村上雅郁「きみの話を聞かせてくれよ」 | 娘がやっている栄養療法を父と母もやってみるブログ

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娘が2026年中受予定。娘のチックを治そうと4年前から栄養療法に取り組んでます。

村上雅郁「きみの話を聞かせてくれよ」


ネットで調べた限り、今のところ10校から出題されたという話題作なので読んでみた。複数年で10校ならわかるが、2024年だけで10校というのは凄い。

第1話の「シロクマを描いて」は大妻、栄東、専大松戸、横浜雙葉
第2話の「タルトタタンの作り方」は海城、駒場東邦、昭和女子、立教女学院、土浦日大

学習院の出題箇所は不明

四谷大塚の過去問では駒場東邦の問題が閲覧できる。

第1話は美術部の女の子が主人公なので、JBが好みそうな題材ではあるが、これだけの話題作なので出される可能性は低いだろう。

この作品は7つの短編で構成されているが、それぞれの登場人物や話が関連するので、最初から順に読んだほうがよい。

どの話にも黒野良輔という男の子が関わっているのがポイントで、最後に黒野くんの過去が明かされる。

黒野くんは剣道部の幽霊部員という設定で、まるで野良ネコのように学校のあちこちに出没する。そして、各ストーリーに顔を出しては、生徒たちの抱えている問題を解決するきっかけを与えてくれる。

中学校にかつて住み着いていた野良ネコのことを第5話と第7話で「守り神」と言っていたが、まさにそんな存在だ。

名前をよく見れば「黒野良輔」の「輔」を抜くと「黒野良=黒ノラ」と読め、第7話のタイトルも「くろノラの物語」となっている。黒野くんはその野良ネコの生まれかわりというか、憑依したのかもしれない。それらしい記述も7話にある。

ところで、黒野くんの言動を読みながら、私はふと「ゆかいな床井くん」の床井くんを連想した。クラスメイトにこんなヤツが一人でもいたらいいなという存在で、私の好きな「男はつらいよ」の寅さんも似たような存在とも言えようか。寅もネコ科だし(笑)

あと、第2話でジェンダーレスをテーマに取り上げており、JBでも2021年の第1回の試験で手芸男子の話が出題されたが、最近の傾向なのだろうか。

ちなみに祇園寺羽紗と杉谷夏帆は女子なのだが、杉谷夏帆は自分のことを「ぼく」と言うし、女子はリボンなのに、二人とも男子と同じネクタイをしているので、少し紛らわしい。ジェンダーレスだからなのか。


個人的には第4話の「いたずら男子の計画は」が好き。第5話の「ヘラクレイトスの川」もよかった。梢恵と正樹のやり取りには涙が出た。児童文学で泣いたのは「朔と明」以来かもしれない。いやもっと泣いてるか。最終話もよかったが、少し語りすぎかなとも思った。


村上雅郁(著者)&カシワイ(絵)コンビの作品で「あの子の秘密」は既に娘が読んでいるのだが、それも猫が出てくる話らしい。

前置きが長くなったが、それぞれのストーリーのあらすじをまとめてみた。



1.シロクマを描いて

【主な登場人物】

【あらすじ】
小学五年生の春、白岡六花は自由帳に書いたシロクマのイラストを春山早緑にほめられたのをきっかけに友だちになる。
新船中学に進み、六花は美術部、早緑は陸上部に入るが、あることがきっかけで二人は離れてしまう。
ある日の放課後、六花が外でクロッキーをしていると、陸上部の練習を終えた早緑たちがこちらの方に近づいてきたので逃げるように校舎に戻る。偶然、廊下で会った黒野良輔に屋上に連れていかれる。屋上で黒野の絵を描きながら、六花は考える。
自分が入った美術部にはまじめに絵を描こうとする部員はおらず、六花だけ一人浮いていること、それを友人に話したこと。そしてその友だちとの仲直りのやり方について聞くと、黒野から「仲直りのチャンスが来たら、逃すんじゃないぞ」とアドバイスされる。
その友だち(早緑)と離れてしまったきっかけは、去年(中一)の二学期、十月の半ばのこと。六花は早緑に美術部のことについて愚痴を聞いてもらっていた。「どうしてみんな、ちゃんと絵を描かないんだろう」「ばかみたい。まじめにやらないなら、やめたらいいのに」と言うと、早緑はなぐさめてくれるかと思いきや、責めるようなことを言う。わかりあえないことがわかってしまい、それ以来、二人は同じクラスになっても前のように仲良く話すこともなくなってしまった。
黒野と別れた帰り、コンビニの向かいにある公園に立ち寄り絵を描こうとスケッチブックを広げる。すると野良ネコを探していた早緑と出会う。(おそらく黒野がお膳立てをしたのだろう)
ベンチで並んで座る二人。六花とけんかする前の頃、陸上部の練習についていけず毎日つらかったのだと話す早緑。その時、六花が言った「ばかみたい。まじめにやらないなら、やめたらいいのに」という言葉が責められているように聞こえてしまい、六花にひどい言葉を返してしまったのだという。
なにが「わかりあえない」だ。わかろうとしなかったのは自分の方だったと気が付いて泣く六花。
早緑は「一年の三学期に六花とちゃんと話さなきゃ」と思ったが、その時は六花に会えず、偶然会った黒野に言われた言葉に影響を受け、次に六花と話すときは胸を張れるように頑張ろうと思い直す。そして少しづつ陸上が好きになったのだという。「なかなおりしよう」という早緑。


