掲題の今朝の読売社説。
かなり説得的。
ご参考まで。
再生可能エネルギーの一つとして有望視される地熱発電で、周辺に被害を及ぼす事故が起きた。地熱発電の普及は安全性の確保が前提であることを忘れてはならない。
政府と事業者は事故原因を究明し、再発防止を徹底すべきだ。
北海道蘭越町の地熱発電の調査現場で6月29日、大量の蒸気が噴出した。敷地内にたまった水からは、基準を大幅に超えるヒ素が検出された。大気中には有毒な硫化水素も含まれていたという。
発生から2か月近くを経た今も蒸気の噴出は止まっていない。これまでに、近隣住民など約20人が硫化水素中毒などで体調不良を訴えている。地域に与える不安の大きさは計り知れない。
事業主体である三井物産の子会社の三井石油開発は、12日から掘った井戸に冷却水を注入し、蒸気を抑える作業に入った。8月下旬までに井戸の埋め戻しを完了することを目指すという。まずは、事態の収拾を急ぐ必要がある。
地熱発電は、地中からマグマで熱せられた蒸気を取り出し、タービンを回して電気を起こす。その際、有毒ガスが漏れ出る危険があるため、異常を感知した時には井戸を密閉し、噴出を防ぐ制御装置を設置するのが一般的だ。
事故は、地熱発電の適地かどうかを見極める調査のため、地下200メートル付近まで掘ったところで起きた。三井石油開発は、地下700メートルまで掘削した段階で装置を取り付ける計画だったという。
その計画が妥当だったのか、検証することが不可欠だ。
事故に対する初動の遅れも指摘されている。健康被害の情報をすぐには公表しなかった。噴出を止めるための機材の調達などにも時間を要した。危機管理体制を厳しく点検することが求められる。
地熱発電は、太陽光や風力と違って天候に左右されず、出力も安定している。温室効果ガスの排出も少ない。政府は、地熱発電を脱炭素に向けた有力な電源と位置づけ、普及に注力している。
火山が多い日本の地熱資源量は米国、インドネシアに次ぐ世界3位だという。現在の発電容量は原子力発電所1基分にも及んでおらず、拡大の余地が大きいが、今回の事故が、地熱発電の活用に水を差すことになりかねない。
政府は事故の検証に最大限、関与することが重要だ。今回の問題を教訓に、想定外の事態が起きた際の初期対応を含めて対処策を検討するなど、国が前面に立って安全対策を強化してほしい。