今も私は、海辺の小さな町でひっそりと、猫と一緒にどうにか生きている。
相変わらず、12月に入っても、夜明け前のショアジギングは当たりすらない
繰り返される日常。
しかし、勤め人だった頃の、常に世間に調子を合わせて、疲れ果てていただけの36年間の日常に比べ、1年近く過ごしたここでの日常生活の何と人間的なことか。生きているという実感を、自然とともに常に感じ続けることができるという喜び。
夜明けの静かな海を眺めていると、突然「海を感じるとき」というそんな小説を昔、10代の後半、まだ未知なる未来に希望を夢見た頃に読んだことを想い出した。そしてその頃の様々な情景がふと浮かんだ。
淡くて、苦い青春の一コマだ。
思い出に耽りながら、気づくと老いてゆく儚い自分の人生をしみじみと実感していた。
日はまた昇る。
10日、水曜日。
勤め人だった2年前まではボーナスの支給日だったなぁ、と溜息をつきながら、穏やかで暖かい日だったので青イソメを500円分買って、近くの岸壁へ向かう。
いつもの480円で買ったグラスロッドと古いスピニングリールでちょい投げ。
潮回りがよかったのか、よく釣れた。
小一時間の釣りで25センチのキス3匹、18センチ級のキス10匹と小ヘダイ。
この安物のグラスロッドは腰が弱く魚に抵抗を与えにくいのか、食い込みがよい。反発力も弱く、投げても飛距離は出ないが、慣れると使いやすい。当たりが出ても合わさず、ゆっくり引っ張ってやれば乗るのだ。
18センチ級のキス10匹は開いて、大きいキスは3枚に卸して、塩する。
大きいキスとヘダイは湯霜にした後、軽く昆布締めした後、酢で締める。
一晩寝かして、キス10匹と、ジャガイモを天ぷらに。ついでに竹輪があったのでチーズを挟んで磯辺揚げに。
夏場と違ってキス特有の臭みが取れて、甘い脂が乗っている。
塩だけでいただく。
衣をつけ油で揚げているのに、一口頬張るとキスから滲み出る甘い脂と、塩が、揚げた油との相乗効果で口内に染み渡り、舌を通してその甘い感覚が脳みそまで響き渡る。
スーパーで寿司を買ってきて、海老、貝、ハマチをはずしてキスと、ヘダイを乗せる。
キスもヘダイも、昆布と酢締めがとても相性がいい。昆布の甘みと酢の酸味、魚の脂が三位一体となって、舌を振るわせ、口の中に香味が溢れる。
幸せなひととき。
残りは、刺身に。
とても食べきれないので、天ぷらの残りは翌日へ。
近くのスーパーでは、相変わらず地元産のかつおが安いので買ってきて刺身にする。少し身が堅くなってきたがまだまだ美味い。 痛風の発作を恐れながら、戻りかつお特有の濃厚なもっちりとした感触をゆっくり噛みしめ、味わう。
新聞を読んでいると必ず邪魔をしにくる、かんたろう。
クシャクシャにした紙面の上に乗り、何食わぬ顔をしてとぼけている。いつものことだが憎めない。思わず顔がほころび、ひとり微笑んでしまう。
遊んで欲しいのか。目が誘っている。
ところが、遠赤外線ストーブの前では、気持ち良すぎて全身の力が抜けてしまい、だらしなく意識を失ってしまう、かんたろう。
そして暑くなり過ぎると、少し離れてクッションの上で体を冷やす。
来週は寒波到来だそうだ。寒くなるよ。
夜、今は枕元のストーブの前で寝ているけど、来週は蒲団の中で、一緒に寝よう。
日はまた昇る。
おやすみ、かんたろう。