FRBの1年間の高金利政策が米経済に及ぼした影響-グラフで検証 | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
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「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の今日のブルーンバーグ記事。
かなり有益。
ご参考まで。
なお、興味深い図表は以下の原サイトを参照されたい。
 
FRBの1年間の高金利政策が米経済に及ぼした影響-グラフで検証 - Bloomberg
 
 
Jonnelle Marte

  • FRBは1年間にわたり政策金利を約20年ぶり高水準に維持

  • 利上げは幾つかの予想外の影響ももたらしている

  米金融当局が政策金利を20年余りぶりの高い水準に引き上げてから1年がたち、過熱した米国経済を若干抑制することに成功した。ただ、利上げは幾つかの予想外の影響ももたらしている。

 

  高所得世帯は株式市場の活況や住宅価値の上昇による恩恵を享受している。企業は急ピッチで借り入れし、消費者は支出を続けている

  しかし、その一方で、1年間に及ぶ高金利はついに打撃を及ぼし始めている。米国人の求職期間は長期化し、失業率は上昇している。中小企業は高金利の融資から痛手を受けている。比較的低所得の世帯では、自動車ローンやクレジットカードの延滞が増えている。

 

  シティグループのエコノミスト、ベロニカ・クラーク氏は「ここ2、3カ月に状況は軟調に推移しているが、さらに急速に軟調になり始めたら、米金融当局はかなり懸念するだろう」と指摘した。

 

  米金融当局は30、31両日の連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を据え置くというのが大方の予想だが、投資家は9月の利下げ開始を予測している。それまでは、米金融政策が経済にどのような影響を及ぼしているのか、あるいは及ぼしていないのかを見極めることが、労働市場に打撃を与えずにインフレ抑制を目指す当局者の指針になるだろう。

住宅市場

  利上げは米国の住宅市場に最も明確な影響を及ぼしており、米金融当局の政策は借り入れコストの上昇だけでなく、住宅価格の高騰にも拍車をかけた。家計の住宅購買能力を示す住宅取得可能指数は、過去30年余りのデータで最低水準に近い。

 

  全米不動産業者協会(NAR)によると、住宅ローン金利が7%前後で推移する中、中央値の住宅を購入する人の住宅ローン支払額は5月に2291ドル(約35万2000円)と、3年前の1205ドルから上昇した。

株式ブーム

  金利上昇は通常、企業投資や成長を減速させることで、株価の重しとなる。しかし、投資家はこうした懸念をほとんどものともせず、その結果、株価は新たな水準に上昇するとともに、米国人の退職金口座の残高も増加した。

 

  米金融当局が2022年3月に利上げを開始して以来、S&P500種株価指数は約25%上昇し、家計資産は約3兆ドル増加した。

 

  しかし、米金融当局がすぐに利下げに踏み切らなければ、「市場は脆弱(ぜいじゃく)になるだろう」とムーディーズ・アナリティクスのチーフエコノミスト、マーク・ザンディ氏は指摘。「現在の株価には投資家の利下げ期待が織り込まれている」という。

労働市場

  米国の労働市場は高金利にもかかわらず、何度も減速の見通しに逆行してきたが、ついに冷え込みの兆しを見せている。

 

  雇用の伸びは2年前の過熱した水準から鈍化し、企業の求人数も減少している。米国人の離職率は低下しており、失業者が仕事を見つけるのは一段と難しくなっている。

消費の堅調

 

  富裕層の世帯や退職者は債券投資や預貯金から絶え間なく収入が得られるため、高金利そのものが消費を支えていると主張する人もいる。しかし、多くの世帯、特に借金で生活費上昇に対応している低所得世帯は、高金利による圧迫を感じている。

企業の借り入れ

  高金利にもかかわらず、大企業はこれまでと同水準の借り入れを行っている。各社は、米利下げ前に少しでも高い利回りを確保しようとする年金基金や保険会社などの長期投資家からの旺盛な需要を好機と捉えている。

 

  しかし、中小企業にとっては大きく様相が異なる。フィッチ・レーティングスによると、通常は変動金利であるレバレッジドローンのデフォルト(債務不履行)率は、今年5-5.5%のレンジに上昇すると見込まれている。実現すれば09年以来の高水準となる。

 

  TDセキュリティーズのクレジット戦略担当マネジングディレクター、ハンス・ミケルセン氏は「米金融政策のために大きな痛みが生じており、多くの企業が破綻している」との見方を示した。

 

原題:How a Year of the Fed’s High Rates Has Affected the US Economy(抜粋)