雲の上を歩くペンギン -86ページ目
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仮想恋愛 ~東京からボンジュール・8~


☆第8話「約束」



成田空港に降り立つ。

ついに彼女がフランスから帰ってくる日がやってきたのだ。

結局僕は彼女にプロポーズをすることが出来なかった。由貴ちゃんの事は直接本人に聞いたらしいが、怒るどころかハイテンションで「やるじゃん!」と連呼していた…

最後に由貴ちゃんは僕達の事を聞いてきたらしいが彼女は否定したらしい。まあ当然といえ当然なんだが、なぜか釈然としない。

納得したかどうかはともかく由貴ちゃんはそれ以上聞いてこなかったらしい、そして最後に僕のことはお兄さんとして好きだと言っていたらしい。

「微妙にフラれたね」と言って彼女は笑っていた…

その時ゲートから大きな荷物を抱えた彼女が笑顔で現れた。

僕は東京に住んでいて、彼女はフランスに住んでいる。つまり遠距離恋愛だ。

ほとんどの人が、人生の半分以上を愛する人と過ごす。親よりも子供よりも誰よりも一緒にいる。結婚とはまさしく人生を共有するための誓いである。

結婚相手と付き合う相手は果たして同じなのだろうか? 生活を共にすると言うこととは楽しいことばかりではない。

笑いっぱなしの人生がこの世に存在しないのならば、人生を共に歩む人は簡単には選べない。

成田エクスプレスの車内では、普段無口な彼女が饒舌にフランスでの出来事をうれしそうにしゃべっている。

「ところで大事な話があるって言ってたけど」

「あ、うん…」僕は迷っているんだろうか? 今の自分に家族を作る資格があるのだろうか? 本当に彼女を愛し続ける事が出来るのだろうか?

「私もあるんだ大事な話」

「え、何?」

「……別れよっか」

「……」

「別に嫌いになった訳じゃないないの。ううん前より好きになったくらい…」

「じゃあ…」

「だからこそ別れようと思ったの。このままじゃ自分がダメになっちゃうような気がして… 私には小説家になる夢があって、あなたにも夢がある。そのためにがんばってきた。あなたと一緒にいるのは楽しいし幸せだと思う。でも何年、何十年か後に後悔するときが必ず来るような気がする」

「一緒にがんばればいいじゃん」

「そうだね。でも負けちゃうよ… それくらい、好きだもん」

何も言えなかった… 好きだけで結ばれる訳じゃない。そんな事はわかってる、でも…  本当に好きだからこそお互いのために別れる… 好きなだけじゃダメなんだ。

「わかった」

「ごめんね」

「ありがと」

思えばこうやって彼女の目を真剣に見たことがなかった。力強く、とても澄んでいて、かわいい目だった。

「で、そっちの大事な話は?」

「…うん。まあたいしたことないんだけど」

「何?」

「僕と結婚してください」

力強い彼女の目がすっと優しい目になった。

「はい」

「ありがと」

成田エキスプレスは僕達の住む、東京に向かっている。

僕は東京に住んでいて、彼女も東京に住んでいる。今は大切な仲間だ。

僕はがんばる。

がんばって夢を叶える。

そして彼女を迎えに行く。

だってそれが彼女との約束だから…



ーおしまいー

がんばれディープインパクト!!!

ついにやってきました!

明日、フランスのロンシャン競馬場で行われる凱旋門賞に、日本から武豊騎手とディープインパクトが挑戦します!


泣きそうです(/TДT)/


英国大手ブックメーカーで3社中2社が一番人気!

日本でしか実績が無いディープがこれだけの評価いただいているというだけで幸せです。


今回は最大のチャンスです!!!


これで勝てなければ、しばらく勝つことはおろか、挑戦するのも難しいでしょう。


もちろん勝って欲しい!


でも無事に帰ってきて欲しい!


とにかく日本でこれだけ盛り上がる凱旋門賞は初めてです。


がんばれディープインパクト!



ちなみに写真はあべちゃんが送ってくれたロンシャン競馬場の門です!!!

