山水夢中 木島櫻谷展 | けろみんのブログ

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2023.6.10

泉屋博古館東京で「山水夢中 木島櫻谷」展を見ました。私の文が長すぎて読むのが辛い、と母から苦情がでましたので、短くしたいと思います。



木島櫻谷(このしまおうこく)は明治10年生まれ、絵師の血を受け継いで幼少時から絵が上手く、父の死後今尾景年に師事。景年が、流派の伝統を重んじる風潮と違い個性のまま制作活動することを容認していたので自分の好きなジャンル(歴史画)を描いていました。またこの頃、漢籍を学び、この頃から「論語読みの櫻谷さん」と呼ばれるほど昼は絵画制作、夜は漢籍読書の生活を生涯続けました。


大正元年「寒月」発表。今尾景年対安田靫彦を推す横山大観とで衝突して絵画の本質から外れたところでバズりました。画壇外からも夏目漱石はTwitterで木島のことをdisりました。


「木島櫻谷氏は去年沢山の鹿を並べて二等賞を取った人である。あの鹿は色といい目付きといい、今思い出しても気持ちの悪くなる鹿である。今年の「寒月」も不愉快な点に於いては決してあの鹿に劣るまいと思う。屏風に月と竹と夫から狐だか何だか動物が一匹いる。其月は寒いでしょうといっている。竹は夜でしょうといっている。所が動物はいえ昼間ですと答えている。とにかく屏風にするよりも写真屋の背景にした方が適当な絵である」

嫌味たっぷりの酷い文ですね。漱石信者らはこぞってリツイートして煽りました。それでも一等空席の二等賞第1席になり、漱石は「自分が口を極めて罵った日本画が二等賞を得ている」とがっかりしています。


そんな外野のうるささを他所目に木島櫻谷自身は、静観していました。そして大正二年には、「駅路の春」という作品を発表しました。こちらはモノトーンに近い「寒月」とは逆のカラフルで人の活気に溢れた作品で彼の壮年期の到達点はこのあたりといえます。


今回の展覧会は6月18日まで「寒月」と「駅路の春」が並んで展示されているので見逃せません。


第2展示室は細長い屏風の大作を展示するのにもってこいの所で六曲二双の大きな屏風画が2つ並んでいるのは圧巻です。長くずらりと椅子があるのでふたつの作品を少し離れたところで座って眺めるのもいいものです。


今回は旅する木島櫻谷ということで彼が遺した600冊のスケッチブックをこの度住友さん協力の元修理が完了したそうです。木島櫻谷のスケッチブックはたくさんデータベースから見ることが出来ます。高画質なのですごく拡大して筆遣いを見ることが出来ます。

https://okoku-shaseichou.com/sketchbook/









「足ざわり、手ざわり、春の土、春の木はなつかしい。一と冬の寒さからのがれて、ぽかぽかした春になると、誰しも、旅を思ふ。」


と言ってた櫻谷さんは、旅好きだったんですね。矢立てという筆入れと墨壷が一緒になったセットを常に持ち歩き、どこでも描いてしかも描くのがすごく早かったそうです。


スケッチは撮影可能ですが上に載せたデータベースにも載ってますので写真嫌いな方はデータベースでもみられます。木島櫻谷はとにかく写すことでものの形態だけでなくその本質や性格など内面的なものも描けるようになると言ってます。


「物を生きたる如くに写すにあらずして、物を生かして写す」


そうした地道な努力のうえに無駄を省いて本質だけを写し取る、晩年の木島櫻谷の作風が産まれてくるのです。


作品をいくつか挙げます。  


「寒月」 (6月18日まで展示)狐の目が印象的、この闇夜にギラりと光る眼光は画竜点睛。白い雪景色の夜を描くって本当に難しいと感じる。竹の雪のくぼみが可愛くていい。


「馬路の春」

高い視点から馬路を見下ろすように描いている。豪華な衣装の若い女がこぞって綺麗な着物を着ているのに笠で顔が見えなかったり見切れてたりして想像任せなのが良い(1人は顔を見せている)さくらも散る花びらだけで満開の桜が傍にあることを想像出来る。


「富士図屏風」

左隻の中央に富士の頂き、右はずっと伸びる麓に至って人々まで描かれている。人が大きすぎて富士山が大きく見えない気がする。人は作者のそばにいて、富士山は遠くにある?それにしては山頂の描写が細かいなと思いました。


筆さばきの衝撃

「渡頭の夕暮」 29歳作。左に春の野で杣を集める女、右に舟の船頭が描かれていて、両者の目線が会っているように見える。これは「漁樵問答」ではないか?とキャプションにあった。これは漁夫と樵(木こり)、大自然を友に悠々と生きる両者が互いの天分について語り合う中国の詩「漁樵問答」に基づいた人気の画題だそうで、漢籍に堪能な木島櫻谷らしいと思いました。



雨上がりに光さす

「万壑焰霧」         

6曲1双で、ほかの屏風と同じサイズなのにものすごく大きく見える。

深山を描くのに苦労したらしく、確かに……と思った。


「猿猴」

無理に野性を取り戻そうとしてるような、人間味のある目をしている。


眼前に広がる宇宙

「画三昧」

木島櫻谷の文庫に現存する卓が描かれ、老人が木炭で当たりを取っている。こんなふうに歳を取ろうという未来の自画像だったのでは無いか?


「峡中の秋」

大下絵と共に展示。大下絵では想像できない、スッキリとした画面になっている。滝が落ちるところに目線がキュッと収縮し、その奥の高い山々に誘われるよう。



「天高く山粧う」

ガラスなしの展示。

屏風を直に見られるので感激。



第4展示室には、ずっと仲の良かった大橋松次郎という近くの大旦那さんに、櫻谷が送った絵葉書を綺麗にアルバムにしていて、仲の良さが伺えます。字が読めなくて残念でした。幼なじみにどんな手紙をかいていたのだろう?漢籍を良くする櫻谷ですが、字はどうなんですか?どこにも上手いとその類語が見つからなかったけれど私には……読みづらい字だと感じました。

2000字くらいでとっても短いと思います。どうですか?