仮想恋愛 ~東京からボンジュール・7~ | 雲の上を歩くペンギン

仮想恋愛 ~東京からボンジュール・7~

第7話「好きの理由」  



「で、いつから付き合ってるの?」表情のない表情で僕の前に座っているリーダー大橋。

「先月の終わりくらいから」

「ふ~ん。まあ惚れた腫れたは人間だからしょうがないけどさあ。で、由貴ちゃんにはなんて言ったの?」

「一応、違うとは言ったけど…」

大きくため息をついて「どうせ動揺丸出しで否定したんだろ?」

良くご存知で、さすが10年以上の付き合いだ。

この世の中で僕のことを一番している人間だと言っても過言ではないだろう。僕の知らない僕の事まで知っているのだから恐ろしい男だ。

しかし僕が由貴ちゃんとキスした事はさすがに知らない。これはさすがに口が裂けても言えない! いや、口が裂けたら言えるか? 痛いもん。

「由貴ちゃんとはなんでもないんだろうな?」ちょっと怖い顔でリーダーが言う。

「な、ななな何にもないよ!」

「だからそれやめろ! うっそで~す♪ って宣言してるようなもんだからな。まったく… で、キスでもしたか?」

「うん、あっ」

口が裂けた!!!

僕は東京に住んでいて、彼女はフランスに住んでいる。つまり遠距離恋愛だ。

人を好きになるということはどういうことなのだろうかと考えることがある。容姿に惚れたり、性格に惚れたりと理由は様々であるだろうが、一番の理由は好きだから。好きな理由が好きというのもおかしい話だが、人を好きになるのはそういうことではないかと最近思えてくる。

この歳になると好きになった人の数も多くなってくる。一人ひとり思い出してみると全員まったく違うタイプだ。共通点はなにかなあと考えてみたが結局「好き」という以外に理由が見つからなかった。

もちろん失礼ながら、性格の順位、容姿の順位は客観的に見れば優劣はつくだろう。ただ誰が一番好きだったのかという順位はまったくつかない。

明け方に彼女から電話が来た。

「おはよう」というと「こっちはこれから寝るところだけどね」と笑っていた。すこぶる機嫌は良いようだ。

「そろそろ日本に帰って来る日が近づいてきたね」

9月30日に帰国が決まっている。一ヶ月という期間が長かったのか短かったのかはわからないけど、二人にとってこの一ヶ月はかけがえのないものになったはずだ。

少なくとも僕は彼女と人生を共に歩んで行けるだけの決意と愛情が育っていた。

「ねえ、帰国したら大事な話があるんだ」僕は緊張していた。

「大事な話?」

「うん…」今言ってしまおうか? 「ぼ、僕とけ、けっこ」

「あ、そうだ由貴ちゃんとキスしたんだって?」

意識が遠のいていく…

「ごめんごめん、で、大事な話って?」

…あれ? 僕は何を言おうとしてたんだっけ?



ー続くー



一部を除いてフィクションです