「金利ある経済」へ変革を恐れるな | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

「金利のある経済」への移行は潜在成長率引き上げへの好機も告げている(日銀本店)

掲題の今朝の日経社説。

一理あるが、問題なしとしない。

 

同社説のタイトル

「「金利ある経済」への変革を恐れるな」とは、

誠に心強い。

 

しかし、そのための理論的な枠組みが同社説には存在しまい。

 

そもそも、日本経済の持続的な経済成長のための

双発エンジンである消費と投資は好循環どころか、

過去2四半期にわたり連続で前期比縮小してきている。

その結果として、7~9月期実質GDPは全体でも

3期ぶりにマイナス成長に転落した。

 

10~11月までのこれまで公表されてきている経済指標を見る限り、

遺憾ながら、消費と投資の好循環に基づく

民間主体の持続的な経済成長は起きていまい。

 

あるのは少子化と口減少下の、

高インフレと資産バブル増幅だけに過ぎまい。

 

賃金と物価の好循環を睨むとはいうものの、

いつまでも睨んでいるだけではラチがあくまい。

 

肝心の財政も金融政策も景気刺激一辺倒では、

生活費高騰の危機のなかで、

もともと10%の高消費税率とのダブルパンチや

トリプルパンチで家計消費は委縮するばかり。

その結果、資本財出荷で見る限り、

10~11月期にも企業設備投資は低迷してきていると見られる。

 

つまり持続的な経済成長のための

双発エンジンたる消費と投資が、ともに不振が続き、

おそらく2024年もこれらの低迷は続いていくのは不可避であろう。

 

賃金と物価の好循環とは、現実にも、

また、理論的にも起こり難い蜃気楼に過ぎない。

いつまでも賃金と物価の好循環を睨んでいても、

いたずらに時間と経済資源を浪費するだけだ。

 

おそらく、1月の日銀金融政策決定会合でも、

12月会合同様に、最悪の場合、新藤経済再生大臣等が同席し、

カメレオンとも巷では噂される植田日銀総裁としては、

挑戦できずに戦々恐々とするばかりで、

問題先送りを決め込むことが関の山ではあるまいか。

 

いずれにしても、蜃気楼を眺めているだけの

キシダやウエダノミクスではいつまで経っても埒が明くまい。

 

現在は約3~4%のインフレである。

金利ある経済への変革を真剣に目指すならば、

金利の正常化に伴う、かなりの金利上昇と

景気後退リスクを減殺するためにも、

消費と投資の好循環のために、

まずもって消費税撤廃に向けた

消費税率の5%への恒久的な引き下げを

実施しなければならない。

 

そのような理論的な枠組みや英断が伴わない中で、

「日銀の精緻な分析」やら

「企業の新陳代謝高めよ」などと微調整を叫んでみても、

日本経済は空回りや悪循環するばかりで、最悪の場合、

インフレの一段の高進や

バブルの増幅等で制御不能に陥ることが関の山であろう。

 

もっとも、幸か不幸か、

一方で、自民党最大派閥の安倍派による

「政治とカネ」の不祥事が急浮上し、

他方で、既に11年目にもならんとするアベノミクス継続による

「カネ余り」現象の余りの行き過ぎによって、

「今だけ、カネだけ、自分だけ」の我が国の

社会現象を増幅するばかりに見える

日本の政治経済体制ではあるが、戦後最大の危機転じて、

戦後最大のチャンスが訪れないとも限るまい。

 

総辞職か解散かはともかく、

能登半島大地震の影響もあろうが、

総選挙はそう遠くあるまい。

 

一般国民をインフレ税や消費税等で収奪し、

民主的で包括的な政治経済体制の確立を阻んでいる

自民党等の世襲的で特権的な「上級国民」に変革を任せるのではなく、

真の民主主義と市場資本主義を確立すべく、

一般国民が変革を恐れないことこそが、

戦後最大の危機を乗り越えるカギになるに違いない。

 

いずれにしても、これらの意味で同社説は問題なしとしない。

 

 

 

新たな年を迎えた日本が問われるのは「金利のある経済」への転換だ。日銀は賃金と物価の好循環をにらみ、10年以上続く異例の金融緩和策の修正の機を探る。超低金利に慣れきった市場や財政、企業は大きな岐路を迎える。

