掲題の今朝の読売社説。
問題なしとしない。
物価高の中の日本経済再生のためには、
賃金上昇を好循環の中核に据え等と説く社説に
どれほどの客観性や理論的な根拠があるのだろうか。
昨日紹介した全米経済学会年次総会でも、
賃金と物価の好循環などと主張する論者は
皆無と見て間違いない。
賃金は労働市場の中で、
労働生産性等の同市場の需給に応じて、
労使間の交渉の中で自ずと決定されるべきもの。
主として民間主体で決定される賃金に
政府が介入すれば、
それは好循環ではなく、
賃金と物価の悪循環という
インフレスパイラルに陥りやすい。
それが(欧)米経済学の常識だ。
日本の常識は
少なくとも米国では非常識に過ぎない。
日本経済は7~9月期に実質GDPが3期ぶりの
前期比マイナス成長に転落したのは周知の事実。
最も深刻なのは、民間主導の持続的成長のための
双発エンジンである消費と投資が
2期連続で前期比でマイナス成長に陥っていることだ。
消費と投資の悪循環に陥っているのが
日本経済の現実なのである。
「財政再建は待ったなし」?
同社説タイトルにあるように、
「日本経済再生」こそが待ったなしではないのか?
そのためには、むしろ、
アベノミクスとは真逆のベクトルを持つ、
①消費税撤廃、②利上げ、③産業政策撤廃の
「国民ファーストの新三本の矢」しかあり得まい。
いずれにしても、同社説を代表とするような
日本の主要メデイアの信頼は、既に、
地に落ちていると言っても過言ではあるまい。
自民党最大派閥の安倍派を中心とした
「政治とカネの不祥事」。
加えて、能登半島地震における人命や人権軽視や
復旧・復興への対応のお粗末さ。
さらに、インフレを加速し、
資産バブルを煽りかねない
異次元金融緩和を物価が2%を大きく超えて、
既に2年目を迎えようとするにもかかわらず、
未だに止めないキシダとウエダノミクス。
このような恣意的で、
非論理的で、また倫理観さえ欠如する
「日本経済再生シナリオ」に、
物価高を克服する好循環など
生まれるはずもないではないか。
同社説は猛省が必要であろう。
◆日銀は金融政策の適切な運営を◆
日本経済がデフレから完全に脱却し、成長への好循環を実現できるかどうか、その正念場となる年が幕を開けた。政府と企業がともに、変革への決意を新たにする時だ。
国内の物価動向に、明らかな変化が起きている。消費者物価指数(生鮮食品を除く)は昨年11月に前年同月比で2・5%上がり、27か月連続でプラスとなった。国民は物価高に懸念を強めている。
◆賃上げは企業の責務に
当初は、エネルギー価格の高騰や円安などによる輸入物価の値上がりが中心だったが、最近は、人手不足を背景に、サービス価格にも上昇傾向が広がっている。
無論、物価高は庶民を苦しめる。だが、そのピンチをチャンスに変えていくことができないか。
バブル崩壊後の日本経済は「失われた30年」と呼ばれる。
物価が上がらないため、企業は売上高が伸びず、コスト削減を徹底して利益を確保しようとした。おのずと賃金は抑えられた。日本の平均賃金は、主要先進国で最低水準に沈んでしまった。
賃金が増えないと、消費者は節約に励む。それがさらに物価を押し下げるという悪循環から、なかなか抜け出せずにいた。
海外から波及した物価高で、ようやく企業は賃上げの重要性を認識し始めた。連合によると、昨年の春闘の平均賃上げ率は3・58%で、30年ぶりの高水準だった。
だが、物価上昇を加味すれば、まだ足りない。物価の影響を取り除いた実質賃金は、昨年10月まで19か月続けて前年同月比でマイナスだ。実質賃金を、プラスに押し上げることが不可欠である。
主要上場企業の最終利益の合計は、2024年3月期決算で過去最高となる見込みだという。十分に賃上げが可能な環境にある。
物価高に打ち勝つ賃上げを断行して悪循環を断ち切り、好循環の起点としていく。そのための賃上げは、企業の責務と言える。
今春闘に向け、大手企業では7%程度の高い賃上げを表明するケースも相次いでいる。そうした流れを、雇用の7割を占める中小企業に波及させることが重要だ。
大手企業が中小企業と取引する際、人件費の増加分も取引価格に転嫁することを中小企業に認める必要がある。産業界全体で、コストカットに終始していた意識を変えていかねばならない。
気がかりなのは、好循環の実現に向けた政府の施策に、国民の共感が広がっていないことだ。
岸田首相は、所得税などの定額減税を6月に実施するという。しかし、その意義や効果についての説明が二転三転し、世論調査では反対意見が目立っている。
◆政策への共感広がらず
一時的な減税策より、継続的な賃上げの支援策の方が大事だ。
企業が、利益を内部留保としてこれ以上ため込まないよう、賃上げや設備投資に積極的な企業の税を軽くし、消極的であれば税負担を重くするなど、企業に変革を促す政策の強化が求められる。
大規模な金融緩和策を維持してきた日本銀行の金融政策も、転換点にさしかかっている。
日銀の植田和男総裁は、国債の大量購入で抑え込んできた長期金利の変動幅の拡大を容認する政策修正を行った。市場では、金融緩和策の転換となるマイナス金利政策の解除を、今春にも決めるとの見方が増えている。
植田総裁はこれまで、賃金引き上げを伴う安定的な物価上昇に至っていないとして、金融緩和を続けてきた。今春闘の結果は、政策変更の判断材料になりうる。
「金利のある世界」は、本来の経済の姿である。マイナス金利政策の解除は、デフレ脱却を前提とすれば避けて通れない道だ。
ただ、住宅ローン金利や企業向けの貸出金利の上昇につながり、景気へのマイナスも小さくない。日銀は、物価や賃金のほか、消費など景気の動向を慎重に見極め、適切に判断してもらいたい。
◆財政再建は待ったなし
日銀の政策変更は、国の財政運営にも影響が及ぶ。金利が上がれば、巨額の国債発行を続ける国の利払い負担が増えるためだ。
既に長期金利の上昇に伴い、24年度当初予算案で利払いなどに充てる国債費は過去最大となった。マイナス金利政策が解除されれば金利はさらに上がるだろう。
国の借金の残高は1200兆円を超え、国内総生産(GDP)比で2倍以上と、先進国で最悪の水準にある。政府が財政再建の道筋を示し、国民の将来不安を和らげることも、経済再生のために不可避な課題だと認識すべきだ。