2024年3月マンスリー:平成超え令和バブルの大崩落がやってくる! | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

 

 

2024年3月31日

 

 

2%物価安定目標を事実上反故にする岸田政権と植田日銀

 

岸田首相は3月28日(木)夜の記者会見で、「デフレを後戻りさせないことに岸田政権の存在意義があり、デフレ脱却の道はいまだ道半ばで、緩和的な金融環境が維持されることは適切」として、日銀と密接な連携を継続する」等と述べたようです(ブルーンバーグ記事参考資料①ご参照)。
 
しかし、遺憾ながら、岸田首相はいまだに物価面でのデフレと経済実態面での長期停滞を混同して、頭の整理が付かない様子です。あるいは、物価の趨勢的な下落を意味するデフレと慢性的な消費不振を中核とする長期経済停滞とを意図的に混同・混乱させて、国民を欺いているのだとすれば無責任との誹りを免れません。
 
このように政府と日銀による信頼に足らない指導力の下では、政治とカネの不祥事で大揺れの日本政治はもとより、日本経済やその金融市場が制御不能に陥りつつあるのは無理もないというべきでしょう。

 

日本のインフレも欧米同様に「一過性」にあらず

 
いずれにしても、物価の趨勢的な上昇と定義されるインフレが、既に過去2年間も物価安定目標の2%を超えてきており、日本経済はインフレ下にあることは客観的で揺るぎない事実です。
 
例えば、最新の2月全国消費者物価指数(CPI)によれば、政府・日銀が国民に対して過去11年間も物価安定を約束してきていたはずの物価安定目標のベンチマークである生鮮食品を除くコアCPIが前年同月比で+2.8%の上昇を記録しています。
 
しかも、電気・ガス事業者への経産省による補助金による物価押し下げ効果(マイナス0.5%分)をそのコアCPIインフレ率に足し戻してやれば、真の(本来の)コアCPIは2月に前年比+3.3%の上昇であったと推定できます。
 
さらに、一般に、一時的な影響を受けやすい生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPIは2月に前年比+3.2%上昇を記録しています。日本以外のG7各国では、食品とエネルギーを除くコアCPIを重視する傾向にあり、むしろ、日本版コアコアCPI変化率のほうがG7主要先進国におけるコアCPIインフレ率と同等であり、より国際標準に近いとみるべきでしょう。
 
いずれにしても、我が国の趨勢的な物価上昇を意味するインフレも、FRBやECBが2021年当初に誤認したような一過性とは言い難く、我が国でも特に低所得者層を中心として生活費高騰の危機がいまでも一般家計を直撃し続けてきているのです。
 

低所得者層ほど生活費高騰の危機に直面

例えば、我が国の生鮮食料品を除く食料品価格は2024年2月に前年比+5.3%上昇しました。なお、昨夏には日本の同食料品価格が前年比で二桁に迫る物価上昇率を記録することさえ許してしまっていたのです。このような我が国の耐え難い生活費高騰の危機という事実はかなり重いと言わざるを得ません。

なお、電気・ガス料金に関する生産者への補助金は本年5月で終了が既に政府決定されたばかりです。

 

後述しますが、我が国では2024年度を迎えようとしているいま、さらなる日本円の通貨安、世界的な原油高、そして米国でのインフレ再燃の兆しなど、内外のインフレ・リスクは後退するどころか、むしろ増幅されてきていると見ざるを得ません。

 

岸田首相が「デフレ脱却はいまだ道半ば」などと、インフレ・リスクを軽視するような認識は明らかに誤っており、百歩譲っても、インフレに関する「認知の遅れ」が甚だしいと批判せざるをえません。

 

結局、日本経済は物価の趨勢的な上昇というインフレ時代に既に突入してきており、物価の趨勢的な下落というデフレ時代は既に終わり、このまま金融と財政政策の双子の総需要刺激政策が続く限り、インフレ高進のリスクはむしろ高まるばかりと見ざるを得ません。

 