復活の兆し

なんだかんだ言ってやっと腰を落ち着くことが出来ました。

本体の方は、パスワードがわからないので、プロバイダに連絡して復活まで10日ぐらいかかりそうな感じです。

とりあえず徐々に復旧してきているのでホッとしてます。


今回のトラブルで仮想恋愛が大きく遅れて、いつの間にやら彼女である、あべちゃんの帰国が迫ってきております・・・

最終回は帰国にあわせてと思ったのですが、考えてたお話とずいぶん変わってきているので、どうなるのか自分でもわからない状態です。

気まぐれではじめたことなので、多少の無理は許していただきたいと思います(・ω・)/



仮想恋愛 ~東京からボンジュール・7~

第7話「好きの理由」  



「で、いつから付き合ってるの?」表情のない表情で僕の前に座っているリーダー大橋。

「先月の終わりくらいから」

「ふ~ん。まあ惚れた腫れたは人間だからしょうがないけどさあ。で、由貴ちゃんにはなんて言ったの?」

「一応、違うとは言ったけど…」

大きくため息をついて「どうせ動揺丸出しで否定したんだろ?」

良くご存知で、さすが10年以上の付き合いだ。

この世の中で僕のことを一番している人間だと言っても過言ではないだろう。僕の知らない僕の事まで知っているのだから恐ろしい男だ。

しかし僕が由貴ちゃんとキスした事はさすがに知らない。これはさすがに口が裂けても言えない! いや、口が裂けたら言えるか? 痛いもん。

「由貴ちゃんとはなんでもないんだろうな?」ちょっと怖い顔でリーダーが言う。

「な、ななな何にもないよ!」

「だからそれやめろ! うっそで~す♪ って宣言してるようなもんだからな。まったく… で、キスでもしたか?」

「うん、あっ」

口が裂けた!!!

僕は東京に住んでいて、彼女はフランスに住んでいる。つまり遠距離恋愛だ。

人を好きになるということはどういうことなのだろうかと考えることがある。容姿に惚れたり、性格に惚れたりと理由は様々であるだろうが、一番の理由は好きだから。好きな理由が好きというのもおかしい話だが、人を好きになるのはそういうことではないかと最近思えてくる。

この歳になると好きになった人の数も多くなってくる。一人ひとり思い出してみると全員まったく違うタイプだ。共通点はなにかなあと考えてみたが結局「好き」という以外に理由が見つからなかった。

もちろん失礼ながら、性格の順位、容姿の順位は客観的に見れば優劣はつくだろう。ただ誰が一番好きだったのかという順位はまったくつかない。

明け方に彼女から電話が来た。

「おはよう」というと「こっちはこれから寝るところだけどね」と笑っていた。すこぶる機嫌は良いようだ。

「そろそろ日本に帰って来る日が近づいてきたね」

9月30日に帰国が決まっている。一ヶ月という期間が長かったのか短かったのかはわからないけど、二人にとってこの一ヶ月はかけがえのないものになったはずだ。

少なくとも僕は彼女と人生を共に歩んで行けるだけの決意と愛情が育っていた。

「ねえ、帰国したら大事な話があるんだ」僕は緊張していた。

「大事な話?」

「うん…」今言ってしまおうか? 「ぼ、僕とけ、けっこ」

「あ、そうだ由貴ちゃんとキスしたんだって?」

意識が遠のいていく…

「ごめんごめん、で、大事な話って?」

…あれ? 僕は何を言おうとしてたんだっけ?



ー続くー



一部を除いてフィクションです

仮想恋愛 ~東京からボンジュール・6~

☆第6話 「キスの味は」

朝起きて鏡を見ると思った以上に頬が腫れている。大人なので泣かないが、以前なら声を上げて泣いていたに違いない。

メールをチェックすると彼女から久しぶりにメールが来ていた『お母さんは無事日本に帰りました。この前はゴメンね。病気とか怪我はしていない?』

怪我してる… 今回のフランス滞在中に彼女のお母さんが新潟から遊びに行くということを聞いていた。良い機会なので僕もその時期に合わせてフランスに遊びに行くといったら、鬼の形相で止めたれた。理由は恥ずかしいからだとかわいいことを言っていたが、あの顔を見たら恥ずかしいのは「こんな男と付き合ってるなんて言えねえよ!」という意味ではないのかと疑いたくなる。

