32時間の中銀ウオッチを控える市場関係者、政策の道筋見極めに腐心 | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の今日午後のブルーンバーグ記事。
ご参考まで。
なお、図表は以下の原サイトで確認されたい。
 
Bloomberg News

  • 今週は日銀とFOMC、英中銀が政策決定を発表

  • 日銀国債買い入れ減額幅が期待下回れば円強気派に打撃か

  主要経済国からの相反するシグナルによる金融市場の混乱を経て、投資家は今週、世界金融政策の短期的動向に関する疑問の答えを必死に探すことになる。

 

  日本銀行は30-31日の日程で金融政策決定会合を開き、米連邦公開市場委員会(FOMC)も同じ日程で開催される。8月1日にはイングランド銀行(英中央銀行)金融政策委員会(MPC)の会合もある。トレーダーは、日銀が利上げを行うのか、また、米金融当局と英中銀がいつ、どの程度利下げするかを見極めようと苦心している。

 

  焦点は最近の円高とポンド高、そして米短期債利回りの低下だ。金融政策や経済成長の見通しが不確かなため、先週は多くの金融市場で神経質な動きとなった。シンガポールのメイバンク証券の機関投資家向け株式セールス取引部門責任者、ウォン・コクフン氏は「今週はもっと面白くなるし、もっと疲れるだろう」と話した。

 

  今週の各国中銀の動向に関するトレーダー向けのガイドは以下の通り。

日本銀行

  長期にわたり金利をほとんど変えなかった日銀が、今後どのような行動に出るのか、市場は不確実性に包まれている。

 

  植田和男総裁は今回、決定会合前に公の場での発言を控え、異例の長さの沈黙を守っている。最新の経済データでは、インフレが加速している一方、個人消費は期待外れの結果となっている。

 

植田日銀総裁の異例の長い沈黙、決定会合前の利上げ思惑交錯の要因に

 

  さらなる金融引き締めはありうるとの見方から先週は円高が進んだ。当局が円安の進行を止めるため市場介入したとの推測もあり、7月11日以降、円は対ドルで約5%上昇した。

Yen Rally on Narrowing Yield Differentials | Dollar-yen approaches 200-day moving average after breaking 100-day gauge

 

 

 

  不確実性を強調するように、オプショントレーダーが織り込む利上げ確率は先週、40%から90%近くに急上昇した後、その中間あたりで落ち着いた。ブルームバーグの最新調査によると、エコノミストも同様に不確実性を感じている。今週の会合での利上げを予測したのは3割程度にとどまったが、約9割がリスクシナリオとして今会合での利上げもあり得ると回答した。

 

日銀は今週利上げ適切か慎重に判断へ、物価は目標軌道も消費に弱さ

 

  円で借りた資金で高利回り資産を買うキャリー取引といった、レバレッジを効かせた投資の多くが円と相互に関連しているため、円の急激な変動は瞬く間に世界市場に波及する。このところの円高は、豪ドルやメキシコ・ペソを含むあらゆる通貨戦略を台無しにした。

 

  植田氏が行動を起こさない場合、特に、日銀による国債買い入れの減額幅が期待を裏切る水準だった場合、円強気派は打撃を受けることになる。とはいえ円弱気派も、今週のFOMCで当局が今後数カ月の米利下げ期待を高めるようなことをすれば、脅威にさらされることになる。

 

  今も円弱気派だというサクソ・キャピタル・マーケッツの通貨戦略責任者、チャル・チャナナ氏は「日銀が一回の決定会合で、利上げと同時に国債買い入れ額も調整するとの期待は、本質的にハト派である中銀としては無理があるように思える」との見方を示した。

 

「異常な」円高、早ければ来週にも崩壊か-日米両当局からリスク

FRB

  投資家は、米金融当局が9月にも利下げに踏み切るとの期待を裏付ける材料がないか、31日のFOMC声明とパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長の発言をくまなくチェックするだろう。

 

  このような動きは、年内に25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利下げが少なくとも2回行われると完全に織り込んでいるエコノミストやスワップトレーダーの見解と一致する。政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標は現在、1年前に達したピークである5.25-5.5%に据え置かれている。