 
10%消費税率と高インフレ税のダブルパンチで長期消費停滞から抜け出せず
 
一方、物価面を離れて経済の実態面を、それを映す鏡とされるGDP統計(2023年10~12月期)で見れば、インフレ調整後の実質ベースで個人消費(GDPの約6割を構成)が3四半期連続で前期比縮小し、企業設備投資(同約15%を占める)も、GDP2次改訂で最終的にプラス転換したとはいえ、2023年7~9月期まで2期連続の前期比縮小に陥っていました。
 
日本経済全体としては、2023年10~12月期において、かろうじて二期連続となる前期比マイナス成長を免れて、リセッション(景気後退)入りを回避出来ました。しかし、2024年1~3月期のGDPは、家計消費や鉱工業生産における資本財出荷等の月例データを見る限り、再びかなり高い確率で前期比マイナス成長に陥りかねないと危惧されます。
 
いずれにしても、日本経済は特にアベノミクスの下での2014年4月の消費税率8%への恒久的引き上げと、2019年10月における同10%への恒久的再引き上げ等を主要因として、その後個人消費が慢性的な不振に陥ってきました。これら消費税率の2度にわたる恒久的引き上げは、アベノミクスの2つの足枷と見るべきでしょう。
 
加えて、2022年春以降には2%物価安定目標を超えてきた物価上昇の結果として、インフレ税の重しが加わることで、高消費税率と高インフレ税というダブル・パンチ、あるいはそれら両者の掛け算部分を加えたトリプル・パンチによって、家計の可処分所得がインフレ調整後の実質ベースで大きく棄損され、長期消費停滞が一段と深刻になってきています。
 
つまり、恒久的な高消費税率(10%)に加えて、最近のインフレ税の高まりによって、日本経済はマイナス成長の慢性的な悪循環に陥るリスクを排除できないのです
こうして、冒頭で懸念したように、岸田政権が、「デフレを後戻りさせないことに岸田政権の存在意義があり、デフレ脱却の道はいまだ道半ばで、緩和的な金融環境が維持されることは適切」として、日銀と密接な連携を継続する」等と述べたことは、むしろ日本経済全体にとって悪夢のような政策スタンスとみるべきです。
 
なぜなら、そのような大きく錯誤した経済政策スタンスは、一方で、日本経済をさらなる通貨安とインフレ加速に追いやり、資産バブルの一段の増幅を煽りかねず、他方で消費と投資の悪循環を悪化させることで、我が国を一段と深刻で慢性的な長期停滞に追いやる不吉な知らせと言わざるを得ないからです。

 

日銀マイナス金利解除はあまりに遅すぎて小出し過ぎる

 

そのようなインフレと長期消費低迷というスタグフレーション色に彩られる混沌とした日本経済と通貨安や株高などの資産バブルがまさに沸騰中の中、ようやく日銀がマイナス金利政策の解除を柱に「異次元緩和」と呼ばれた異例の金融緩和策からの脱却を決めました。

 

具体的には、3月18〜19日の金融政策決定会合で金融機関から預かる資金の一部にマイナス0.1%の金利を課す仕組みの廃止を決め、今後は翌日物の市場金利を0〜0.1%の幅で誘導すると日銀はしています。長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)と呼ぶ長期金利を抑える措置も撤廃し、上場投資信託(ETF)などは新規購入を終了しました。

 

しかし、日銀は長期国債を買い取る量的金融緩和(QE)を止めるわけではありません。これまで同様に月額7兆円もの巨額の国債買取りを続けて、長期金利の上限を1%程度で固定する事実上の長期金利釘付け政策の継続を日銀は決めたのです。

いずれにしても、日銀の政策転換は余りに遅きに失しており、小出しに過ぎないと言わざるを得ません。

 

2%を大きく超えるインフレ状況を所与として、政策金利を高々0.1%程度の名目プラス圏に戻したところで、政策金利をはじめとして短期金利ならびに長期金利は全てインフレ調整後の実質ベースでマイナス圏に大きく沈み込んだままです。

 

