静嘉堂文庫 饒舌館長ベスト展 | けろみんのブログ

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2023.5.20

静嘉堂文庫美術館(世田谷区岡本)

河野館長傘寿の祝「饒舌館長ベスト展」

2023.5.20~28の8日間限定の展覧会です。

静嘉堂文庫が丸の内に移って8ヶ月。ですが今回は懐かしの世田谷の方の本物(?)の静嘉堂文庫での開催です。



傘寿ということで8日間とか、18点の作品数とか(何故か友情出演でさらに5点ある)8にこだわっているところがユニークです。


久しぶりの緑いっぱいの静嘉堂文庫は「ようこそいらっしゃいました!」と丁寧な挨拶で出迎えられ、ロッカーの場所をエレベータで案内してくださるなどホスピタリティに溢れていました。



館長が大好きな作品、気になる作品を選んだというだけあって、少ないながらも濃い内容です。去年静嘉堂文庫(丸の内)の開館時に見たのと同じものが幾つかありました。展覧会としては物凄く少ない展示なので、ギャラリートークのある日(最終日)がいいと思います。私は随分早く到着したので、人の少ない展示室で大きな屏風を遠くから眺めました。とても良い気分です。



ギャラリートークは、7月に80歳を迎える河野館長が展示室内で語ってくださいました。14時から時間が決められてないのでいつまで喋るのかと思ったらスタッフさんが「そろそろ閉館のお時間です」とお声がけした16時25分まで止まらぬ熱いトーク(1度小休憩あり)。トーク内容は大勢の客がいる中で肉声で語られているので中々聞き取れませんでしたが2時間半立ちっばなし(しかもその前にサイン会をして)エネルギッシュです。聞いていて皆さん爆笑する場面が多々あり、気持ちの良い時間でした。なので、トーク内容はうろ覚えです。


俵屋宗達の国宝絵画をメトロポリタン美術館に貸し出したこと(あさきゆめみしという漫画も同時に展示された)、宮川長春の浮世絵の素晴らしさ、南画と呼ばれる文人画が人気がないので流行って欲しいことなど、「天才天才と連発する人は美術の本質が分かっていないと、北大路魯山人が言ってたが……この人は天才だ!」とか、「文人画の良さについて語って欲しいと言われ題名は美術館側でつけてと依頼したら『意外と楽しい文人画』になっちゃった。やはり人気は無い」など、楽しいエピソードがいっぱいでした。小柄なのにエネルギッシュなお姿に元気をもらいました。



「四条河原遊楽図屏風」戦国の世が収まって平和を満喫する人々を描いた作品。コロナ明けの今と同じ感じかな?ヤマアラシの見世物小屋の看板が可愛い。「佐渡島歌舞伎」を見学する人々の重箱の中のお菜もリアルに描かれていて見ていて飽きません。犬の曲芸、左隻には西洞院「道喜歌舞伎」を色っぽく踊る男装の遊女がいます。


尾形乾山「色絵定家詠12ヶ月花鳥図色紙皿」鳥がいっぱいです。、鴨が居なくて残念。


英一蝶「朝暾曳馬図」鎌倉時代の「一遍聖絵」以来影を描いている作品はこの作品まで現れません。日本人の美意識に、影はどのように映っていたのか改めて思う作品です。


狩野探幽「波濤水禽図屏風」右隻が波打つ海、ウミウ、ゆりかもめが描かれ、左隻には同じく波打つ湖、多分マガモ(顔に白斑があるので違うカモ)の番が飛んでいて(尾のところが雄だけカールしているところもちゃんと描かれている)オシドリが、仲良く寝てたり、水にもぐったりしています。鴨好きには、たまらない作品。水墨の波涛に、繊細な色彩で描いた鳥たちが浮き出てとても素晴らしい。「狩野探幽は写生を最初期にチャレンジし、それまでの粉本を元にしたイメージの世界と、写生によるリアリズムが上手くバランスを取って入っている」そんなところに河野館長は惹かれる、とのこと。


友情出演で野々村仁清のサギ、ほら貝、吉野山茶壺、鳳凰徳利、組風俗盃があります。8にちなんだ18点の展示とのことで、こちらは数に入らないものです。どれも見事で心奪われます。鳳凰徳利の精巧な絵付、見事な発色には見入ってしまいました。


酒井抱一「波図屏風」尾形光琳の金地の「波濤図屏風」(メトロポリタン美術館所蔵)に着想を得たとの事。銀がまだ銀色らしさを残していて、水墨だけに見えて緑が所々効いている粋な作品。

波の屏風が2つ、瀟洒なものが並んでいました。

「本人も自慢心の作品、と手紙に書き表している。抱一はやった!光琳を超えた!と思ったに違いない特別な世界、洗練されたエネルギーを感じる」とのこと。


国宝 俵屋宗達「源氏物語関谷澪標図屏風」は同じく国宝の「風神雷神図屏風」とちがい、落款があるのがポイントのひとつ。「俵屋宗達は自然の中に人を解き放った。関谷と澪標2つの源氏物語に共通することは・願解き・愛する男性の解放である」とのこと?(うろ覚え)あと、描き直した場所があり宗達はとても微妙な感覚で画面構成を作り出したことが分かるとも。


館長の大学卒論テーマであった円山応挙など、美人画を集めたコーナー。


鈴木其一「雪月花三美人図」は隣の宮川長春の時代風の浮世絵美人画です。宮川長春「形見の駒図」は、曽我物語の見立絵です。ストーリーそのものではなく、その頃流行りの浄瑠璃を見て描いたと考えられます。芸能が流行ってそれに着想を得て作品を作る感じが素晴らしいとのこと。

円山応挙「江口君図」は写実的な象に普賢菩薩の化身である江口君が乗っています。この頃応挙は象を見る機会があったと思われ、写実の中にも想像力を駆使して描いた日本のリアリズムだと思います。

河野館長は猫が好きなので原在明「朝顔に双猫図」という可愛い猫の絵もあります。すやすや眠っている子猫は可愛いです。もう1匹は蝶を見ています。表装には、蝶の模様の裂が使われていました。



その隣には南画が、4幅並んでいます。

南画を文人画ともいいますが河野館長は「中国の画家はプロフェッショナルとアマチュアに分かれていて、プロは画院画といいアマチュアは他の学問全てに優れ、その余技として描いていたのが、文人画」とし、「日本の南画画家も中国の学問や、詩を研究してその余技として描いてきたのだから、文人画と呼んであげたい」とのこと。昔の人は漢詩と共に文人画を味わったが、今は漢詩を読む人も少ない、と。館長は、何編かの漢詩を朗朗と歌い上げました。意味わかんないけど音が綺麗でした。

「池大雅は天才だ、与謝蕪村は大器晩成型でとりわけ晩年の5ヵ年に描かれた作品が素晴らしい。木米は文人画ブームがきたとしたら注目されるかもしれない。今の人は漢詩の部分を読まなくても、絵の中の人物になった気分で絵に感情移入して見たらどうか」のようなお話でした。


最後に酒井抱一の、日記などや、「絵手鏡」があります。72図のうち10図程が展示され、あらゆるジャンルの絵画を抱一が学んだことが分かります。


23点の作品をじっくりながめ、楽しいトークを拝聴し、世田谷でも珍しい手付かずの自然を眺め、もう来られないと思った静嘉堂文庫に来ることが出来て嬉しかったです。



ナマニクさんコーナー!