チャイムが鳴る。

一体こんな朝早くから誰だろう? そう思ってのぞき穴を見ると由貴ちゃんが立っていた。

僕は東京に住んでいて、彼女はフランスに住んでいる。つまり遠距離恋愛だ。

遠距離恋愛をしていると喧嘩したときが苦労する。やはり目と目を見てお互いに話し合うことで誠意が伝わるものだ。そして恋人としての肌のぬくもりもまた大事だ。しかし残念ながら彼女とはフランスに行く直前から付き合いだしたのでキスはおろか、手すら握ったことがない。まあガツガツした男に見られたくないのでここは慎重に行くつもりだ。

「大丈夫ですか?」由貴ちゃんは自分の頬を押さえながら心配そうに聞いてきた。

「大丈夫、大丈夫! 大人だから泣かなかったし」

「え?」

「ううん。何か飲む?」

「はい」

「カルピスウォータしかないけど」

「いただきます」

「で、どうしたの? こんなに朝早く」予想は付いているが、冷蔵庫を開けながら僕は聞いた。

「はい、飯ちゃんの事で…」

彼女の話では、やはり僕の予想通り飯ちゃんは由貴ちゃんの事が好きらしい。告白されたと言っていた。そこで僕との経緯を話したらしいが、まさか飯ちゃんがこんな行動に出るとは思わなかったらしい。

そこはまだ若いというか本気で惚れた女のためなら男がどんな無茶でもするということが理解できていないみたいだ。

確かに好きな男が他にいて振られたといって、その男を殴るのは理解できないかもしれない。いや、おそらく理解といっても間違った解釈をするだろう「俺が好きになった女を振りやがって!」 しかしこの認識は間違っている。悔しいから殴ったのではない、本当に好きな子には幸せになってもらいたいと考えるのが男だ。男は元来ロマンチストである。惚れた人のために命すらも投げ出すドラマが多いのもこの考えがあるからで、男は一瞬の彼氏としての記憶よりも、永遠の素敵な人として記憶に残りたいのである。

だから別れる時も、いい人であろうとすることが多い。それに別れた彼女の写真やプレゼントなども持っていたがる。思い出に生きるタイプが多いのも男だし、付き合った人数、抱いた人数にこだわるのも男だ。

一方女性は、終わったことは終わったこととして処理をするため、別れた男の事は簡単に忘れてしまう。プレゼントなどは思い出ではなく、物とし必要だから残しているのであって、決して男みたいに思い出としてとっているのではない。

女々しいという言葉があるが、漢字を改めるべきではと常日頃思ってしまう。

だから飯ちゃんの行動は男として気持ちがわかるので僕は怒ってなどいない。しかしさっきから由貴ちゃんは飯ちゃんを許してあげてほしいと必死に訴えている。

「大丈夫だよ、怒ってないから」

ホッとした表情をする由貴ちゃんに対して、飯ちゃんの事もまんざらではないのではと思えてしまう。

「それから、本当に私が好きだって言ったこと忘れてくださいね」

ん~ なぜこんなことを言うのだろうか? 僕はまだ答えを言っていない。気持ちを伝えるだけで良しとするのはわからなくもない。しかしそれでは損をするのではないか? まあ僕も同じような事をした経験がないわけではないのでなんとも言えないが…

