【コラム】日本化しつつある中国、大手高級ブランドも懸念-レン | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

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「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の今日午後のブルーンバーグ記事。
かなり興味深い。
ご参考まで。
 
なお、図表は以下の原サイトを参照されたい。
 
【コラム】日本化しつつある中国、大手高級ブランドも懸念-レン - Bloomberg
 
 
コラムニスト:Shuli Ren

  • 90年代の日本と同様、中国の消費者も「バリュー・フォー・マネー」

  • 消費したいと思わせるハードル上昇-欧州高級ブランドに逆風

  世界で最も強靱(きょうじん)な高級品コングロマリット、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンでさえ寒気がする。その風は東から吹き付けている。

 

  パリに本社を置き、「ルイヴィトン」や「ディオール」などを保有するLVMHが先に発表した4-6月(第2四半期)の売上高は1%増にとどまった。新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)の初期を除けば、世界金融危機が深刻化していた2009年以来の低い伸びだった。営業利益率は低下した。

 

  マイナス金利を名目的に終了しても、止められないほどの円安が主因として挙げられている。高級ファッションの頼みの綱である中国の富裕層は、有利な為替環境を利用して日本で買い物をし、そこでの売り上げを57%押し上げる一方、中国の業績は振るわなかった。

 

  「カルティエ」や「ヴァン クリーフ&アーペル」などブランドを抱えるスイスのリシュモンも、日本での売り上げが大きく伸びたと発表。欧州のファッション産業にとって、日本での好調な売り上げは必ずしも幸運なことではない。コストベースは欧州通貨であるため、円建ての売上高はトップラインや収益性を損ねる。

 

  日本での価格はかなり低い。バーンスタイン・リサーチによると、日本では「ティファニー」や「ブルガリ」「シャネル」が中国に比べて6分の1(約17%)ほど安い。中国勢は世界の高級品市場で26%のシェアを持つが、その3分の1超は海外で消費されている。これらの企業が多額の投資を進めてきた中国で消費が鈍っているのだから、二重の打撃だ。

 

  しかし、円安は世界的な高級ブランドの苦境を招いている根本的な原因ではない。もっと憂慮すべき材料がある。それは日本化だ。中国の消費者は1990年代の日本人のような行動を取り始めている。中国経済が痛みを伴う住宅市場の調整に見舞われる中、消費者は忍耐強く、合理的な買い物客になりつつある。80年代のバブルが崩壊した後の東京を思い出してほしい。

 

  欧州は言うまでもなく、米国でさえ後れを取っているように見えたバブル期とは異なり、日本の消費者は高級ブランドで全身を固める余裕がもはやなかった。このような状況で、消費者は「バリュー・フォー・マネー(金額に見合った価値)」の発想を受け入れ、ローカルブランドが発展する余地を与えた。

 

  ユニクロは98年にパタゴニアの数分の1の価格でフリースを発売し、一躍脚光を浴びた。最新ファッションをいち早く取り入れるファッショニスタも着こなしを楽しんでいた。安価なユニクロや無印良品に高級ハンドバッグを合わせるのだ。JPモルガン・チェースによれば、輸入ファッション販売全体に占めるハンドバッグの割合は1994年の26%から2004年には43%に上昇した。

 

  こうしたスタイルは中国人にも受け入れられている。金銭的に余裕がある若い女性から人気を集め、インスタグラムとピンタレストの要素を組み合わせたプラットフォーム「小紅書」では、日本人のようにそれほどお金をかけなくても見栄えが良くなる着こなし方をビデオブロガーがユーザーに教えている。そのレッスンとはどういうものか。髪型やスキンケア、細かいところが重要なのだという。

返品急増

  ソーシャルメディアや電子商取引は、金額に見合う価値という概念を全く新しい水準に引き上げている。欧州ファッションはなお経済的成功の象徴であり、インフルエンサーやファッショニスタらはオンラインで商品を注文し、インスタ映えする写真や、夜の外出でこうしたアイテムを披露し、その後無料で返品するようになった。オンライン小売業界が高級品の返品急増で打撃を受ける中、リシュモンの高級電子商取引プラットフォーム、YNAPは中国から撤退することになった。

  また、バーバリーやヴェルサーチェのように、売れ残った商品をプライベートセールやアウトレットなどのディスカウントチャンネルに出しているブランドには幸運を祈る。正規の値段で購入するよう中国の消費者を納得させるには一苦労するだろう。

 

  手頃な価格の商品で多数のファンを獲得し、中国本土に900を超える店舗を持つユニクロでさえ、抜け目のないインフルエンサーからの猛攻と無縁ではない。ユニクロを展開するファーストリテイリングは3-5月に中国で「大幅減益」を記録。消費者がより手頃な価格の代替品に切り替えているとの認識を示した。

 

  考えられる理由の一つとしては、かつて頻繁に行われていたユニクロの販促がなくなりつつあるとの買い物客の不満が挙げられる。そして、似た商品をより安く見つける方法に関する情報がオンラインで出回ったのだ。

 

  中国人は20年もの間、欧州の高級ブランドを購入してきた。彼らに消費したいと思わせるハードルは上がっている。まさに日本の一世代前のように、中国の消費者もそれぞれのセンスと感性を見つけたのだ。

 

(シュリ・レン氏はブルームバーグ・オピニオンのアジア市場担当コラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Big Luxury Frets China Is Turning Japanese: Shuli Ren(抜粋)