テート美術館展「光」ターナー、印象派から現代へ | けろみんのブログ

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2023.7.14


国立新美術館で行われているテート美術館展に行ってきました。

イベントで見どころと展覧会開催の手順など興味深いことを聞いたので書き出しておきます。




外は暑いのに中は寒くて終わる頃にはすっかり凍えました。


テート・ブリテンとテート・モダンなどいくつかに分かれたテート。お砂糖で富を得たテートさんが美術館に寄付したいと申し出たことがきっかけで成立したそうです。私はテート・ブリテンには、2018年に1人でロンドンとフランスを回った時行きました。すごい名作が壁の上の方に。おおなんと勿体ないと思ったこと、ターナー作品がとても多かったことを覚えています。


私が見た7月14日は、キュレーターズトークがありました。テート美術館国際巡回展シニアマネージャーのローレン・バックリー氏とアシスタント・キュレーターのマシュー・ワッツ氏と新美の学芸員で、テート美術館展の見どころと巡回展を行う手順についてお話を伺いました。


【みどころ】

テーマの「光」は、世界共通の理解の得られるものとしてあげたとのこと。おおよそ制作年の古いものから順に展示しているが歴史の流れを無視して所々に現代作家の作品を入れインクルーシブな見方が出来るよう試みたそうです。


ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー


テートはターナーから遺贈された3万点の作品が中核を成している。ターナー全作品は約8万点なので、とても重要で意義深い。ターナーは1840年以降「光の画家」と呼ばれた。


「湖に沈む夕日」



ターナーの技術のいい下塗り。白い点はアルプスを抽象化したもの、ターナーが大好きだったスイス湖畔の風景を描いている


「陰と闇ー大洪水の夕べ」



科学的なアプローチをしている。ゲーテの色彩論……色は感覚的心理的に捉えるものーをベースとし、ニュートンのプリズム論に対抗している。科学的にはニュートンが正しいが、色彩は心理に関係するだろう。


ジョン・エヴァレット・ミレイ


「露に濡れたハリエニシダ」



ミレイ晩年の作品。ミレイの作品の中でかなり抽象的。朝日と光り輝く露を描いた絵肌は、乾いた白絵の具を置くところがコンスタブルと共通するものがある。


ジェームズ・アボット・マクニール・ホイッスラー


「ペールオレンジと緑の黄昏ーバルバライソ」



鎖国が解かれ浮世絵が発見されてから画家への影響は大きかった。ペルーの海戦を題材に、様式的な港の風景。明るい色が日本との文化的交流を示している


クロード・モネ


「ポール・ヴィレのセーヌ川」



1895年

モネはこの頃、平底の船を作り外から自分の姿が見えないように潜り込んで絵を書いていた。人にどんな風に描いているのか知られたくなかったからだ。光の先駆者としてターナーに関心があった。屋外で画家が描くようになったのはチューブの油絵具が出回ったことによるが、産業化が進み都市部の公害が酷くなったことにもよる。


モホイ=ナジ・ラースロー


「 KⅦ」


ハンガリー人の彼はバウハウスの教授。ロシアからの影響を受けて芸術を民間にも届けようと思っていた。1927年に「絵画・写真・フィルム」という本を出版した。絵画は芸術全ての中心であるが、今後は写真、映画が台頭するだろうといった内容。ターナーを先駆者と呼んでいた。バウハウスが変換の前触れを指摘し、従来型から新たな方法に進むのはここから。作品は光の戯れを線と面で表したものでターナーの影響を受けている。写真を現実を写す道具としてだけでなく芸術に押し上げた人である。


ヨーゼフ・アルバース


「正方形賛歌のための習作」1963~64


バウハウス出身でドイツロマン派ゲーテの影響を受け「色彩論」を生涯大事にしていた。1950年から76年まで正方形の連作を作り続けた。一見すると簡単だが実はとても複雑。どの色をどう重ねたかの記録を作品の裏に付けていた。「配色の設計」(色彩構成・配色による想像)という本を出した。色と色の組み合わせを相互依存性、平面性など書いてある。


ブリジット・ライリー


「ナタラージャ」1993



ライリーは1980年代にエジプトに行き、非常に影響を受けて彼女の色のパレットが多様化した。形がストライプにまで還元され基本20色の調和となっている。印象派への憧憬を現代化している。


