木村泰司の「美女たちの西洋美術史 肖像画は語る」を読んだ! | とんとん・にっき

木村泰司の「美女たちの西洋美術史 肖像画は語る」を読んだ!

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木村泰司の「美女たちの西洋美術史 肖像画は語る」(光文社新書:2010年11月20日初版第1刷発行)を読みました。序章と終章のほか、14章からなる新書です。こういう形式、1章に一つの絵画について述べるという形式は、中野京子の「名画で読み解くハプスブルク家12の物語」がよく知られています。よく売れたのでその続編「名画で読み解くブルボン王朝12野物語」が続いて刊行されました。僕が記憶にあるのは、ちょっと趣向は違いますが、江国香織の「日のあたる白い壁」を思い出します。ドラクロワ、ゴッホ、マティス、荻須高徳、小倉遊亀、オキーフ…etc・・・。古今東西27人の画家の作品を取り上げ、「嫉妬しつつあこがれつつ」自由に思いを巡らしtらエッセイ集でした。


木村泰司の「美女たちの西洋美術史 肖像画は語る」は、1章に一人の「肖像画」を取り上げ、肖像画に描かれた女性たちの姿を、西洋美術史とからめて、様々な角度から読み解いて、肖像画に込められた愛と欲望を感じ取る、というものです。「肖像画」ということで、昨年10月に損保ジャパン東郷青児美術館で「ウフィツィ美術館 自画像コレクション」展を思い出しました。そのなかで「マリーアントワネットの肖像を描くヴィジェ=ルブラン」が抜きん出て美しく、素晴らしかったを憶えています。


タイトルの通り、この絵は「マリーアントワネットの肖像画」を描いているヴィジェ=ル・ブラン自身の「自画像」だったのです。従ってイーゼルには描きかけのマリー・アントワネットが見えるというものです。「美女たちの西洋美術史 肖像画は語る」には、第13章にヴィジェ=ルブランの「マリー・アントワネットと子供たち」(1787年)が出ています。ヴィジェ=ルブランはマリー・アントワネットと同じ年に生まれ意気投合し、王妃の肖像画家として重用されたようです。そうそう3月1日から丸の内の三菱一号館美術館で「マリー=アントワネットの画家 ヴィジェ=ルブラン展」が開催されます。


序章では「美術史の中の肖像画」として、古代からの肖像画の歴史を辿っています。古代ギリシャ・ローマ時代のおおらかな偶像崇拝から社会が一変し、キリスト教がローマ帝国の国教になり、異教徒による偶像崇拝が禁止されたこと。古代に発展した肖像芸術がルネサンス時代に再び息を吹き返すまで、中世という千年の眠りが必要だったこと、個人の肖像が再び現れるのは14世紀まで待たなくてはならなかったこと。それまでの超然としたキリスト像から、苦悩や苦痛といった人間性を強く表したキリスト像が造形化されるようになったこと。人間・個人への関心は、13世紀以降、アルプスの北と南で同時期に起こったこと。


14世紀に入ると、宗教美術にさえ、寄進者や画家自身の肖像画描かれるようになったこと。これらが発展して独立した肖像画になったこと、神に対する愛が宗教画の発展を導き、人間への愛惜や尚さんが肖像画の発展を導いた、と木村は述べています。ルネサンス期のイタリアの肖像画が、古代のコインをお手本にしたプロフィール(側面)像だったのに対し、北方の画家たちは早くにプロフィールから4分の3正面像へと移行したこと、それはまず宗教美術から始まったという。現存するもっとも古い作品は、オーストリア大公ルドルフ4世の4分の3正面像だったという。


終章はやや異質で、アンディ・ウォー^ホールの「16ジャッキー」(1964年)、すなわちジャクリーン・ケネディ・オナシスの肖像画で猪突に終わります。いずれにせよ、「ヨーロッパの王侯貴族を中心に語る、15章の西洋美術小史」とある通り、イザベッラ・デスケ、マリー・ド・メディシス、マルガリータ王女、ポンパドゥール夫人、等々、興味深い女性たちが続々と出てきます。いずれにせよ、軽い気持ちで1章ずつ読める西洋美術史入門書です。下にその一部を画像とともに載せておきます。


木村泰司は1966年生まれ。西洋美術史家。カリフォルニア大学バークレー校で美術史学士号を取得後、ロンドンのサザビー頭美術教養講座にてWorks of Art終了。著書に「名画の言い分」「巨匠たちの迷宮」(以上、集英社)、「西洋美術史から日本が見える」(PHP新書)がある。

とんとん・にっき-bijyo6 第1章マリー・ド・ブルゴーニュ

ハプスブルク家の反映を築いた美女

「マリー・ド・ブルゴーニュ」ミヒャエル・バッハー

1479年、ハインツ・キスターズ・コレクション

(スイス、クロイツリンゲン)







とんとん・にっき-bijyo5 第2章イザベッラ・デスケ

ルネサンスの熱狂を生きた美女

「イザベッラ・デスケ」

ティツィアーノ

1534~36年

ウィーン美術史美術館





とんとん・にっき-bijyo4 第6章エリザベスⅠ世

王国の偶像となり、国家と運命を共にした女王
「13歳のエリザベス女王(後のエリザベスⅠ世)」
ウィリアム・スクロッツ?

1546年頃、ウインザー城王室コレクション

(イギリス)





とんとん・にっき-bijyo3 第9章マリー・ド・メディシス

尊大な自我の運命

「マリー・ド・メディシス」

ピエトロ・ファケッティ

1595年頃

ローマ?





とんとん・にっき-bijyo2 第12章ポンパドゥール夫人

ロココの「女王」の華やかな戦い

「ポンパドゥール夫人の肖像」

フランソワ・ブーシェ

1756年

アルテ・ビナコテーク(ミュンヘン)





とんとん・にっき-bijyo1 第13章マリー・アントワネット

国民に憎悪された王妃

「マリー・アントワネットと子供たち」

エリザベート・ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン

1787年

ヴェルサイユ宮殿







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