より肝心な今後の金融政策に関する正常化の道筋に関して、植田総裁は極めて恣意的な言及に終始しており、日銀の金融政策の今後は余りに不透明であり、無責任とのそしりさえ免れないでしょう。

したがって、マイナス金利解除後も大幅な通貨下落や株バブルの増幅が止まず、今後も物価や通貨の安定はおろか、資産バブルの制御も期待できないのは止むを得ません。

 

要するに、小出しで遅きに失した日銀金融政策の「正常化」は、我が国のインフレ加速と資産バブルの増幅を既に制御不可能にしてきており、日本経済とその金融市場は、早晩、深刻な危機に陥ることが必至と見ざるを得ないのです。

 

いずれにしても、インフレと消費長期停滞そして資産バブル増幅という未曾有の経済危機には、経済の原則に則った金融政策の粛々とした正常化に加えて、消費税撤廃に向けた消費税率の5%への恒久的な引き下げという金融と財政政策のマクロ経済政策のポリシー・ミックスなしには対処できないことは、本マンスリーで繰り返し申し上げるまでもないでしょう。

 

令和バブル制御不能

 

ここで、改めて令和バブルが既に制御不能になっている事実を指摘しておきたいと思います。ドル・円為替レートは2022年4月初めの121.64円から、2024年3月末時点では152円台に迫ってきており、僅か過去2年間で約24.4%の大幅円安・ドル高を記録しつつあります。

 

他方、日経平均株価は、2022年4月初めの2万8203円から、2024年3月末終値は4万369円と、実に+43.1%もの大幅高を記録しています。

 

明らかに2022年4~5月ごろから本格化した米FRBの連続大幅利上げの開始と、当時の日本のマイナス政策金利とYCCを中心とした異次元金融緩和の墨守を背景とした我が国のインフレ高進と資産バブル増幅とは単に相関関係だけでなく、日米の金利差拡大を名目と実質ベースで共に助長してきたことで、明らかに因果関係を持つと考えざるを得ません。

日本単独の通貨介入は無効で逆効果を生む恐れも

 

神田財務官が3月29日(金)に、「今の円安の動きは「反対方向という意味で強い違和感」を覚えると述べたニュースが国際金融市場ではかなり注目されました(参考資料③3月29日付ブルーンバーグ記事)。

 
確かに、神田財務官の主張は、異次元金融緩和のモラルハザードを指摘している点で、かなり評価できますが、全体として問題なしとしません。
 
なぜなら、直近で152円を突破するような円安の動きではありますが、日米のファンダメンタルズの動向と整合的であり、投機的とは必ずしも言い難いためです。
 
既述のように、日銀によるマイナス金利解除は余りに遅すぎて小出しに過ぎませんでした。しかも、わざわざ金融緩和的な環境をマイナス金利解除後も当面維持すると植田日銀は主張し続けてきています。
 
日本のインフレは足元で3%超えてきており、我が国の長短金利は押しなべてインフレ調整後の実質ベースでマイナス圏に深く沈み込んできています。
 
 加えて、日銀は長期国債の買取り(QE)を止めておらず、10年国債の利回りは約1%水準での釘付け政策が事実上維持され続けてきています。
 
これに対して、FRBは長期国債の量的緩和(QE)でなく、量的引き締め(QT)を続けてきています。
 
 
さらに、米国のインフレは再加速の兆しがあり、FRBの利下げ期待は裏切られる可能性が小さくありません。
 
いずれにしても、名目でも実質ベースでも、日米の長短金利差は縮小するどころか、当面、一段と乖離していく確率がむしろ高いと見ざるを得ないのです。
 
このように、直近の円安の動きは日米の経済ファンダメンタルズと整合的であり、財務官のように強い違和感をもつのは客観性に欠けており、主観的あるいは恣意的に日米経済とそれらの金融市場をみているからではないかと懸念せざるをえません。
 
結局、日本の単独介入では所詮一時的な効果しか生まず、米国のインフレ再加速や米長短金利の再上昇という状況次第では、対ドルで152円を超える円安は十分に起こり得ると考えるべきでしょう。
 
このため、単独介入は無効となり、通貨介入失敗という結果が、かえってさらなる円暴落という悪循環に拍車をかけるおそれなしとしないかもしれません。
 
いずれにしても、日本経済(名目GDP600兆円弱)の約7倍もある米経済(名目GDP約28兆ドル)と国際金融市場全体の主流の動向を侮っては危険というものでしょう。
 

FRBのアキレス腱:2+2=2.5!?