かといって「本当にそれでいいの?」なんて軽率なことは言えない。何と言っても張本人である僕ががんばれ! なんてお間抜けなことを言えば深く傷つけてしまう。

だって僕には愛する人がいるのだから…

「じゃあ、帰ります」

僕には何も言えない…

玄関先まで見送りに行くと突然、由貴ちゃんが振り返って僕にキスをした。

長いキスはカルピスの味だった… 

気が付けば僕の手は彼女の体を包んでいた…

何分たったのだろう? いや実際には10秒程度だったのかもしれない。それくらい思考回路が狂っていた。

体を寄せ合った状態で由貴ちゃんは唇を離し僕の目を見つめて言った。

「薮田さんの好きな人って… あべさんですか?」

時間が止まった。

フランスの町並みに立つ彼女の姿が僕の脳裏に浮かんでくる。

仮想恋愛 ~東京からボンジュール・5~

☆第5話 「必殺カウンター」   

「イテテ… 痛いって!」
「大げさだなあ」リーダーはそう言って僕のホッペから手を離した。
「とりあえず追っかけた由貴ちゃんの連絡待ちだな。で 、殴られた心当たりはあんの?」
そう、そこが問題だ。飯ちゃんに殴られる理由なんてない… いや、知らない間に彼を深く傷つけていないかと言われれば自信がない。
とにかく理由なしに人を殴ることなんて考えられない。とりあえず原因を探る事にした。まずは同じ僕の後輩という立場でキムに聞いてみよう。
「なあキム、俺の嫌なところとかってある?」
「あるわけないじゃないですか~ 薮田さんは完璧です!」出たキムスマイル! ピカーンという効果音でも鳴り出しそうなこの笑顔、いかにも胡散臭さが漂っている。
「別に遠慮しなくてもいいんだって、俺だって人間だから欠点くらいあるさ」
「僕にはわかりません! 薮田さんはいつも素敵です!」
「そう!? なんとなくわかってはいたんだけどさ、もしかしたらと思ってさ。まあしいて言えば見たいな感じでもいいんだけどさ」
少し考えてキムは「そうですねえ。とにかく平気で人の気持ちに土足で入ってきますよね」
おやおや? ちょっと軽く言うにしては穏やかな意見じゃなくない?
「無神経というかなんというか、あ、そうそう! 相談なんて乗ってもらっても結局自分の話に持ってきて僕の話なんて聞きゃしない! で、何が言いたかったかって言えば自分の武勇伝! 基本的に人に関心がないんでしょうねえ。自分大好きオーラ出まくりですもん! あ、それに自分の事を棚に上げすぎ! 髪がボサボサのくせに身だしなみがなってない! って言われてるようなものですからね。どんだけたくさん棚があるんだよって話ですよ。あ、あと」
「もういいよ!!!」
「でも僕は薮田さん大好きですから!」
これだけ説得力のない大好きを聞いたのは初めてだ。しかしキムでさえこれだけの不満があるという事は… そうだ、同じ立場にいるUGの意見を聞いてみよう。
「なあ、優二。飯ちゃんの件、どう思う?」
グッと前のめりになったUGは「あれは駄目だよ!」
「そうだよね!」
「パンチに腰が入ってないもん」
おやおや? パンチって何?
「相手がヒョロイ薮ちゃんだから良かったものの、俺だったらカウンター食らってるよ! 一撃必殺!!! わかる? こう! こう!」
そう言いながらパンチの形をやり続けるUG… 聞いた僕がバカだった。
その時、由貴ちゃんから電話が来た!

僕は東京に住んでいて、彼女はフランスに住んでいる。つまり遠距離恋愛だ。
他の男が言い寄るのではという不安がないわけではない、しかも相手はフランス男だ! フランス男のデーターがまったくないので想像もつかないが、少なくとも僕より甘い声で「ボンジュール」と言って来そうなので油断は禁物だ。
この前、電話で彼女を怒らせて以来連絡がまったく取れなくなっている。困ったのものだ。

近くの公園に行くと、そこには由貴ちゃんではなく飯ちゃんがいた。
「由貴ちゃんは?」
「帰りました」
「そう」
「あの、どうして由貴ちゃんをフッたんですか?」
ん? 何を言ってるんだ?
「ユッキーは薮田さんの事本気で好きだったんですよ! それなのに」
「ちょ、ちょっと待った! 俺はフッなんかないよ」
「嘘つかないでください!」
「嘘じゃないって! 確かに好きだって言われたけど、すぐに忘れてくれって言われたんだから」
「でも…」
何が一体どうなってこういう話になってるんだ? とにかく彼がどういう経緯でこの事を知ったのかは知らないが、きちんと誤解を解かなくてはならない。
「それに俺は…ちゃんと彼女がいる」
「何でそんな嘘をつくんですか! 薮田さんに彼女なんて出来るわけないでしょ!」
飯ちゃんそれ失礼… 「嘘じゃないって」
「じゃあ誰ですか?」
「だ、誰でもいいじゃん」あべちゃんとは言えない… メンバー内恋愛は禁止と言ってる立場上言えない。
「やっぱり嘘なんじゃないですか!」
「嘘じゃないって! ん? もしかして飯ちゃん… 由貴ちゃんの事好きなんじゃ?」
「ち、違いますよ!」
この慌て振りは間違いない「飯ちゃんこそ嘘つくな! 好きなんだろ由貴ちゃんの事。由貴ちゃんには気持ちを伝えたのか?」
押し黙ったままうつむいている飯ちゃん。ここはどういう対応をすればいいのだろう? 
「よし! 俺が飯ちゃんの気持ちを由貴ちゃんに」
「違うって言ってんだろう!」そう叫びながら飯ちゃんは僕に殴りかかってきた! 2度も同じ手を食うか! 
「UG直伝、必殺カウンター!」
目の前が真っ白になっていく… UG、飯ちゃんのパンチ… 腰が入ってるよ。



