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日記・観た映画のこと・観た展覧会の感想

2023.8.20

渋谷の渋谷区立松濤美術館で8月27日までやっていました。日本にあるありとあらゆる人形を集めたような展示でとても面白かったです。



1章 それはヒトか、ヒトガタか


 日本人にとっての人形は肉体をただ写し取ったモノにとどまらず命が宿る第2の人や神として存在する。


【人形代】

平安時代の呪殺目的の人形代。呪物です。呪いたい相手の名前をかいて井戸などに埋めておくそうです。実際展示されたヒトガタも、井戸の遺跡から発見されたそうです。平面ながらできるだけ本人に似せた、写実感。夫婦なのか、呪う相手を書いた文字の気の力の強さにゾクッときます。もちろん、人形の始まりは、もっと昔の埴輪などに遡れるのではないかと思います。


【サンスケ】

山に入る時12人だと山の神の怒りに触れるのでサンスケ人形を1人と数え、13人で入山したとのこと。木でできた抽象的なサンスケと、藁で可愛く編んで作られたサンスケがあります。じゃあ初めから11人とか13人で入山すればいいじゃんか、と思いました。ヤマコや、マタギの方の山の神への信仰心も感じられます。


2章 社会に組み込まれる人形、社会を作る人形



雛人形の始まりは平安時代貴族の「雛遊び(ひいなあそび)」というお人形遊びと、中国から来た風習で上巳(3月上旬)にひとがたに厄を移して川に流すという習慣などが組み合わさって出来たもの。




【立雛】


紙の雛人形は、金を漆で固めたような、凸凹で柄を表した紙を使い、シルエットがシンプルで上品です。


顔が丸くてかぎ鼻、ひき目なところが次郎左衛門頭の特徴だそうです。しかし雛人形は、その前の章に出てきた呪物よりずっと怖く感じます。


チラシには、

「不可解な現象や霊的現象が身の回りに発生しても今回の展示、イベントとは一切関わりがありません」

と予め書いてあります。ですよね、大丈夫☺️


人形など、何でもものを「物理的に小さくしたもの」を、「可愛い!」と思うのは何故なんでしょうね。


第3章 「彫刻」の登場、「彫刻家」の誕生


難しい章です。明治期になると外国から彫刻された美術品が入ってきてこれまでの「人形」と、ハイアートとしての「彫刻」が区別されるよぅになりました……‎誰でも持てる人形は美術品ではなく、工芸品として扱われます。

この章では彫刻の中に人形の遺伝子を感じることを意図しています。

民間で作られた小さな木彫りの人形の中にも今ならアートを感じますが当時は単なる人形、で済まされていたのかも知れません。



第4章 美術作品としての人形ー人形芸術運動


昭和になってようやく人形芸術運動が起こり、優れた人形作家が芸術家として認められるようになります。

【 堀柳女の「踏絵」】

は鏑木清方の「ためさるる日」にインスピレーションを得た作品です。小さな人形ながらも踏み絵との間や、金をつかった部隊表現、太夫の躊躇いなどがしっかり表現されていて思わず目を止めて見る作品。


第5章 戦争と人形


戦争中は、人形も戦争に行きました。出兵する人に「慰問袋」の中身として作られた人形は「慰問人形」として、政府主導で作り方が新聞雑誌などに掲載されるほどでした。少女たちはもう二度とかえってこないかもしれない兵隊さんに、小さな可愛いお人形を送るのです。手作りの人形は簡素な作りで、なんとも悲しいものです。



第6章 夢と憧れと大人の本気と


美的なものを身の回りに置き、生活を豊かにするー庶民の生活向上に貢献した、人形作家から、「リカちゃん人形」まで展示。リカちゃんの家はうちにもあった気がします!(ちょっと時代が合わないので気のせいかも)昭和42年のリカちゃん人形の着せ替えドレスは500円ほど。高いですね。母は私に手作りのリカちゃんドレス作ってくれましたよ


工業作品ではなく芸術的な人形としては、川崎ブッペの「女」が良かったです。昭和34年。とても世相を映した作品だと思いました。


第7章 まるでそこに「いる」人形


生人形という、精巧に作られ人間そっくりな人形が展示されています。ここでは吉村利三郎作 生人形 松江の処刑

というのが気になりました。少女が正座し頭を垂れ、男の人が勢いよく首を切ろうとする瞬間です。まるでポール・ドラローシュの「レディ・ジェーン・グレイの処刑」みたいではありませんか。

なんでも、愛媛県松山市三津浜で実際にあった出来事だそうです。

【松江の処刑】

松江(18)は父の経営する道場に出入りする男にストーカーされ、とうとう家に押し入り強姦されそうになったので隠し持っていた脇差しで男を殺害した。事情を知った父に「正当防衛とはいえ殺人は殺人ですからお父様の手で成敗してください」と申し出、父は承諾する。


貞操を貫き立派だとも、自分の意思で死刑を選んだ自立した女性とも言える話です。


その話に引き込まれて人形よく見なかったけれどこの人形は三津浜の小学校に保管されていたそうで作者の吉村利三郎は有名な博多人形の人形師だそうです。


第8章 商業・人形・彫刻・マネキン


日本初?のマネキン(大正14年)等。


第9章 ピュグマリオンの愛と欲望を映し出せ!


ピュグマリオンは、ギリシャ神話で自分が彫った人形に恋した男の名前です。彼は、本物そっくりに作った人形に名前をつけて本気で愛し、人形が人間になることを願ったらアフロディーテが叶えてくれた、というもの。愛欲の対象としての人形を集めた章なのかな。


ここにあるのは閉館した秘宝館にあった、「有明夫人」お下はムツゴロウが飛んで隠してくれています。有明らしいですね。


あとラブドールが3点。オリエント工業というラブドールの会社が制作したもので人間を超えた可愛さがあり、触ってないけど(そういえば同じ渋谷でラブドールの展示会あったなぁ)人間のように柔らかいそうです。この章はエロいので、ロッカー室の横の細いドアを開けて細い通路を歩いていきます。下には生人形など、地下の展示が見えます。


第10章 ヒトガタはヒトガタ


球体関節人形で有名な四谷シモン、蝋人形のドフトエフスキー、工藤千尋の最初期は、とても病んでいて、そこから回復の兆しが見えてくるような作品3点、海洋堂のアニメや村上隆とコラボした作品など。人形は商業と芸術に分かれたけれど、今はその境界も曖昧な感じです。



以上が展覧会の内容でした。この原稿を書いている間に展覧会が終わってしまいました💦松濤美術館には、どんどん冒険してほしいです。



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