掲題の今朝の毎日社説。
一理あるものの、問題なしとしない。
「欧州各国の指導者には、
市民から向けられた不満に真摯(しんし)に向き合い、
政治への信頼回復に努めることが求められる。」とは、
言うは易く行うは難しだろう。
また、EUは「多様性のなかの統合」を希求するとはいうものの、
そもそもその多様性がどのように担保されているのだろうか。
また、統合という名のもとで、いたずらに中央集権的な
官僚主義が蔓延っていないのだろうか。
特に、欧州の単一通貨ユーロを共有するユーロ圏では、
財政政策が統合されていないのに、
むろん通貨は一つであり、
金融政策も各国の中銀が依然として形式的に存続しているとはいえ、
欧州中銀が政策金利の運用を独占しており、
また各国国債を買い取る量的緩和政策の運用も、
その公正性、透明性、首尾一貫性が担保されていない。
いずれにしても、EUなかんずくユーロ圏は、
現在、一方でインフレと低成長が併存し、
他方で移民や難民が急増することに加えて、
ロシアのウクライナ侵攻への支援疲れという多重苦の中にある。
こうしてEUはいま統治の深刻な危機に直面しており、
特に、独自の金融政策と通貨をもたないユーロ圏の政治不安は、
生来の対外債権国と債務国の非対称性の問題もあるだけに、
右派躍進による分断や分裂の危機は
懸念だけではすまない恐れがあると危惧せざるをえない。
民主主義やリベラルな価値観に基づいて国際ルール作りをけん引してきた欧州で、内向き志向が強まることを懸念する。
欧州連合(EU)の立法機関である欧州議会の選挙が加盟各国で実施された。統合の推進を掲げる会派がかろうじて過半数を維持したが、EUの現状に批判的な「自国第一主義」の右派や極右勢力が躍進した。
背景には、移民・難民の急増やロシアのウクライナ侵攻に伴う物価上昇などへの人々の不安がある。気候変動対策など、EUの厳しい環境規制への反発も大きい。有効な処方箋を提示できない既成政党に対する不満を極右などが吸収した形だ。
注目すべきは、EU内で中心的な役割を担う仏独両国で右傾化に拍車がかかっていることだ。
フランスでは極右政党「国民連合」が与党連合の2倍以上の議席を得た。大敗を受け、マクロン大統領は国民議会(下院)解散と総選挙の実施を決めた。有権者に極右台頭への危機感を訴えて巻き返しを図りたい考えだが、政治的な賭けの側面が強い。
ドイツでも排外主義的な右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が、ショルツ政権の連立与党3党の各議席数を抜いた。
2度の大戦を踏まえた非戦の誓いが欧州統合の原点だ。EUは、民主主義や法の支配、人権などの価値を重んじる規範的な存在として、国際秩序を支えてきた。発足以来、東欧の加盟や単一通貨「ユーロ」導入などを統合の原動力としてきたが、近年では求心力に陰りが出ている。
加盟国民には、EUのエリート官僚が政策を押し付け、市民生活がないがしろにされているとの不信感も根強い。
最近では、強権的なハンガリーのオルバン政権がウクライナ支援に難色を示すなど、足並みの乱れも目立つ。今後、統合に批判的な勢力が影響力を増せば、域内で分断が進み、不寛容な政治潮流が広がりかねない。
EUのモットーは、少数派を尊重する「多様性の中の統合」である。欧州各国の指導者には、市民から向けられた不満に真摯(しんし)に向き合い、政治への信頼回復に努めることが求められる。