 ー続くー


*一部を除いてフィクションです

仮想恋愛 ~東京からボンジュール・4~

☆第4話「ハネウマライダー」    

由貴ちゃんが僕を見つめる。その瞳に吸い寄せられるように口付けをかわす。

その瞬間ポルノグラフティのハネウマライダーが流れだし布団から起き上がる。寝ぼけ眼でケータイを探し通話のボタンを押す。
「寝てた?」と元気な彼女の声。
「ね、ね、寝てたよ!」
「何あせってるの?」
「べ、別に…」確かに焦っていた、由貴ちゃんとキスをした。といっても夢の中でだが…
昨日、由貴ちゃんから告白をされた。「ありがとう」などとスットンキョンな返しをしてしまったが、その後に言葉が見つからずにいると、由貴ちゃんは「あ~すっきりした! 今の忘れてください!」と言ってみんなの待つテーブルに帰ってしまった。
何か知らないがフラれた…のかな?
「だからね、…ねえちゃんと聞いている?」彼女の声が聞こえてきた。
「え? あ、それは大変だったね」
「何が?」
「え~何がって、その…」やばい! この場合の選択肢がいくつかある。1つ、当たり障りのない返事を返す。2つ、話題を変える。3つ、あやまって聞きなおす。
「あれだね、そういう時はまあなんというか時間が解決してくれるよ」
「何で?」
「何でって…」はい1つ目バツ「あ、そうそうこの前UGとキムがさあ」
「何で話し勝手に変えるの?」はい2つ目バツ。
「ごめん、聞いてなかったもう一回話して」
「もういい!」電話が切れた…はい全滅。

僕は東京に住んでいて、彼女はパリに住んでいる。つまり遠距離恋愛だ。
フランスに彼女が住んでいると言うと大抵みんな驚く。そして口々に感嘆の声をあげるのだが「別に大したことないよ!」と言いながらちょっと鼻高々だ。
まあ別に僕がフランスに行っている訳でもなければ、彼女がフランス人な訳でもない。でも自慢の彼女であることには違いない。

しかし… さっきは失敗だ。
彼女は煮詰まって僕に相談する時は神経がピリピリしている。散々意見を言わしといて結局「もういい!」と言う。口癖なのか意地っ張りなのか。まあ時間が経てば自分でクリアしてしまうんだが。あんまりしっかりした頭の良い彼女を持つのも問題があるのかもしれない。

翌週、どういう顔をして由貴ちゃんに逢えば良いのかわからなかったが、由貴ちゃんはいつもと同じように元気に笑っていた。そうかいつもと一緒か…なんて思っていると、何かがいつもと違うと感じる。
稽古中であってもその違和感が拭いきれなかった。
最近疲れがたまっているせいなのかもしれないと思い、稽古終了後にトイレで顔を洗って振り向いた瞬間、目の前が真っ暗になった。
視界がひらけてきた。
僕を見下ろすように飯ちゃんがコブシを強く握って立っていた。
はてな? もしかして僕は飯ちゃんに殴られたの?


 ー続くー

*一部を除いてフィクションです

仮想恋愛 ~東京からボンジュール・3~

☆第3話「告白」

僕は東京に住んでいて、彼女はパリに住んでいる。つまり遠距離恋愛だ。
よく何年も彼女が出来ずモテない男が、彼女が出来た途端にモテだすという話を聞く。人生にはモテる時期があるという話を聞くが、おそらく彼女がいるということで心に余裕が生まれて、それがいい方向に向かっているのだろうと思う。女は余裕のある男に惹かれるもんだ。女を狙うギラギラしたイヤラシイ目つきの奴はモテっこない。
僕もそんな時期に来てるのだろうか?
この頃すれ違う女が僕を見てるような気がする。なんて気のせいかな?

