課程中退。美術史家。東北大学、東京大学、多摩美術大学学長、千葉市美術館館長、MIHO MUSEUM館長などを歴任。現在、東京大学、多摩美術大学名誉教授、MIHO MUSEUM顧問。

主な著書に、「奇想の系譜」「奇想の図譜」(ともにちくま学芸文庫)、「日本美術の歴史」(東京大学出版会)、「奇想の発見:ある美術史家の回想」(新潮社)、「辻惟雄集」(岩波書店、全6巻)、「若冲」(講談社学術文庫)ほか。

 

目次

はじめに

第一章 十八世紀京都画壇総論

第二章 日本文人画の成立―中国から日本へ

第三章 池大雅―南画の大成

第四章 与謝蕪村―翔(か)けめぐるマルティ芸術家の創意(おもい)

第五章 応挙と円山派―巨匠の「写生」と「異常」

第六章 伊藤若冲―不思議世界のリアリティ

第七章 長沢芦雪―画家のウイット

第八章 曾我蕭白―狂躁と逸格

あとがき

初出・図版出典一覧

 

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僕の手元にある著作:順不同

「日本美術の歴史」

2005年12月9日初版

 

「奇想の系譜」

2004年9月10日第1刷発行

 

「奇想の江戸挿絵」

2008年4月22日第1刷発行

 

「若冲」

2015年10月9日第1刷発行

 

「奇想の図譜」

2005年4月1日第1刷発行

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「岩佐又兵衛―浮世絵をつくった男の謎」

2008年4月20日第1刷発行

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朝日新聞:2019年3月23日