「ポロック 2人だけのアトリエ」を観た! | とんとん・にっき
2008年10月29日 11時10分08秒

「ポロック 2人だけのアトリエ」を観た!

テーマ:映画もいいかも
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日曜日の夜9時過ぎ、家人がテレビのチャンネルを変えようとしていました。また「韓流かよ」と黙って眺めていたら、ちらっと「ポロック」の文字が見えました。「あれっ、ジャクスン・ポロックじゃない?」。テレビで映画を見ると、2時間も取られてしまうのがもったいなくて、最近は見ることは少なくなっています。しかし、ただ「ポロック」の文字だけでこの映画を見始めました。最初はなんとなく暗い映画に感じましたが、しばらくするとどんどん引き込まれていきました。いま新聞の番組欄を見直してみると「ポロック 2人だけのアトリエ」という映画で、2000年の作品です。


アメリカの現代アートは、幾何学的抽象主義のアート、抽象表現主義のアート、そしてポップ・アート、この三様の流れに整理されます。現代アートのフロンティアというと、「ウイレム・デ・クーニング」、「ジャスパー・ジョーンズ」、「アンディ・ウォーホール」、「ロイ・リクテンスタイン」、等々、まだ他にもいますが、などの名前があげられます。しかし、まず始めに「ジャクスン・ポロック」(1912-1956)が出てきます。オランダの画家モンドリアンは、単純明快な矩形と線、数少ない色彩を組み合わせた幾何学的な造形で作品を形づくります。一方、ワイオミングの農家に生まれたポロックは18歳でニューヨークにやってきます。ポロックの生みだしたものは「不定形(アンフォルメル)の世界」、無制御で、混乱そのものを表現します。まったくモンドリアンとは対称的、対立的です。



ポロックは、11歳の頃に右手人差し指の先を切り落とすという事故に遭います。それが芸術家を志した少年にコンプレックスをもたらしたとも言われています。また、15歳の頃から強い飲酒癖をもっていて、しばしば専門医の治療を受けていました。ポロックの絵は、巨大なキャンバスを床にとめて、彼は四方八方、360度すべての方向から立ち向かいます。使われる絵の具は油彩に限らず、ペンキやエナメル、アルミニウム塗料、等々、棒や鏝によって、あるいは塗料缶に開けられた穴から滴り落とされ、振り撒かれ、上下左右も定かでないペイントの充満した世界をつくりあげます。多様なように見えて、実は均質な画面です。


「私が自分の絵のなかにいるとき、自分が何をしているのか意識していない。私が何をしていたかが分かるのは、一種のしっくりとして事態がきた後である」と、ポロックは語っています。「しっくりとした」事態がくるまで、肉体のなかに霊感を持続させ、そして彼の全神経、全細胞が一気に爆発し、画面に挑みかかります。写真家ルドルフ・ブルックハルトが1950年にポロックを撮影した写真が残っているという。38歳にして頭髪は抜け織り、頬はそげ、額には深い皺、窪んだ眼孔の顔が写し出されているという。その写真から6年後、ポロックは自動車運転中に事故死します。



さて映画「ポロック 2人だけのアトリエ」、ピュリッツァー賞受賞の原作に惚れ込み、10年かけて構想を練り上げ、製作、主演に加え、自ら監督として初メガホンをとったのはエド・ハリスです。1941年、29歳のポロックのもとに、同じ展覧会に出品している女性画家リー・クラズナーが突然訪れるところから始まります。お互いに惹かれ合った2人は共に暮らし始めます。いち早くポロックの才能を認めたリーは、業界につながりが多く、ポロックをデ・クーニングらの前衛的なグループに紹介します。そして富豪の娘である画商、ペギー・グッゲンハイムがポロックと契約し、彼の名は注目され始めます。45年の秋にポロックとリーは正式に結婚し、ロングアイランドの農家に引っ越し、自然に囲まれた静かな生活を始めます。


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だがポロックの絵は売れず、批評家には叩かれ、次第に経済的に行き詰まっていきます。ポロックが失意の時を献身的に支えるのは、もちろんリーです。しかし1947年、ポロックはドリップ・ペインティングという独自の手法を編み出し、瞬く間にアート界のスターになります。やがてスランプに陥り、アルコールに溺れ、筆を取ることも稀になります。ついには若いファッションモデルと愛人関係を結び、リーはヴェネチアへと旅立って行きます。そして56年8月11日、ポロックはルースと彼女の女友達を乗せて飲酒運転、車は大破して3人は即死してしまいます。


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ポロックの10代から患うアルコール中毒や自己中心的な性格が、この映画ではリアルに描かれています。ポロック独特のドリッピングの制作過程は、たいへん興味深いものです。ポロックが乗り移ったように、エド・ハリス自身が全身でキャンバスに向かって描いています。エド・ハリスは、画家であるとはどういうことなのかを実際に絵を描いて心理的に理解しようとしたという。この作品でアカデミー賞助演女優賞を受賞したという、リー役のマーシャ・ゲイ・ハーデンは、自分の画家としての才能を抑えて、夫に創作意欲をかきたてる苦闘を見事に演じます。アーティストが主人公ですが、ひとりの男の波乱の人生と、妻のひたむきな愛を描いた、好感の持てる佳作です。
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