2.タルトタタンの作り方

【主な登場人物】

【あらすじ】
轟虎之助の趣味はケーキを作ることだが、見た目の可愛らしさもあり、周りから小動物のように扱われることに日ごろから抵抗を覚えている。ある日、虎之助は黒野に生徒会室に連れていかれる。生徒会長の祇園寺羽紗がタルトタタンの作り方を教えて欲しいという。日曜日に黒野とスーパーで材料を買いこんで祇園寺の家でタルトタタンを作る。タルトタタンを焼いている間、祇園寺がタルトタタンにまつわる思い出話をする。「女の子みたいって、女の子らしいってそう言われると、ほんとこわい」ボーイッシュ女子、スイーツ男子、見た目で判断する周囲からの偏見とのギャップ、「らしさ」にとらわれて不自由に苦しんでいる話などをする。帰り道、虎之助は兄の龍一郎が言った言葉を思い出す。虎之助は祇園寺先輩に「またタルトタタンを焼きに行っていいですか」とメッセージを送る。すると部活帰りのクラスメイト女子に出くわして「甘い香がする」「ケーキ焼いた?」などと聞かれ、勝手に頭をなでられる。虎之助はその場を立ち去ると、振り返り、騒いでいる女子に向かって精一杯の声で叫ぶ。


3.ぼくらのポリリズム

【主な登場人物】


【あらすじ】

吹奏楽部の杉谷夏帆とナナミン(七海湊)は文化祭で発表する「ポリリズム」という曲の練習をしていたが、どうもナナミンの様子がおかしく、しまいには泣き出してしまう。杉谷がナナミンを保健室に連れて行くとなぜか黒野がいる。黒野に三澄先生を呼んできてもらい、ナナミンに話を聞いてみると、どうやら失恋したらしい。ナナミンは轟虎之助に好意を持っていたのだが、一学期の終わり頃のある日、「だいきらい」と大声で言われる(「タルトタタンの作り方」のラストシーン参照)そして二学期の最初の日、ナナミンは轟くんを呼び出し、好意を伝えて謝ったのだが、「ぼくは七海さんのこと好きになれない」と言われてしまう。場面変わって土曜日のこと。杉谷がスーパーに買い物に行くと黒野と轟がスーパーから買い物袋を下げて出てくるところに出くわす。会話から祇園寺先輩の家に行く様子だったため、杉谷は黒野にナナミンの味方のフリをしていたのかと詰め寄るが、なんやかんや言われて逃げられる。杉谷は姉に相談すると、黒野はナナミンの気持ちと轟くんと祇園寺先輩の秘密を守ろうとしたこと、それが黒野にできた最善の方法だったと気がつく。ナナミンのリズム、轟くんのリズム、黒野のリズム、ぼくのリズム、重なるときも、重ならないときもあって、ただ、こうして関わりあう以上、それはみんなでひとつの音楽なのだ。




4.いたずら男子の計画は

【主な登場人物】


【あらすじ】

中間テストが終わったある日、本多悠麿がオオオナモミ、通称ひっつき虫を拾ってきた。それを工藤颯太と俺(西島葵生)が海老沢結の背中に投げてくっつけてゲラゲラ笑っていた件で担任の安星先生に呼び出され、「小学生みたいないたずらをしやがって」と呆れられる。三人は「中学生らしいいたずら」について議論し、最初のターゲットを白岡六花にする。葵生は下準備として、隣の席に座る六花に消しゴムを借りたり、宿題を見せてもらったりする。次にお礼がしたいと六花を校舎裏の駐車場に連れ出し、リコーダーでアニーローリーを吹き始める。車の陰に隠れていた悠麿が出てきて二重奏をして、次に颯太が保健室から出てきて三重奏を吹きながら六花の周りをぐるぐる行進する予定なのだが、二人はいっこうに出てくる様子もなく、全部吹き終えてしまう。六花は「もう少し練習した方がいい」と言って部活に行ってしまう。葵生は自分がいたずらをされたのだと知り、怒って立ち去る。そこまで怒ると思わなかったので焦る二人。翌日、葵生は二人に会ったらどんな顔をすればいいのかわからない。登校途中で出会った黒野に河川敷に連れて行かれ、二人で水切りをする。黒野が水切り7連続に成功したら二人にいたずらしようと持ちかける。二人は2時間目に遅刻して担任に怒られる。教室に戻ると悠麿と颯太が昨日のことを謝りに来る。「おれたち友だちだよな!」「うん」と仲直りする。続いて六花が教室に入ってきて、葵生にアニーローリーの楽譜を渡す。しかも吹くときのコツが書いてある。あの時、黒野が投げた石は6回が限界だったが、今はそれでよかったと思っている。



