令和7年度(2025年度)年金制度改正に向けて、社会保障審議会年金部会の議論が再開されました。
今回は、現時点(令和6年9月時点)で判明している「令和7年度遺族年金制度」の改正案について概略を見てみたいと思います。
※あくまで現時点における改正議論の方向性を示したものですから、以下に解説する通りに法改正されると確定・決定しているものではないことに、ご留意ください。
【1】 遺族厚生年金の改正案について
⑴ 配偶者と死別した「子のない配偶者」に対する遺族厚生年金の男女差の段階的解消
現行法においては、配偶者と死別した「子のない配偶者」に対する遺族厚生年金は、「妻」に対しては期限の定めのない「終身年金」とされており、さらに、夫の死亡時に40歳以上65歳未満であるときは、「中高齢寡婦加算」(遺族基礎年金の額の4分の3に相当する額)も加算されます。
なお、平成16年の厚生年金保険法改正により、夫の死亡時に30歳未満であって、子を有していない妻にあっては「5年間の有期年金」と改正されたものの、夫の死亡時に30歳以上であれば、依然として「終身年金」とされています。
一方、「夫」に対する遺族厚生年金は、妻の死亡時に「55歳以上」でなければ遺族厚生年金の受給権は発生せず、さらに、60歳に達するまでの間は原則として支給停止とされているため、法制度上、大きな男女差が存在しています。
※昭和29年の厚生年金保険法大改正により、子を有しない妻に対する旧遺族年金は、夫の死亡時に40歳以上でなければ受給権は発生せず、さらに55歳に達するまで支給停止されるという仕組みができました。今から考えると、例えば、夫死亡時にギリギリ40歳であった妻は、旧遺族年金が支給される55歳に達するまでの15年間、どのように暮らしていたのか気になるところですが(夫死亡時に40歳未満であった子のない妻はどうしていたのか、さらに気になるところではありますが)、この仕組みは、昭和40年厚生年金保険法改正により廃止されています。この55歳に達するまで支給停止というのは、当時、女性に対する旧老齢年金の支給開始年齢が55歳とされていたことに対応させたものです。
さて、この遺族厚生年金について、社会保障審議会年金部会では、令和6年7月30日、次のような改正案を示しました。
①改正法施行日前に受給権が発生している遺族厚生年金については、現行制度の仕組みを維持する。
②養育する子がいる場合の遺族厚生年金については、現行制度の仕組みを維持する。
③60歳以上の高齢期の夫婦の一方が死亡したことによって発生する遺族厚生年金については、現行制度の仕組みを維持する。
④60歳未満で配偶者と死別した「子のない配偶者」に対する遺族厚生年金は、「5年間の有期年金」とし、年齢要件に係る男女差を解消することを検討する。この結果、男性については、給付対象となる年齢が拡大される。
⑤現在、妻が30歳未満で夫と死別した場合に有期給付となっている遺族厚生年金については、有期給付とする対象年齢を、相当の期間(おおむね20年~25年)をかけて、段階的に引き上げるものとする。
⑥中高齢寡婦加算については、相当の期間(おおむね20年~25年)をかけて、段階的に廃止するものとする。
⑦有期給付とするに当たっては、3つの配慮措置を講じることとする。
《3つの配慮措置とは?》
⑴ 現行制度の離婚時年金分割制度を参考に、死亡者との婚姻期間中の厚生年金被保険者記録に係る標準報酬等を分割する「死亡時年金分割(仮称)の創設」を検討する。これにより、分割を受けた配偶者の将来の老齢厚生年金の額が増加することとなる。
※「死亡時年金分割」は、離婚時年金分割とは異なり、遺族配偶者の将来の老齢厚生年金が増額される場合にのみ行うものとする。つまり、婚姻期間中の標準報酬の総額の高額であった配偶者が死亡した場合にのみ、遺族配偶者の将来の老齢厚生年金の額を増加させることを目的として行うものとします。婚姻期間中の標準報酬の総額が低額な配偶者が死亡した場合にまで「死亡時年金分割」をしてしまうと、遺族配偶者の将来の老齢厚生年金が減額されてしまうからです。
⑵ 現行制度における生計維持要件のうち、「収入要件の廃止」を検討する。これにより、有期給付の遺族厚生年金の受給対象者が拡大する。
⑶ 現行制度における遺族厚生年金(死亡した被保険者の老齢厚生年金の4分の3に相当する額)よりも金額を増額させるための「有期給付加算(仮称)の創設」を検討する。これにより、配偶者が死別した直後の遺族配偶者の生活再建を支援する。
【2】寡婦年金の廃止案について
国民年金に独自の制度である「寡婦年金」についても、相当の期間(おおむね20年~25年)をかけて、段階的に廃止する方向です。
寡婦年金については、既にその必要性に欠けていると指摘されており、「死亡一時金」で対処すれば十分ということで、寡婦年金の段階的な廃止は、法改正事項として盛り込まれる公算が大きいと言われています。
【3】子に対する遺族基礎年金の支給停止規定の改正案について
現行法では、「子に対する遺族基礎年金」は、生計を同じくするその子の父又は母があるときは、その間、支給停止とされています。
これは、生計を同じくする父又は母があるならば、子は当該父又は母によって養育されるのだから、遺族基礎年金を支給する必要性がないと考えられたからです。
しかし一方で、「遺族厚生年金」には、このような支給停止規定は存在しないことから、整合性に欠けるという意見が、かなり昔からありました。
そのため、子が自らの選択によらない事情で子が置かれている状況によって遺族基礎年金が支給停止とならないよう検討することが盛り込まれました。
〔支給停止規定が不合理となる典型事例〕
両親の離婚により父子家庭となった父が死亡したため、遺族基礎年金の受給権を取得した子が、元配偶者(元妻)に引き取られた場合
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この場合、子からみれば元妻は「母」に該当するわけですが、子に対する遺族基礎年金は支給停止されてしまいます。その母は遺族基礎年金の受給権を取得しませんので、政府は遺族基礎年金を1円も支払わないで済んでしまうことになります。
この事例は明らかに不合理であると考えられますので、子に対する遺族基礎年金を支給停止とする現行法における支給停止規定は、廃止・削除すべきと考えられます。
以上のように、「父又は母」が遺族基礎年金の受給権を取得せず、子に対する遺族基礎年金が支給停止される場合には、現行法における支給停止規定は廃止して、子に遺族基礎年金が支給されるよう改正される見込みが高いのではないかと思われます。
なお、「社会保障審議会年金部会」では、子に対する遺族基礎年金が支給停止となる不合理な典型事例を4つ挙げていますが(下図参照)、法改正に向けて大きな壁となるのは、その財源が賄えるのか、賄えるとしても財務省が賛成するか否かです。
なにしろ財務省は、医療保険制度においても、「国民医療費=診療報酬等の総額」と示した上で、診療報酬等を引き下げれば国民医療費を削減することができると主張し、医療関係従事者等から猛反対を喰らったほどですからね😓