イランの「核開発」と「原子力プログラム」 | ナンでもカンでも好奇心!(tomamのブログ)

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硬軟取り混ぜた種々雑多なネタについて書いてみようかと思います。
全くまとまりがないと思うけど、それが自分らしさということで。。。

EUがイラン産原油の輸入禁止を正式に決めました。
これに対して、イランは「核開発」を続行することを表明しています。

http://www.asahi.com/international/update/0124/TKY201201240411.html

(引用開始)
イラン報道官、核開発続行を強調 「制裁は常に失敗」

 イラン外務省のメフマンパラスト報道官は23日、イラン産原油の輸入を全面的に禁じた欧州連合(EU)の制裁措置について「脅しや圧力、制裁という手段は常に失敗してきた。核の平和利用の権利を求める我々には何の影響もない」と述べ、今後も核開発を続ける姿勢を強調した。イラン国営テレビが伝えた。

 アラグチ外務副大臣も同日、「制裁を強めれば強めるほど核問題の解決に向けたハードルも高くなる」と批判。ただ「交渉のドアは開かれている」とも語り、国連安全保障理事会常任理事国にドイツを加えた関係6カ国との核協議に応じる姿勢を示唆した。

 原油輸出への制裁が科された場合、イランは原油輸送の要衝・ホルムズ海峡を封鎖するとしてきたが、両者は封鎖については言及しなかった。
(引用終わり)


これに対して、イランはIAEA(国際原子力機関)による調査団を受け入れます。

http://mainichi.jp/select/world/europe/news/20120125k0000m030054000c.html

(引用開始)
 IAEA事務局が20日公表した加盟国向け新年会の発言録によると、天野氏は「12年の主な優先事項は、イランの核開発が平和目的であるとの国際的な信頼を回復することに向けて事態の進展を図ることだ。主要な保障措置(核物質管理)問題の中で最も重要な課題だ」と強調した。

 また、今月末にIAEA査察部門のトップ、ナカーツ事務次長率いる高官級調査団がイランを訪問することを正式発表した。天野氏は具体的な訪問日程に言及しなかったが、イランのソルタニエIAEA大使によると、調査団は今月29日から31日に現地入りする。

 IAEAは現在もイランで申告済み核関連物質の計量管理など通常の査察活動を行っているが、今回の調査団は、核兵器開発に必要な資材の調達や特殊技術の習得、実験などに関する疑問について、イラン側から説明を受けるのが目的。
(引用終わり)

300年間他国を攻撃したことのない国であるイランは、今回もアメリカ・EUによる制裁・挑発にも関わらず、平和的に事態を収めようとしているものでしょうか。そうだといいのですが。

核兵器を保有していることがほぼ間違いないのに、IAEAによる査察を拒否しているイスラエルとは大きな違いです。さらに、米国はイスラエルには何の制裁も行おうとしません。


ところで、ここからが今日の本題。

核開発」という言葉ですが、これは英語の"nuclear program"の訳と考えられます。

例えば、New York Timesの2012年1月23日の記事のタイトルは "Iran's Nuclear Program"

ところが、同じ"nuclear program"という言葉が、原子力発電に関する日本政府の文書では「原子力プログラム」と訳されています。

アジア原子力協力フォーラム(FNCA) 「原子力発電のための基盤整備に向けた取組に関する検討パネル」 第3回会合開催結果について(報告) (平成23年7月12日 内閣府 原子力政策担当室)

(英語) 6. In the roundtable discussion on Human Resource Development for Nuclear program, …
(日本語)6. 原子力プログラムのための人材養成に関する円卓会議では、…

同じ「nuclear program」でも、日本が行うと「原子力プログラム」、イランが行うと「核開発」となります。

最初の記事の見出しでも、「イラン報道官、核開発続行を強調」ではなく、「イラン報道官、原子力開発プログラム続行を強調」とされていたら、ずい分と印象が違うのではないでしょうか。

日本の報道を見聞きしていると、イランが核兵器の開発を堂々と強行に続けているような印象を受けてしまいますが、イランは原子力技術の開発を続けている(と主張している)だけです。

また最近何者かによって次々と暗殺されているイランの4人の科学者も「核科学者」と報道されていますが、英語では「nuclear scientist」または「nuclear physicist」であり、日本人だったら「原子物理学者」と訳されるべき学者です。

イランで核兵器の開発を行っている恐ろしい科学者だから殺されても仕方ないというとんでもない印象を持たれそうですが、原子物理学について研究している科学者であったことが十分に考えられます。いずれにしてももちろん、科学者の暗殺などと言うことが許されるはずはありませんが。


この訳語の問題を的確に指摘している吉田 康彦氏(大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員教授、元NHK、元IAEA)の2007年の文章を見つけましたので、引用しておきます。

http://www.yoshida-yasuhiko.com/nanp/post-90.html

(引用開始:太字tomam)
 日本は言霊(ことだま)の国、日本人は言葉を大事にする民族。人類は、核分裂がもたらす莫大なエネルギーを、まず殺傷兵器として開発、そのあとこの原理を平和目的の発電に利用することを思いついたわけだが、両者を同じ言葉で表現するのは、ヒロシマ・ナガサキを経験した民族としてはご免蒙りたいという心情から、前者を「核」、後者を「原子力」と使い分けることにした。もちろん政府・電力業界の深謀遠慮だ。

 関係者が訳し分けを思いついたのは、atom (原子)よりも小さい nucleus(原子核)の分裂がエネルギー源であることが広く知られるようになり、1950年代に米国が政策転換してアイゼンハワー大統領が「平和のために原子力」を唱え、日本にも平和利用推進を薦めたからだ。

 英語では兵器も発電もすべて nuclear だが、日本語では「核兵器」「核弾頭」「核拡散」、「原子力発電」「原子力平和利用」と訳し分け、呼び分けている。平和利用でも「核燃料」という例外はあるが、それでも東京電力は「原子燃料」と呼び変えている。(ちなみに「原子爆弾」という呼称は今では廃語で、原水禁、原水協などの組織名だけに残っているだけだ。)

 したがって、北朝鮮・イランが進めているのは「核開発」であり、「原子力開発」ではない。また米国とインドが合意したのは「原子力協力」であって、「核協力」ではない。

(中略)

 というわけで、言葉の使い分けのごまかしは止めた方がよろしい。すべて「核」と訳したらいいではないか。中国語でも韓国語でも「核兵器」「核発電」という。政府・電力業界が「原子力」を別な概念のように思い込ませた罪は大きい。日本国民が総じて「核拡散問題」に無関心で「日本の核武装」に無頓着なのは、訳語の使い分けのトリックのせいでもある。われわれが推進しているのは「原子力」であって「核」ではない、という思い込みがあるからだ。
(引用終わり)