僕の所属するコミック劇団・プロペラ↑ぶる~ん。劇団というのはいわゆる小さな村社会的なところがある。年齢や生まれた土地から色々な人間が集まってくるのだからちょっとしたトラブルや事件は日常茶飯事なわけだ。

先日、稽古終わりで、いつものようにみんなでお茶をしてた時、メンバーの役者・紅一点、永岡由貴ちゃんが相談があるからと言って隣のテーブルに呼ぶ。
劇団内で最年少の彼女はみんなにとってアイドルであり、僕にとってもかわいい妹みたいなものだ、相談と聞かされてはお兄ちゃんとしては力にならなくてはと思う。
「あの…みんなには内緒にしてほしいんですけど」うつむきながら言う由貴ちゃんの様子にタダならぬ深刻な悩みを汲み取る。
「もちろん。僕で力になれることなら何でも言ってごらん」
「ありがとうございます。薮田さんしか力になれないと思うので…」
おお! 僕しか力になれないのか。人に頼られる大人になったのかと喜びを噛締める。
「で、どうしたの?」目一杯の笑顔で聞く。
「実は好きな人が…」
え~! 恋の相談かよ~ 今時の若者の恋愛なんてわからんぞ~
「で、誰? 知ってる人?」
「はい…」
え~! 知ってんのかよ~ ん? 待てよ! 由貴ちゃんと共通の知り合いなんて数えるくらいしかいないぞ? まさか!!!
「ちなみに、うちのメンバー?」
こっくりとうなずく由貴ちゃん。
やっぱりかい~! ♪誰だ! 誰だ! 誰だ~ 空の彼方にってバカ! しかし一体…
メンバーが集まってるテーブルに目をやる。

まず最初に飛び込んできたのがキムこと木村一登。確かに甘いマスクをしている。年齢も由貴ちゃんより3つだか年上の筈でいい感じだ。
しかし… 基本的に頼りなく自他とも認める「全国民の永遠の弟」 年上のお姉さま方には受けが良いが、年下の女から見たら逆にムカつくタイプだ。この手の奴は年下にモテるはずがない! 
キムは違う。

その隣には飯ちゃんこと飯田貴昭。確かに同い年で仲も良い。男前ではないが、モテそうな雰囲気はある奴だ。
しかし… この手の奴は「友達として好き」と言われるタイプだ。もっとも中途半端な人種で、彼氏いる女からは「彼氏がいなかったら付き合ったのになあ」なんてその気にさせる事を言っておきながら、彼氏と別れてもあっさり他の男と付き合われてしまう。つまり女は男として見ていないケースが多い。
飯ちゃんは違う。

その向かいにはリーダーこと大橋健一がいる。確かにリーダーというポジションは頼りになって年下からは大人の男性と見られやすい。
しかし… やっぱりおっさんだ! いや、逆にありなのか? いや… 思ったよりおっさんだぞ! いや、「女は守られたい」「引っ張ってほしいと思う」のでやっぱりありなのか? いや、相当おっさんだ! 自分やみんなが思ってる以上におっさんだ!!! 由貴ちゃんはそんなアホな子じゃない!
リーダーは違う。

残るは先に帰ったUGこと片岡優二。確かに真っ直ぐな性格で真面目で優しい。何より鍛え抜かれた筋肉は女性なら「守られたい」「抱かれてみたい」と思うだろう。
しかし… UGは筋肉バカだ! 自他とも認める筋肉バカ! 筋肉をとってもいいくらい筋肉バカだ! しかも下ネタ大好き筋肉バカだ!
UGは違う。

男性メンバーはこんなものか… あ、脚本のやややこと山本郷史を忘れていた。
…無いな。
…無いな。
…うん、無い。

では一体? こうなってくると全員あるのかあ… ややや以外は。
「薮田さんが好きです」
「……」
「薮田さんが好きです」
「…ありがとう」
僕の頭の中からこの瞬間、フランスにいる彼女の事は一切消えていた。


