私が、聴いている。 | pacoの日記

pacoの日記

小さな港町
からの
ひとりごと








少し前のこと。

足を休めようと、船のチケット売り場の自動販売機に向かった。

神戸の港にある、少し閑散とはしている海の側、の。


缶コーヒーを買って、丸いベンチの端っこに腰掛けた。


いつもはとても静かなその船着き場の待ち合い。

その日は何だか人が多くて、ガヤガヤと賑わっていた。

定年を迎えて新たな人生をこれから歩むーといった面持ちのご夫婦、

とても着飾った中年の女性、それを見送るため犬も連れた家族・・

そんな感じの人々が集まっていた。

少し疲れていた私は、なるべく人の顔が見えないように

うつむきながら、コーヒーをすすっていた。


遠くから音楽が聴こえてきた。

いつも静かなのに、今日は有線でもかけているのかな?

クラシックだった。 

ワルツやメヌエットのような、ちょっと宮廷じみた感じのするもの。

何これ? 有線にしては、華やかすぎる音の奥行き!

ふっと顔を上げて、音のする方を探した。


向こうに、人が演奏しているのが見えた!

そしてその向こうのガラス越しには、大きな豪華客船の白いデッキが見えた(・∀・)

あぁ~! 今日は神戸に大きな船舶が停泊しているんだったな。

ちょっととなりのオバちゃんに聞いてみると、

なにやらインド洋の方の南の島を巡るクルーズに出かけるらしい。

それは、3か月やもっと、1年間程のクルーズもしている船らしい。


へぇ~と思いながら、またその有線のようだと思ったー

あらかじめ録音されたかのようにキッチリとやる(演奏)、

その人達に目をやった。



フルートを吹いているその男の人は、

浅黒い顔をした60代のフィリピンの人のような・・ヒスパニック系の人だった。

ギターを弾いている人、そしてウッドベースを弾いている人は

どちらもアジア系の人のように思えた。40代くらいの。

何となく、韓国か中国・・の人のように見えた。

3人編成のバンドだった。



フルートの人の演奏や音量、完璧だった。

初めに有線みたいに聴こえたのも、メロディラインがあまりにも・・

完璧で、狂いがないものだったからかもしれない。

伴奏のギターのお兄さんは、弾いているのが気持ちよいようにー

少し笑顔を浮かべながら、弾いていた。

ウッドベースのお兄さんも、完璧なベースライン

流れるようなベースラインを、寡黙な面持ちで。



そしてその音楽、華やかな気持ちをもり立てるようなそれをー

誰も聴いてやしなかった。



人々の会話が、騒音がそれを上から塗りつぶす。

その近くでは何かの着ぐるみを着たアルバイトのような女の子が

タップのステップを踏みながら、

乗船前のお客の機嫌をとって いた。





だから、私は耳を澄ました。

演奏している音が聴きたかった。

こんな所で、こんな生の演奏を聴けることも 

滅多に無い。





しばらくして、演奏が終わった。

どうやらお客が船に乗船するらしい。

アナウンスが流れて、皆が乗船口に整列し始めた。

ウキウキした顔をしながら。



ベースの人は無言で、すぐさまケースに大きなウッドベースを仕舞った。

ギターの人は少し布でギターを拭いてから、仕舞う。

フルートのおじちゃんも、無言でしゃがみこんで

小さなケースに 仕舞う。

演奏会やなんかであるような拍手なんて、

もちろん 無いさ。



何事も無かったように3人は無表情で、

船員専用の入り口へと 向かった。






ああ、船で働いている人達 なんだな。。

あの人達は、楽器を演奏する以外に、

船のデッキをモップで拭いたり、

お客さんがディナーで出払っている頃に

部屋の掃除を行ったりー

そんな仕事ももしかして、するのかな・・?

そんな事を考えた。




あの長い航海の時間の間、

あの人達は楽器を演奏し、そして船の仕事をして

そういう風に海の上での仕事をこなして

いつ、今度 自分の国の地上に降りるのかな・・

そんな事を 考えた。


今度いつ、自分の家族に逢えるんだろう。

今度いつ、自分の音楽をちゃんと聴いてくれるような人達の前でー

演奏 するんだろう・・・。












ー 私の父は昔、チンドン屋のアルバイトで、アルトサックスを吹いていた。


私が小学生の頃、よく母に、

「お父さん、演奏してるから聴きに行こか!」と誘われ、

兄弟そろい 散歩がてら、近所のパチンコ屋の所まで聴きに行った。


チンドン屋といっても、誰かが和服着てカツラを被ったそれではなく、

ちょっとバカっぽい赤と白のシマシマの服に、カンカン帽子。

黄色の人がディキシーランドジャズをー気分を盛り立てるようなアレンジで、

面白可笑しく演奏していたような気がする。

リーダーの人はちょとおどけながら、トランペットを振りながらアクションをする。


パチンコ屋の前を行き来する人達は皆 足早で、

誰もそれを立ち止まって聴く人は 居なかった。



弟か誰か、

「なんかお父さん、かっこ悪い・・早く帰ろぅ~」と呟いた。



だけど私は、そうは思わなかった。

音楽の仕事をするということは、

そういうものだと、その頃に 感じていた。


父は、演奏する時、もしも誰もそれを聴いていなかったとしても

自分のスタイルで自分の演奏をするー。

そういうような事を、話していた。


だから、

私は聴きたいと思ったし、

聴いていた。


他の誰もがそれに気付かなかったとしても


私が、 聴いている。



チンドン屋のアルバイトが終わると、

父は「バンで着替えてくるからちょっと待ってて」といいながら、

そそくさとサックスのケースを母に預けて行った。

そして、帰りに皆で中華料理を食べに行ったりした。

お代は母が、その日の父のバイト代で 支払った。








そんなで・・

風に乗ってでも

どこからか音楽が聴こえてくると、

どうしても聴いてしまう。

そんな癖が ついた(^_^;)





でも、もしね

誰も聴いていない演奏があるとしたらー

それでも一人くらい聴いてっても・・

いいんじゃない!?^^




私が、

聴いているから。


きっと誰かが


聴いている。


















映画「海の上のピアニスト」より

' Playing Love '


















今日は月が綺麗ですね^^

また 満ちてきてる..満月




おやすみなさ~い流れ星







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