福島県立美術館で「アンドリュー・ワイエス 創造への道程」を観た! | とんとん・にっき
2009年03月23日 15時02分29秒

福島県立美術館で「アンドリュー・ワイエス 創造への道程」を観た!

テーマ:ゲ~ジュツ見てある記

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福島県立美術館で開催されている「アンドリュー・ワイエス――創造の道程」展を観てきました。この展覧会は、昨年2008年11月8日から12月23日までBunkamuraザ・ミュージアムで開催され、次に愛知県美術館を回り、そして福島県立美術館へと回ってきたものです。もちろん僕はBunkamuraザ・ミュージアムで観ていますが、もう一度観ておきたいと思い、行ってきたわけです。日本での巡回展の間、アンドリュー・ワイエスは2009年1月16日、チャッズ・フォードでお亡くなりになりました。91歳でした。ご冥福をお祈りします。


アンドリュー・ワイエスは、僕の考えでは、1974年に東京国立近代美術館で開催された「アンドリュー・ワイエス展」の時点で、ほぼ自分のスタイルは完成していたように思います。その作品とは、「海からの風」(1947)、「遙か彼方に」(1952)、「ブラウン・スイス牛の牧場」(1957)、「遠雷」(1961)、「マガの娘」(1966)、「アルヴァロとクリスティーナの家」(1968)、などだったりします。「アルヴァロとクリスティーナの家」は、今回その「習作」が何点か出されていました。



今回の展覧会は「習作」が多いというのが大きな特徴です。「習作」は画家の制作のプロセスが見られ、素描は貴重なものでもあります。「オイル・ランプ」「クリスティーナの世界」「幻影」「オルソン家の納屋の内部」「玉子の計量器」「煮炊き用ストーヴ」「さらされた場所」「ガニング・ロックス」「オルソン家の終焉」「火打ち石」「そよ風」「粉挽き小屋」「松ぼっくり男爵」「ページボーイ」「ジャックライト」「747」「鋭利な斧」、等々、何枚もの「習作」が展示されていました。そのほとんどが「丸沼芸術の森」の所蔵品です。特に「オルソン・シリーズ」は水彩90点、素描147点もあるという。現在のプレファブ小屋ではなく、でき得れば恒久的な施設を建設し、いつでも誰でも観られるようにしてほしいと願っています。


いわゆる「作品」としては、福島県立美術館の所蔵品が多く、特に目につきました。こうしてまとめてみると、福島県立美術館がどのような経緯でワイエスの作品を纏めて購入したのかはわかりませんが、けっこういい作品が揃っているように思います。僕は福島県立美術館へは2度ほど行っています。もちろん、ワイエスの作品を観るためでした。その時に開催されていたのは思い出してみると、ひとつは「エドワード・ホッパー展」(2000年)、ワイエスとはまったく対称的なアメリカアメリカしていましたが。そしてもうひとつは「高村光太郎展」(2004年)でした。智恵子の作品も多数出されていました。その時は、帰りに智恵子の実家と智恵子記念館にも寄ってきました。


アンドリュー・ワイエスの作品には、二つの物語が流れていると、福島県立美術館の学芸員・荒木靖子は言います。ひとつはカーナー家の物語と、もうひとつはオルソン家の物語です。カールとアンナ夫妻は、ワイエスが住んでいたチャッズ・フォードの隣人であり、クリスティーナとアルヴァロ姉弟は、ワイエスの夏の家があるメイン州の友人でした。ワイエスの最高傑作である「クリスティーナの世界」(ニューヨーク近代美術館蔵)は、言うまでもなくクリスティーナを描いたものです。絵のモデルになるのが嫌いで、これ一枚しかないという、弟アルヴァロを描いたのが「オイル・ランプ」でした。「アンドリュー・ワイエス――創造の道程」を再度観て、今回出されている作品のなかで、「オイル・ランプ」が一番いい作品のように思いました。


さて、カーナー家ですが、ドイツからの移民だそうです。渡米してからもアメリカに馴染めずに、田舎町チャッズ・フォードに移り、農場を借りてやっと穏やかな暮らしができるようになったという。「ドイツ人の住むところ」と「松ぼっくり男爵」は、彼らのアイデンティティを表現した作品となります。作品の題名のガニング・ロックスは、ワイエスの家があったポート・クライドの沖に浮かぶ島です。モデルは、ウォルター・アンダーソン、フィンランド人とネイティヴ・アメリカンの混血で、亡くなるまで50年あまり、ワイエスのモデルを務めました。「そよ風」のモデル、亜麻色の髪の少女「シリ」は、ワイエスはクリスティーナの葬儀の時に始めて見たと言っています。「死の灰から生命が甦るようにして、クリスティーナを引き継いだ」。クリスティーナは悪化と衰弱の象徴、一方、シリは生き生きしていて湧き出るような、力に満ちたもので、生命のほとばしり以上のものだと、ワイエスは言います。シリはフィンランド人、ジョージ・エリクソンの娘で、彼もワイエスのモデルを務めています。


「冬の水車小屋」は、僕の好きな作品のひとつです。もっともワイエスらしさの少ない作品かとも思いますが、なんとワイエスは、「他の画家と違って、私の描く冬景色は叙情的なものではない。いや断じて違うね。私の作品のなかでは、あの素晴らしい寒々とした寂寥感、静謐で凍てつくような冬の現実が捉えられているのだ」と、自信のほどを示しています。「農場にて」は、カーナー家の薪小屋を描いたものです。モデルはカール・カーナーの息子、カール・ジュニアで、今回の展覧会のなかでは最も新しい、ワイエス70歳の作品です。この作品の習作も多数出されており、カール・ジュニアが薪割りの手を休め、薪の上に腰を下ろして一息ついているさまが描かれています。ワイエスは、「不揃いでおおざっぱに割られた薪の上に当たる陽の反射の様子が素晴らしかった」と語っています。



以下、福島県立美術館の所蔵作品のみを掲載します。














福島県立美術館



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