いのちをうつす | けろみんのブログ

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日記・観た映画のこと・観た展覧会の感想

2023.11.26
上野アーティストプロジェクト2023
「いのちをうつす」2023.11.16~2024.1.8 東京都美術館 ギャラリーA,C
12月21日~1月3日は休室


冷たい雨の日曜日。ネットで見た彫刻作品「アホウドリ」にグッと来たので見に行きました。観覧料は大人500円ですが、「永遠の都 ローマ展」のチケット提示で入場無料になります。

自然界に生きる特定のいきものを長い時をかけて観察し、「写生ーいのちをうつすことー」している6人のアーティストを紹介する展覧会です。

小林路子ー菌類。

キノコを描いた作品は、作者自身が書いたキャプションがとてもユーモアたっぷり。キノコは姿も性質もバラエティに富んでいておもしろい、怖い、美味しそうなど様々なことを思う。日本の風景とは思えない、薄暗い森の中などに有る不思議な物体、キノコ。撮影禁止です。

辻永ー植物。

明治から昭和にかけて日展を中心に活躍した画家。押し花のように当時の色や形、思い出もつまっている作品群。品のある素晴らしいコレクションです。




内山春雄ー鳥

バードカービングという、緻密に彫られた彫刻に色付けをし、本物そっくりに仕上げたものです。細かな羽の模様も美しく彫られていますし鳥特有の曲線でできたフォ



ルムが愛らしいです。

タッチカービングという、触って鑑賞する鳥の彫刻が40種類。これらの作品は木型からシリコンゴムで型どりし、ジェスモナイトで型抜きしたものです。鳥についての解説文も、内山春雄本人が書いています。たとえばカルガモだと

「全長が63cmほどの水鳥です。全国各地で繁殖する、渡りをしない唯一のカモです。 草の実や水草、昆虫などを食べます。」


タッチペンで触ると鳥の声も聞けます。大好きなカルガモに触れてとても嬉しかったです。

今井壽惠ー馬ー

馬と競馬の写真です。ニジンスキーやヌレエフといった海外の名馬、テンポイントやシンボリルドルフ、ナリタブライアンなどの懐かしい日本の名馬が美しく撮影されています。メインビジュアルのメジロマックイーンはもう、神馬のよう。競馬場で観戦する人も被写体です。


以下、作者のご著書からの引用です。馬と作品を結びつけるものを追い続けた過程がよくわかります。

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昔、若い頃はフォトポエムに熱中した。その心の高鳴りは、映像表現や対象が異なっても、私には変わりないことと思える。交通事故に会って視力を1年半失った時、写真は諦めていたが、回復して、初めてみた映画が 『アラビアのロレンス』だったことが、道をかえさせてしまった。アラビア馬の強さと美しさと誇りの高さは、生命の存在感をより強く、私に印象づけた。

馬の写真を撮ってどうしようと決めたわけではなかったが、3年間くらい撮りためれば、写真集が出せると思った。しかしはじめての2年間くらいは、ファインダーの中に思うような構図で馬の動きが定着できない。 あまりの難しさに、本気になって怒り狂って深入りしてしまった。

馬は馬でしかない。馬の生態写真だけで満足するならば馬との訣別のチャンスは何度もあったが、私の中を通りすぎる馬でなければ、 私が撮る必要がないのではないかと 思い詰めてしまった。

けっこう、私は私に対してうるさい。私が素直にもう一度、しっかり見える目で写真を撮りたい気持を起こさせたあのアラビア馬から伝わってきた情感が写しきれるまでは私は馬との関わりあいを投げるわけにはいかない。

写す人、それぞれに視点が在り、単純にひかれるアングルでまず写すことが大切だと思う。

今井壽惠 「サラブレッドに魅せられて」 (『今井寿恵 作品集 サラブレッド讃歌』 玄光社、1987年)より
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富田美穂ー牛ー

牛の大きな板目木版画です。名前が数字なのが経済動物らしいです。



阿部知暁ーゴリラー

大きなゴリラを大きなキャンパスに人物画のように描いています。絵本「ゴリラが胸をたたくわけ」は、ゴリラのドラミングについて、戦闘準備と思われているけど本当は仲間との会話に使っているというお話でした。



作者の言葉です

私はゴリラ画家と呼ばれている。

子供の時、檻の中にいた小さなゴリラに笑われてから、頭の中からゴリラが消えなくなった。大人になって絵を描くことに迷い、挫折しそうになっ た時、大先輩から「好きなものを描くといいよ。好きなことなら何があっても乗り越えられる」と励まされた。その時いたのが、 上野動物園のゴリラのブルブルの前。 
「私、ゴリラが好きなんです」
「だったら描けばいい」
「絵になりますか? 描けるようになりますか?」
「好きだったらできるよ」

それから日本中や世界の動物園、アフリカの森を訪ね、 ゴリラたちに会い、描いてきた。40年近いゴリラ旅の中で、いくつもの出会いや成長があり、生と死を見つめてきた。

森の中の優しい歌声、温かなまなざし、家族の愛情。 私の描くゴリラは 怒らない。穏やかな瞳で見つめている。見る人が心穏やかになることが 私の望みだからだ。そんな心境で絵を描けるようになったことこそ、ゴリラ が私に与えてくれた贈り物だと思っている。

阿部知曉

もうひとつの展覧会、「動物園にて」(観覧無料)は、関連イベント「動物園と人間」に出席したら時間が無くなりまた、後日見ることにしました。
「動物園と人間」は前半は「はな子のいる風景 イメージを(ひっ)くりかえす」の見どころ紹介。
井の頭公園にある動物園にいた最も長生きしたゾウはな子(1947~2016)の前で撮った記念写真、飼育日誌で辿り最後に記念写真を提供してくれた方々に対して行ったアンケートで当時を遡っていくという内容です。
もうひとつは人間も展示されていたという昔の話。こちらは似たような内容のPDFがネットにあるので良かったら読んでみてください。


小原さん自身が個人的に集め始めた「学術人類館」を始め - Lieko Shiga 小原さんが個人的に集めた学術人類館

あの、福沢諭吉も人間の標本として外国の本に取り上げられていたことが面白かったです。東洋人の例として……