5.ヘラクレイトスの川

【主な登場人物】


【あらすじ】

柏木正樹は剣道部の元部長だが、受験勉強の息抜きに練習に顔を出した時に靭帯を損傷する。妹の柏木梢恵は同じ中学の一年生だが、週二か週三、保健室登校をしている。その梢恵が「ヘラクレイトスの川って知ってる?」ときいてきた。ギリシャの哲学者ヘラクレイトス曰く「あなたは二度と同じ川に入れない。二度目に入ったときは一度目とは違う水が流れているから」という。小学校からのつきあいの祇園寺羽紗に聞いてみると「万物は流転する」という答え。「変わらないものはひとつとしてない」という意味だという。梢恵に「なんであんなこと言い出したのか」聞くと、時々保健室に来る二年生に聞いたのだという。(読者はこの時点で黒野だなとわかるw)翌日、梢恵が一緒に学校に行くと言う。道すがら教室に行けない理由を話す梢恵。自分が直接言われたわけではないのに「悪口や陰口がつらい」という。途中で黒野が合流し、ヘラクレイトスの川を吹き込んだのが黒野と判明。梢恵と黒野がいろいろ語り合う。学校について梢恵は保健室へ。正樹が黒野に梢恵のことを相談すると、あることを聞かされる。正樹は祇園寺羽紗に小畑玲衣のことを聞くが、何も言えないという。昼休み、正樹は保健室に行く。野良ネコの「ノラのお墓」の掃除に行っているのか三澄先生はいない。守り神と呼ばれたそいつが生きていたら自分たちのことも助けてくれただろうか。正樹は梢恵に話を聞く。梢恵は美術部部長の小畑玲衣のことを尊敬しており、なんでも話を聞いてくれる部長のことが大好きだった。しかし、兄と祇園寺羽紗の話をしたとたんに態度が変わり羽紗の悪口を言う。「ばかみたい。ウサギ王子なんて言われて。あの子、ほんとはただの女の子のくせに」梢恵はショックを受け、それ以来、人と関わってそういう暗闇にふとした拍子にふれてしまうのが怖くなったのだ。小6の頃、祇園寺羽紗と小畑玲衣は友だちだった。正樹はその頃小畑玲衣が気になりちょっかいを出していたが、祇園寺羽紗にコテンパンにされて以来、二人は仲良くなったのだ。しかしある日突然、二人は離れる。二人はその日のことを乗り越えられていない。正樹が帰宅すると梢恵がお礼をして明日も一緒に学校に行きたいという。「お兄ちゃんは変わらなくていいって言ってくれたけど、やっぱり、人間はちょっとずつ変わっていくんだと思う。わたしもそうしたい」


6.ウサギは羽ばたく

【主な登場人物】


【あらすじ】

学校生活も残りわずかとなり、三年生の祇園寺羽紗は柏宮正樹に剣道部の追い出し稽古で勝負を申し込まれる。もし正樹が勝ったら•••羽紗が一番恐れていた言葉を口にする。正樹は負けたが、往生際の悪い正樹は、玲衣とのところに一緒に行こうという。しかし羽紗は「これは自分の問題だから」と誘いを振り切る。羽紗が帰宅すると黒野と虎之助が遊びに来ていた。タルトタタンを食べながらいろいろな話をする。虎之助は好きな人ができたという。一度振った七海湊だった。湊は降った後もいろいろよくしてくれて、チョコを貰った時に気持ちを伝えたのだという。虎之助は羽紗のおかげで変わったという。その日の晩、黒野と電話で話して小畑玲衣と向き合うことを決心する。翌日放課後、羽紗は玲衣を体育館の裏に誘い、二人で真剣に話をしていると、なぜか西島葵生が白岡六花にドッキリをして失敗する。春山早緑も出てきてドタバタしているうちに、なにもわかりあえてないのに二人とも笑いあう。笑い疲れた二人は手を取り合って別の場所で話の続きをする。


7.くろノラの物語

【主な登場人物】


【あらすじ】

終業式を来週に控えた金曜日、しとしとと雨が降っている。養護教諭の三澄楓が保健室に戻ると黒野がいる。楓が異動することをなぜか知っており、「ノラのお墓」の管理はどうするのか聞いてきた。他の先生に頼んだと伝えると、黒野は自分がちゃんとやると言う。黒野は一年生の頃、飛び抜けて優秀で、おとなしく大人の言うことをよく聞く、素直で手のかからない子だったが、二学期から学校に来たり来なかったりする。十月の半ば頃、保健室に来た黒野を「ノラのお墓」に連れて行き、楓自身が15年前に「くろノラ」に救われた話をする。緑色に光る目をそっと細める黒野。やがて黒野がお墓の前にしゃがんで手を合わせる。現実に引き戻される楓。黒野が不登校ぎみだった一年生の頃、なにをすればいいのかわからなくなっていたが、お墓に手を合わせた時、くろノラが答えをくれたと言う。前髪のおくできらきらとかがやく黒い瞳。ーーどうしたらいいかなんて答えはないよ。ーーそんなのはおまえの自由で、おまえの勝手だよ。ーーほら好きに生きろよ。