国産ワクチン 次に備える体制作りを | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の今朝の朝日社説。

かなり説得的。

ご参考まで。

 

 

 第一三共が開発した新型コロナワクチンの製造販売が厚生労働省で承認された。コロナでは初の国産ワクチンとなる。

 

 米ファイザー社などと同じmRNAワクチンで、冷蔵庫での保管が可能という米国製にはない利点もある。仮に国内で新たな変異株が発生した場合、海外企業がすぐにワクチンを製造してくれるとも限らない。大きく遅れたとはいえ、国内で調達できることには意義がある。

 

 ワクチンができた当初は獲得競争のようなことも起きた。自前で開発できる能力を持っておくことは安全保障上の危機管理でもある。国民の命や健康を守るだけでなく、海外に提供すれば、意義のある国際貢献にもなる。未知の病原体の出現に備えた体制作りを確実に進めたい。

 

 日本が海外に出遅れた理由を国からの支援や資金力の違いに求める声もあるが、それ以前にワクチン開発に必要な創薬のための基盤的な技術を欠いていたとみるべきだろう。

 

 2年前に閣議決定された戦略に基づき、新規ワクチン開発の司令塔となる「先進的研究開発戦略センター」という新しい組織が昨年できた。10以上の研究支援が始まり、なかにはユニークな技術もある。基礎研究力の強化、大学と企業の連携は一朝一夕になせるものではない。まずは幅広い分野を時間をかけて育てていくことが欠かせない。

 

 海外に先駆けて開発した有望な薬やワクチンを臨床試験(治験)の途中でも認めることを可能とする「緊急承認」の制度もできた。しかしながら、いかにして短期間のうちに日本発で数万人単位の大規模な治験を実施するのか、という重い課題は依然として横たわる。治験に携わる人材や病院の確保、被験者の募集まで取り組むべきことは数多くあり、企業任せでできるとは思えない。

 

 最終段階の治験については、厚労省が支援・補助する方針を示している。岸田政権の肝いりで作られる「日本版CDC」(国立健康危機管理研究機構)には、海外を含めた治験のネットワークを整備するという任務も課せられる。同機構に監督権限を持つことになる厚労省が果たすべき役割と責任は重い。

 

 一定の生産能力を確保していくことも重要だ。感染症はいつ、どれだけの規模で流行するかの予測が困難で、企業が二の足を踏む原因になっている。設備などハード面の支援だけでなく、ワクチンの買い上げや備蓄の是非についても、検討を進めるべきだ。結果として流行が起きなければ、製造しても使わない可能性もある。こうしたお金の使い方についても国民の理解を深めてゆく必要がある。