 

好循環の実現へ、ようやく訪れた千載一遇のチャンスでもある。変化を恐れず、潜在成長率の引き上げにつながる選択をしたい。

日銀は精緻な判断を

低インフレは日本経済の長期停滞の象徴だった。海外発の物価上昇というショックを起点に企業の間で価格転嫁と賃上げが広がり、構図が変わりつつある。人手不足も賃金上昇に作用し始めた。

 

米中対立を背景にしたグローバルなサプライチェーン(供給網)見直しや気候変動対応も、構造的な物価押し上げに作用しうる。

 

日銀の植田和男総裁は4日、「賃金と物価がバランスよく上昇していくことに期待したい」として好循環を見極める意向を示した。

 

焦点は今年の春季労使交渉だ。賃上げ率が30年ぶりの高水準だった昨年の3.58%と同じ程度か上回るなら、好循環の見極めに向けた判断材料になりうる。

 

労使は賃上げが当たり前のように続く未来へとつなぐ交渉にしてほしい。

 

日銀は2016年から短期の政策金利をマイナス0.1%に置く異例の政策を続ける。低すぎる金利が長引くと、過度な円安や不動産の高騰リスクの蓄積などの副作用も無視できなくなる。好循環の持続性に自信が持てた段階で、時機を過たずにマイナス金利の解除へと歩みを進めていくべきだ。

 

その際、緻密な情勢判断とともに、丁寧な市場との対話や国民への情報発信が欠かせないのは言うまでもない。その後の利上げの可能性も精査し、市場に金利の将来像を示してほしい。

 

一方、海外経済には不透明感も強い。米連邦準備理事会(FRB)はインフレ減速を受けて利下げを視野に入れるが、景気後退の懸念は消えない。市場が円安から円高へと急転する可能性もある。不測の事態に柔軟に対応できる政策の枠組みも検討課題となる。

 

政府や企業も旧来の発想を乗り越える変革が試される。

 

政府は大規模な財政支出を伴う「痛み止め」の経済政策からの脱却が急務だ。新型コロナウイルス禍もあり、近年は巨額の補正予算が常態化した。内容も幅広い家計への給付や補助金を使った物価対策など一時的な支援に偏る。

 

財政でむやみに需要を追加するとインフレに拍車をかける懸念がある。政府の巨額資金が流れ込み、民間部門の自律的な経済活動を阻害しかねない。弱者への配慮は必要だが、十分に的を絞り、期限を意識した内容にすべきだ。

 

財政運営にも影響が及ぶ。長期金利が上昇すると国債の利払いや償還の費用が増え、自由に使える予算を圧迫する。主要国で最悪の水準にある長期債務の負荷が一段と高まる。幅広い歳出改革と、社会保障制度の負担と給付に関する包括的な見直しが急務となる。

 

日銀の緩和に過度に依存した政府・日銀の政策協調のあり方も、再設計を急ぐべきだ。

企業の新陳代謝高めよ

内需の好循環を確かなものにするには、企業の変革を通じた成長力の底上げが欠かせない。

 

価が動かないなかでの企業の最適解は価格維持やコスト削減だった。「金利のない経済」は投資機会の乏しさの裏返しであり、利息ゼロで手元資金をためこむ行動にも一定の合理性があった。

 

この先は手元資金や借金でリスクをとる行動こそが企業の成長のカギを握る。金利の復活で市場機能が高まれば、借り手の信用力を正しく映す金利体系になり、資金が成長分野に回りやすくなる。

 

企業は現状維持を是とするマインドから決別し、インフレや金利の負担を上回るリターンを果敢に追求すべきだ。米USスチールの買収に乗り出した日本製鉄の攻めの姿勢は評価できる。国内でもM&A(合併・買収)を含めた積極的な動きが広がってほしい。

 

日本の政策や法規制には、補助金などを通じて不振企業がヒトやカネを囲い込むのを助長する面が残る。金利負担がないゆえに生き残れた企業から、新たな市場を開拓できる企業へと経営資源が動くよう、人的資本の育成や労働市場の流動性の向上に努めつつ、経済の新陳代謝を促していきたい。