ところで、米政策金利の引き下げを期待する向きが内外で優勢となっているかに見られるものの、最近の米経済データはむしろインフレ再加速の兆候を示唆しており、米政策金利はむしろ今後再度引き上げられる可能性さえ排除できないでしょう。

 

パウエルFRBは当初こそ植田日銀同様にインフレに関する「チーム・一過性」に属して、インフレの認知に失敗して利上げに大きく遅れをとることでビハインド・ザ・カーブとの厳しい批判に晒されました。

 

しかし、2022年4月頃からは大幅な連続利上げを断行して、現在では名目政策金利を5.25~5.50%の範囲にまで引き上げて、実質政策金利を明らかにプラス圏にまで回復させて、その後のデイス・インフレ(インフレ低下)に貢献してきました。

 

但し、パウエルFRBにはまだアキレス腱が存在していると言わざるを得ません。

 

なぜなら、インフレ目標の2%と潜在成長率あるいは長期実質GDP成長率2%(実際には現在1.8%)を足し合わせた名目の中立金利は4%であるべきであり、FRBのFOMC(公開市場委員会)のいわゆるドットチャートの中立金利2.5%(3月に2.6%へと僅かに上方修正)とかなり矛盾するからです。

 

このような低すぎる米中立政策金利が金融市場での早期の大幅利下げ期待を促しているとすれば、FRBのアキレス腱は米経済ち国際金融市場の健康体を、早晩、深刻に蝕みかねません。

 

いずれにせよ、恐怖指数(VIX指数)が2023年11月以降に通常の20%を大幅に下回って、いまだに14%程度の低位で推移してきており、国際金融市場全般がかなり慢心してきていることが懸念されます。

 

令和バブルは2024年度中に大崩落する!

2024年度の世界経済と国際金融市場は、既述のような内外の様々な深刻なリスクを背景に、昨年度11月以降にあまりにも慢心してきてしまった反動もあって、遺憾ながら、大きな調整を免れないでしょう。また、2024年11月に予定されている米大統領選も鬼門となりえます。

特に、日本経済とその金融市場では日本円のさらなる大幅安やインフレ高進のリスクの中で、今後の金利急騰リスクも顕在化すること等で、平成超え令和バブルの大崩壊が2024年度中にやってくる確率は五分五分どころか、主観的ではありますが約75%とかなり高いとみざるをえないでしょう。

 

残念ながら、日本の政治経済体制は世襲化・特権化が深刻化して、自民党安倍派を中心とする政治とカネの不祥事からの出口は見えてきません。

 

また、アベノミクスの三番煎じに過ぎないキシダノミクスとその番犬に成り下がってしまったかに見えるウエダノミクスは、インフレと消費長期停滞および少子化からなる日本経済の3重苦の解消など期待できず、通貨安や日本株等の資産バブルの制御にも大きく失敗することはほぼ確実と見ざるを得ません。

 

しかし、日本に希望がないわけでは決してありません。消費税撤廃に向けた消費税率の5%への恒久的引き下げと金利の正常化を粛々と進めるという財政と金融政策のポリシー・ミックスさえあれば日本の大復活はまだ可能です。

結局、日本大復活は我々の自覚と強い意思だけにかかっているのです。

 

 

中丸友一郎

元世界銀行エコノミスト

 

 

 


[1] 換言すれば、民間主導の消費と投資という双発エンジンが全開になることで、経済に好循環が生まれるという経済学上の古典的なモデル(サミュエルソンの乗数と加速度係数による好循環モデル)が期待する展開が阻害されて、日本経済は力強い持続的成長を達成することができないのです。