 ー続くー


*一部を除いてフィクションです

仮想恋愛 ~東京からボンジュール・2~

第2話「愛の距離」  

遠くの彼女より近くの女友達・・・
誰が言ったのかは知らないが今僕は遠距離恋愛をしている。しかも東京とパリというとんでもない距離だ。まあ東京―パリであろうが、東京―大阪であろうが会えないことには変わりは無いので、距離で愛の重さを推し量る事は無意味に等しい。
もっというなら、同じ東京にいたとしてもお互い忙しく何週間も会えない事だってあるのだからこれだって立派な遠距離恋愛だ。
しかし今回気付いた事がある。彼女とは当然、同じ東京に住んでいて何週間も会えない時間はあった、もちろん会いたいという気持ちはあったが別段気にした事はなかった。でもフランスというこの距離が僕たちの気持ちに変化を与えた。
メールを頻繁にやりとりしたりとにかく連絡をよく取るようになっていた。僕自身、彼女がフランスに旅立って一週間だが会いたい気持ちが強くなっている。
フランスというこの遠い距離が改めてお互いの距離を近づけてくれているのは間違いない。僕は今回、彼女のフランスへの旅立ちは良かったとさえ思いはじめている。ただ一つ不満があるとすれば、彼女から「淋しい」とか「会いたい」という言葉がまったく出てこないことだけだ。まあまだ一週間、今は彼女も向こうでの生活に慣れる事でいっぱいなのだろう。来週あたり「会いたい」と甘えてくるに違いない。

僕はというと相変わらずの毎日を過ごしている。週末には劇団の稽古があり、仲間とは楽しく過ごしている。彼女もメンバーの一人なのだが「劇団内恋愛はご法度!」と声高々に訴えている僕が彼女と付き合っていることは口が裂けても言えない。
何かと事件の多い劇団内において、これ以上の事件は起こせないのだ。
しかしある日ちょっとした事件が起こった… いや大事件だ!

仮想恋愛 ~東京からボンジュール・1~

第一話「エールフランス275便」


結局仲直り出来ないまま、今日、彼女がフランスへ旅立つ。

電車から見える景色は未だにコンクリートの壁だけである。駒沢大学から神保町、本八幡で京成本線に乗り換える。成田まで約2時間、果たして間に合うのだろうか。
12:05発 エールフランス275便・成田発―パリ、シャルル・ド・ゴール空港行き。それが彼女の乗る飛行機だ。
彼女との出会いは今から2年近くも前にさかのぼる。どこにでもありふれた出会いだった。僕が所属しているコミック劇団・プロペラ↑ぶる~んに作家希望で入ってきた彼女に僕は一目惚れをしてしまった… 付き合い始めて知った事だが彼女も僕に一目惚れだったらしい。お互い好きという気持ちで2年近くも愛情を隠して接してきたのだから恋愛というものは難しいものである。
車内に光が射し込む。
このまま順調に行けば搭乗手続きギリギリに間に合うはずだ。会ったらなんて言おう? いってらっしゃいなのか? ごめんなさいなのか?
喧嘩は些細なことだった。
10月1日にロンシャン競馬場で行なわれる凱旋門賞に日本からスーパーホース・ディープインパクトが出場するのだが、彼女は9月末に日本に帰ってくるという。「あと一日くらい居ろ!歴史的な瞬間に立ち会えるんだぞ!」という言葉に「私とディープインパクトどっちが大事なの?」と言われてディープインパクトと即答したのがムカついたらしい。
僕に言わせれば馬と比べるのもどうかと思うが、ちょっと、ほんのちょっと反省した。
成田空港に電車が滑り込む。
大きな鞄を抱えた人波を縫うようにして彼女の姿を捜す。
するとまさに今彼女が搭乗ゲートを潜ろうとしていた。僕は彼女の名前を叫んだ! 彼女は驚いた顔をして、それからゆっくり微笑んだ… 僕は大きな声で「いってなさい!」と言った。いってらっしゃいとごめんなさいがごっちゃになっってしまった。彼女は小さくうなずき、そして無声でゆっくりと「いってきます」と僕に笑顔を投げかけた。
その時携帯がなった。誰だこんな時に… と思った瞬間目が覚め布団から飛び起きた。時計を見ると時刻は12時5分を指していた。携帯電話には「いってきます」そう短いメールが届いていた。
慌てて「いってらっしゃい」と打ったが、飛行機に乗った事が無い僕は、空の上でも僕の気持ちが届くのかちょっと不安な思いで送信ボタンを押すのだった。

ー続くー


*この物語は一部を除いてフィクションです
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