掲題の今朝のウォール・ストリート・ジャーナル記事。
かなり説得的。
ところで、プーチンのロシアでさえ、
政策金利を18%として9%のインフレを大きく超える
プラスの実質政策金利を維持してインフレ抑制に努めている。
植田日銀はインフレが約3%もあるのに、
未だに政策金利は事実上のゼロ金利に据え置いて、
大幅マイナスの実質政策金利に押し下げている。
なるほど、先週末時点で、
日本円は対ドルで年初来約9%も下落しており、
また、対ロシア・ルーブルに対して約13%とさらに下落して、
アルゼンチン・ペソやトルコ・リラと
世界の最弱通貨の地位を競い合っているのが
植田日銀というわけだ(苦笑)。
いずれにしても、以下は貴重な情報で参考になる。
ロシアはウクライナでの戦いを継続する一方、国内ではインフレとの戦いで劣勢を強いられている。
ロシア中央銀行は昨年、物価を抑制するために金利を2倍以上に引き上げた。ところがインフレ率は上昇し続け、今月は約9%に達した。さまざまなモノやサービスが割高になり、ジャガイモは年初から91%、エコノミークラスの航空券は35%上昇している。
ロシア中銀は26日、政策金利を2ポイント引き上げて18%とした。世界で今年に入り利上げを実施した中銀は少ない。
インフレはロシアの戦時経済における極めて特徴的な現象となっている。先進国の大半では物価上昇が緩やかになる一方、物価安定を巡りロシアの苦境は深まっている。
政府による軍事支出の急増に加え、働き盛りの男性の出征や徴兵回避の逃亡などに伴う深刻な労働力不足を背景に賃金や物価が上昇している。また、米国による追加制裁措置が国際決済の複雑化を招き、輸入業者のコストをさらに押し上げている。
経済危機や社会不安を引き起こすほど物価上昇が急速なわけではない。しかし、インフレは経済の裏側で拡大する不均衡を映し出す。頑固なインフレは戦争遂行のコスト拡大も意味し、軍事費のさらなる拡大につながる。
ロシア中銀の元職員で、現在はカーネギー・ロシア・ユーラシア・センターのフェローであるアレクサンドラ・プロコペンコ氏は「インフレとの戦いにおいて、ロシア当局には良い選択肢がない。戦争をやめることも、労働問題を解決することも、賃金の引き上げを抑えることもできない」とし、「戦争が続く限り、インフレは高止まりするだろう」と述べた。
プーチン氏悩ますインフレ、戦時経済を圧迫© The Wall Street Journal 提供
プーチン氏悩ますインフレ、戦時経済を圧迫© The Wall Street Journal 提供
ロシア政府は25日、物価抑制策に取り組んでいること記者団に語り、インフレの一部の側面が政府と中銀にとって懸念事項になっているとの認識を示した。
ウクライナとの戦争開始に伴いロシア経済は落ち込んだものの、政府や企業が欧米による制裁を迂回(うかい)して石油を他国に販売する方法を見つけたことで持ち直した。
同時に、大きな転換が訪れた。
軍事費はソ連時代のように経済成長の柱となり、国内総生産(GDP)の約7%を占めるほど拡大した。戦車やドローン(無人機)、兵士の衣類を生産する工場は週7日、複数シフトで稼働した。その結果、賃金は上昇し、物価高が広がった。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は5月、長年国防相を務めてきたセルゲイ・ショイグ国防相を退任させた。後任として起用したのは、マクロ経済学者であり、国家による経済への介入を支持するアンドレイ・ベロウソフ氏だった。アナリストはこの人事について、いまや経済と戦争が深く絡み合っていることを象徴するとの見方を示す。
ロシア中銀は昨年12月以降、政策金利を16%という比較的高い水準に据え置いてきたが、物価にはほとんど影響がなかった。住宅価格の高騰を抑制するため当局は今月、政策金利を大幅に下回る8%の金利で提供してきた住宅ローンの補助金を打ち切った。この支援制度は戦争による国民への影響を緩和する役割を果たす半面、不動産バブルを生み出した。
JPモルガンのアナリストは最近のリポートで、金融引き締めに対するロシア経済の耐性は「依然として興味深い現象だ」と記した。
「これは財政拡大と労働市場の極度の逼迫(ひっぱく)という状況における金融政策の限界を明確に示している」。そう指摘するのはウィーン国際経済研究所のエコノミスト、ワシリー・アストロフ氏だ。同氏はロシア全体の人口と労働力人口の減少に触れ、「中銀は財政政策に対してほとんど影響力を持たず、人口動態に関しては全く影響力がない」と話した。
ロシア中銀は最近の報告書でインフレ率を低下させる取り組みについて、従来の中銀見通しと比べ金利を「はるかに長い期間」高水準で維持する必要があるとの見方を示した。
伝統料理のボルシチの材料であるビーツやサワークリームなどの価格を追跡しているウェブサイト「ボルシチ指数」によると、今年は昨年と比べ価格が26%上昇している。
ロシア人の間では、インフレは市場経済への痛みを伴う移行期だった1990年代の経済危機の記憶を呼び起こす。値上がりを受けて消費を抑えたり、休暇の計画を縮小したりする人もいれば、通信アプリ「テレグラム」でどこで買い物をするのが得策かを話し合い、協力し合う動きもある。
労働力不足の深刻化も、インフレ高進の大きな要因になっている。ロシアでは毎月3万人もの兵士が動員される一方で、数十万人が徴兵を回避するために逃亡した。
プーチン氏悩ますインフレ、戦時経済を圧迫© The Wall Street Journal 提供
ロシアの人口減少は労働力不足を悪化させており、当局は高卒者や大卒者の数が減少していると報告している。長年にわたり労働力の供給源となってきた移民の数も減っている。当局は3月に発生したテロ事件を受けて入国管理を厳格化しており、この傾向は続くとみられる。ロシアの首都モスクワ郊外のコンサート会場「クロッカス・シティ・ホール」で起きたこの事件では、140人以上が死亡した。
ロシア中銀によると、企業では高度な専門知識を有する労働者と低スキル労働者の両方が不足している。
ロシアのデニス・マントゥロフ副首相は先月、政府の防衛部門は過去1年半の間に民間から50万人以上の労働者を引き抜いたにもかかわらず、専門性の高い人材が約16万人不足していると述べた。
米国が今年発動した制裁措置では、ロシアと取引する外国銀行が「二次的制裁」に直面するリスクが高まった。このため、ロシアの輸入業者は苦しい状況に立たされている。ロシアに対する中国の輸出はここ数カ月減少している。制裁が圧力となり、トルコの対ロシア貿易も停滞している。
ウィーン国際経済研究所のアストロフ氏は「ロシアと『グローバルサウス』のパートナーは通常、いずれ制裁回避の方法を見つけ出す」と話す。同氏はただ、米国が手綱を緩めることはなく同じことが繰り返される可能性が高いとの見方を示し、「結局、代償を払わされるのはロシアの消費者と企業だ」と述べた。