 

  政策当局者らは数週間前から、労働市場の均衡とインフレの鈍化を指摘している。世界最大の経済大国である米国で、借入コストを引き下げる必要性が高まっているとの見方を示唆するものだ。

 

  「米金融当局が政策を景気抑制的な領域からより中立的なものへと移行する方針を示す中で、次回のFOMCでは9月の利下げに向けた準備が行われるだろう」とINGのチーフ国際エコノミスト、ジェームズ・ナイトリー氏は述べた。

 

Treasuries Are Set for an Advance in July | Third monthly gain would mark longest streak since 2021

 

 

 

  前ニューヨーク連銀総裁のウィリアム・ダドリー氏や、英ケンブリッジ大学クイーンズカレッジ学長のモハメド・エラリアン氏といった一部の市場ウオッチャーは、現在予想されているよりも積極的な金融緩和が必要だと主張している。ダドリー氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムで、今週のうちに利下げを検討すべきだと述べた。エラリアン氏も別のコラムで、米金融当局が長期間にわたり金利を高水準で維持すれば「政策ミス」を招く恐れがあると警告した。

 

  米国債相場は、2021年半ば以来となる3カ月連続上昇で7月を終える勢いだ。利下げへの確信の高まりを受け、ブルームバーグの米国債指数は今月、2年ぶりの高値を付けた。緩和的な金融政策が導入されるとの見方から2年債利回りは低下し、10年債との利回り格差が縮小している。

 

  一方で米国株式市場は、いくつかの企業の決算で消費者の購買意欲に疑問符がつけられたこともあり、やや不安定な足取りで週明けを迎える。S&P500種株価指数は今月、2%以上下落しない連続日数の記録を07年の世界金融危機の初期以来初めて更新したが、24日の大幅下落で記録は途切れた。

FRBは利下げで後手か-トレーダーは大幅金融緩和の可能性も視野に

イングランド銀行

  英中銀が8月1日に新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以来初の利下げを決め、現行の5.25%から引き下げるかどうかを巡り、市場の意見は分かれている。

 

  物価上昇率は1年前の2桁台から中銀が目標とする2%に落ち着き、失業率は上昇している。ただ、サービス部門の価格上昇率は依然として高く、経済は浅いリセッション(景気後退)から立ち直ってきた。4月に最低賃金が10%上昇し、7月に発足した労働党の新政権が、さらなる引き上げに加え500万人もの公共部門労働者を対象に、インフレ率を上回る昇給を行う方針が物価を押し上げるリスクがある。

 

  7月の選挙以来、MPCのタカ派メンバーのうち3人が金融緩和に反対する立場を表明している。それに反論する意見を表明しているのはハト派2人のうち1人だけだ。

  どのような結果になるにせよ、この決定は債券とポンドに影響を与える可能性が高い。26日のスワップレートは、今週中に0.25ポイントの利下げが実施される可能性を50%程度織り込み、同幅の利下げが年内に2回実施される可能性はほぼ確実視されている。


  バンク・オブ・アメリカ(BofA)、ドイツ銀行、野村ホールディングスは、MPCが5対4の賛成多数で今月の利下げを決めると見ている。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)も利下げを予測している。

 

  利下げが実施されれば、金融緩和の見通しや労働党大勝による政治的安定への期待からすでに上げている英国債相場がさらに上昇するだろう。2年債の利回りはこの1年以上で最も低い水準にある。

 

  ポンドにとっては、利下げはそれほど有益ではない。キャリー取引の対象としての魅力が損なわれるからだ。ポンドは今年、G10通貨の中で最もパフォーマンスが良かった通貨で、JPモルガン・チェースやアムンディなどの大手銀行・投資家は、ポンドが現在の水準からさらに5%近く上げ、1ポンド=1.35ドルまで上昇すると予測している。強気の見通しは過去最高を記録している。

 

英中銀利下げ開始も、1日決定発表-緩和サイクル入りの期待けん制か

 

原題:Traders Fret as 32-Hour Central Banking Spree Hangs Over Markets(抜粋)