ジェームス・タレル


「レイマー、ブルー」1969


タレルは絵画と全く違う技術の確信によって生まれたものを上手く使った作品。ターナーが2次元としてとらえた光を直接媒体として使う。マーク・ロスコの影響あり。心理学で勉強した「遮断して幻覚を引き起こす」ことを狙っている。


オラファー・エリアソン


「星くずの素粒子」2014



ガラスの反射を多用して観客にも反射する。光を照らす星のよう。接触(コンタクト)というテーマの展覧会用に制作されたもの。この作品の反射を受けることで来館した皆さんも作品の1部となっている、というイメージでラストに据えた。


【テートの国際的活動について】



今回の展覧会は国際的巡回展で6会場、東京は5会場目になる。この展覧会ができ上がるのにどんなプロセスを踏むか。


巡回展の使命は「英国その他の現代美術の理解を深めて欲しい」もう1つは遠い英国のテートまで来れない方のためにこちらから出向くということ。


他の国とパートナーシップという形で組織し、アイルランド、上海、ウィーンでの展覧会なども過去に行っている。

例えば2018年4~8月開催の上海、テート傑作展ー心の風景は、来場者が延べ61万8千人と、過去行った展覧会の中でも最大である。

日本での開催では2021年2月のコンスタブル展(三菱一号館美術館)2018年の「ヌード」(横浜美術館)は85000人来場した。


今回の巡回展は113作品だが日本は16点追加して129点となっている。作家数は58人、234年間をカバーしている。これまで合計で62万2千人が見ている。2021 上海 2022 韓国 2022 メルボルン 2023 ニュージーランド 2023 東京、2023~24 大阪が最後。2年半巡回している。

長い巡回展、どんな点を検討するか。


・コンセプト


今回の全体のコンセプトテーマは「光」このテーマは全世界誰もが興味をもてるものとして選んだ。一般性があるが、あり過ぎないことも選ばれた理由の一つ。

注意したのは歴史的な作品と現代作品を対比すること。例えば印象派のコーナーには草間彌生「去っていく冬」があり、どちらも「ドット」という共通点でお互いの対話が出来るようにした。


・どこでやるか?

立地をどこにするか、テートは作品の管理者に過ぎず作品全ては英国民のものなので安全性を第1に、第三者機関の担保のある場所とした。


・開催地のプログラムが合致するか?地の利はどうか?湿度、温度管理はどうか?

環境への配慮も必要でそのために今回は巡回をアジアに留めておくことで環境への負担を軽くした。


・作品の保管と状況確認、ケア

リストが出来ているか、きちんとクリーニングし、額装されているか


例えば

ジョン・ブレッド 1871年

「ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡」




この作品は光の効果が美しいので今回の展覧会の目玉として注目を集めた作品。本作はブレッドの死にあたり1902年に遺贈されたもの。黄ばんですごく汚かったものがクリーニングによって、素晴らしい光の効果があらわれた。


ぺー・ホワイト 2004年

「ぶら下がったかけら」



この作品は紙で出来ており劣化がとても心配される。ふんわり彫刻的な紙のモビールがについている。2500枚の円盤を吊り下げている繊細な作品なので、6会場中4会場のみ展示。


・移動の手続き


電球でできた作品(ダン・フレイヴァンなど)は、電球の輸入輸出許可が必要で、とても厳しかった。


・実際のレイアウトをどうするか

見たことの無い地域の知らない季節にやる展覧会はまず3Dで簡単にモデル化出来る。具体的にどこでのんびり出来るか、どこに座るのか、光をどこから入れるのか。

国によって多少の手直しをする。メルボルンの時は巡回先の作品とコラボ。そして説明書きを英語と中国語にした。理由はオーストラリアに旅行する中国人が多いことによる。アニッシュ・カプーアの2003年「イシーの祈り」は、ある会場では大きすぎて入らなかったため、別の作品で代用した。


テートの学芸員さんのお話を直接聞けて有意義な時間でした🎶


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マッドハイジ 


パール 


https://m-nerds.com/dashcam_interview 

ナマニクさんが音楽担当!