掲題の今朝の東京新聞社説。
かなり説得的。
もっとも、それでも植田日銀総裁に期待するのは、
誤りか、賢明ではないと思わざるを得ないが…。
「チャレンジング」な12月日銀会合には、
新藤再生担当大臣(茂木派)が出席しているのを想起されたい。
昨年12月、外国為替市場の円相場が動きました。7日の参院財政金融委員会で、日銀の植田和男総裁=写真=が「年末から来年にかけて一段とチャレンジングな状況になる」と発言したためです。
「チャレンジング」の意味を、投資家たちは「日銀が大規模な金融緩和から本格的な脱出を図るサイン」と受け取り、金利上昇を見込んで円買いに走ったのです。発言直後、円の対ドル相場は一時5円以上値上がりしました。
ところが日銀は同月の金融政策決定会合で金融政策を修正しませんでした。しかも植田氏は会見で「チャレンジング」の意味について「気を引き締めて職務に取り組む意思を示した」と弁明し、金融市場の解釈を否定したのです。
ただ、金融政策を知り尽くす植田氏が「チャレンジング」という言葉を使えば、市場が大きく反応することを予測できないはずがない。利上げに踏み出そうと検討したが、時期尚早と判断して見送った、と見るのが自然です。
大規模な金融緩和を柱の一つとする「アベノミクス」との決別は日銀に今、課せられている最大の使命ですが、極めて難しいのも事実です。植田発言の迷走もその困難さを反映したものでしょう。
決別が困難な理由は、政権が依然、金融緩和の継続を望んでいるからにほかなりません。
日銀は金融機関経由で国債を買い入れることを中心に金融緩和政策を続けています。国債を発行すれば中央銀行である日銀が引き受けてくれる図式です。財源の心配なく大盤振る舞いをすることができ、政権にとって、こんな都合の良い政策はありません。
◆「富」はしたたり落ちず
その結果、野放図な歳出が横行し、新型コロナ禍以降に相次いだ補正編成も含めて、予算規模は止めどない膨張を続けています。
日銀総裁は国会の同意を受けて内閣が任命します。閣僚とは違うものの、時の政権が金融緩和を望めば、その意向を無視することはできない構造なのです。
アベノミクス後に上昇や膨張が目立った経済指標は、平均株価と企業の内部留保でした。
リーマン・ショックの影響で2008年10月に7000円を割り込むまで落ち込んだ平均株価は、昨年11月には一時3万3800円台まで上昇し、バブル経済崩壊後の最高値を付けました。
企業がため込んだ内部留保は22年度まで11年連続で過去最高を更新し、23年度も500兆円を大きく超える天文学的な水準で推移しています。
いずれも12年末に始まったアベノミクスの「第一の矢」である「大胆な金融政策」によって流れ出た膨大な資金と、それに伴う円安が引き起こした現象です。
アベノミクスでは当初、大企業や富裕な投資家らが潤った後、資金が国全体にしたたり落ち、景気の好循環が起きるという「トリクルダウン」のシナリオが描かれていましたが、現実は違いました。一部の大企業は資金の流れをせき止める一方、富裕層だけが株高による投資でもうけたのです。
厚生労働省が毎月勤労統計調査で公表している「実質賃金」が注目されています。実際に受け取った「名目賃金」から、物価変動の影響を差し引いて算出した指標で働く人が給与で買えるモノやサービスの量を示します。
実質賃金は昨年10月まで19カ月連続で前年同月比マイナス。賃上げが物価高に追いつかず、働く人の苦しい生活実態が、統計上はっきりと読み取れます。
インフレなら「物価の番人」である日銀の出番ですが、金融緩和の常態化により、円安に効果的な対策が取れず、物価高騰に拍車がかかる状態が続いています。
◆「街の灯」が放つ光弱く
植田氏は、アベノミクスというモンスター級の「火中の栗」を拾い、膨大なデータを丹念に分析しつつ、金融政策の最適解を懸命に探しているはずです。
コロナ禍は収束傾向にあり、繁華街に活気が戻ったといわれますが、以前と比べて飲食店などの店じまいは早く「街の灯」が放つ光も「弱々しい」と感じます。
暮らしはデータ以上に痛めつけられ、スーパーでは値札を比べて少しでも安い食料品を買い求める人々の姿が見られます。
植田氏に聞きたいのです。街を歩いていますか、自分で買い物をしていますか、と。もししていないのなら、街に出てほしい。そうすれば、データに表れない消費の実態を感じることができ、金融政策にも必ず役立つはずです。