夜明けの柔らかい青みを帯びた西空に、煌々と輝く満月。名残の春を満喫するかのように、ぼんやりと霞む、荘厳な朧月だ。



 その反対側東の海では、太陽が今まさに大島から昇り始めようとしている。
 

 その島陰から、辺りをオレンジ色に染め上げながら滲む白色に輝く太陽。

 季節は、今、春から初夏に変わろうとしている。


 しかし今週も荒天が続き、晴れても波が高く、なかなか海に出られなかった。
 この日も晴れてはいたが、波は高く大きくうねる。
 浜からのジギングは相変わらず何の当たりもなく、あっという間に夜明けを迎え、気がつくと辺りは白々と眩しく輝き、すっかり明るくなっていた。


 それにしても連休前の平日で、波も高いのにやたらと人が多い。
 ゴールデンウィークは海に近寄らないつもりだ。



 昼はカラッと晴れ上がり、キャンパス上に描かれるような青と白一面の爽やかな情景となった。

 その海面を、詩美豊かな薫風が軽快に滑ってゆく。



 その日の午後。ぽかぽかとした陽気に誘われて、ゴカイを少し買って湾内でのちょい投げに興じる。
 クサフグとキタマクラの猛攻にあいながらも、少しマシな引きで上がってきたのはヌルヌルのメゴチ(ネズミゴチ)。



 足もとキワキワの落とし込みに、小気味良い激しい当たりと引きを見せてくれたのは、鮮やかな色彩で綺麗に輝くロクセンフエダイの幼魚等々・・・。
 全てリリースしたが、晩春の気だるい午後のひとときをそれなりに堪能させてもらった。



 珍しく近くのスーパーで活鮑を売っていたので一番大きいのを一個買った。柔らかめの雌貝鮑なのでじっくりと二時間かけて酒蒸しに。


 とても柔らかくて噛めば口の中で旨みが増幅する。飲み込むのがもったいない。
 別の皿でニンニクと蒸した肝は口の中で濃厚な熟された旨味が広がり、ついつい熱燗が進む。



 この日は40センチもある大アジを買ってきて捌いた。


 三枚に卸して片身の腹のところを少しだけニンニク生姜の刺身で味わい、あとは大葉を挟んでのフライに。
 冷凍していたアオリイカもついでにフライに。



 カニカマとワカメを混ぜ、米酢と和三盆で味付けした定番のきゅうりの酢の物を添える。


 やはり主食は鰹の刺身。生姜醤油とマヨネーズで。




 陽気に誘われて、かんたろうは土間で転がり回る。



 すばやく、ひっくり返る。



 大きく、のけぞる。


 変な顔をする。



 ・・・健気で愛くるしいかんたろうを前に、私は独り微笑む。

 ひたすら憂愁に身を任せ、哀傷の匂いを全身に漂わせ、やっとの思いでこの海辺の小さな町にたどり着いた私の心の傷口は、落ちぶれながらも手に入れた孤独な自由と、この猫によってどうにか癒合されていっているようだ。


 おやすみ、かんたろう。
 いい夢見ろよ。



 遠く南海上に発達している台風の影響か、今週もずっとうねりが残り、波の高い状態が続いて思うように釣りに行けなかった・・。

 木曜日の夜明け前、久しぶりに荒波の海と対峙する。
 ところが目前に不気味な紫だちたる雲が現れ、独り身の孤独な心に、不安を乗せて重くのしかかる・・。



 海から昇る太陽は徐々に大島に近づいてきた。初夏にはこの島陰から悠々として、荘厳に輝きながら朝日は昇るのだ。

 季節は、何か見えない大きな力によって、今まさに移り変わろうとしている。



 見はるかす四方の光景を毒々しいオレンジ色に染め上げ、次の季節の到来を呼び起こす晩春の暴力的で危険な曙光。



 凛として輝く旭光を全身に浴びた私は、その破壊的なエネルギーの威力に圧倒されて立ちすくみ、途方にくれてしまう。
 結局この日も何も起こらず、いつの間にか日は昇りきっていた。


 その日の昼下がり、いつものように海辺周りを散策に出かけた。すでに薫風吹き荒れ初夏の気配が漂う中、樹々も羊毛のようにふさふさと日々生い茂ってゆく。
 そして風に煽られた山が得体の知れない巨大な生き物のように大きく揺れ、蠢き続ける。



 空も海も山も川も、花も樹々も鳥も虫も、全ての自然の生命力が溢れんばかりに噴出を始めている。
 その圧倒的な存在感と原動力に打ち負かされて、益々私の心は憂鬱となる。



 そんな私の寂寞とした心とは裏腹に、蒼穹の海を嬉々として勢いよく泳ぐ鯉のぼり。


 さすがは海辺の漁師町、よく見ると鰹や鰤も泳いでいる。




 外洋は荒れているので、昼からゴカイを買って湾内でちょい投げ。


 まだまだ水温が低いのかフグにキタマクラ、ササノハベラしか釣れない。
 アカササノハベラ二匹を持って帰る。


 ベラは丁寧に三枚に卸し、太白胡麻油でカリッと揚げる。
 人参、玉ねぎを添えて南蛮漬けに。
 予想以上にさっぱりとして美味い。



 豆腐が余っていたので、昆布と鰹節で出汁を取り、切り干し大根の煮物に混ぜ込む。量が増え、豆腐に旨みが分散し、味も上品に仕上がった。


 主食はやはり鰹の刺身。生姜醤油とマヨネーズで。
 ほとんど毎日のように食べている気がする。


 先日、隣人の老夫婦から新鮮なきゅうりを頂いたので、カニカマとワカメで酢の物を作る。
 和三盆糖で上品な味付けに。


 冷蔵庫にストックしてある、ホタルイカの沖漬けもお酒のつまみに。




 かんたろうはやっとストーブの前から離れ、昼間は気持ちよさそうに日向ぼっこ。
 春は眠い。


 陽気に誘われ、そのまま寝落ち。


 夕方になると起き出して、遊ぼうと誘う。



 少し貫禄が出てきたのか、真面目な大人顔のかんたろう。


 おやすみ、かんたろう。

 もうすぐ不気味な春も終わる。
 風薫る新緑の爽やかで素敵な季節がやっとやってくる。


 今週も雨の日が続いた。

 木曜日、束の間の晴れ間。
 曙光が大島付近を鮮やかな橙色に染め上げていく。
 真夏になるとこの島から朝日が昇るのだ。



 真冬はもう少し南、この小島寄りから今より一時間ほど遅れて日は昇っていた。
 季節はあっという間に巡る。


 
 四月に入って繰り返し春の嵐が吹き荒れ、波は高くうねりが残り、晴れても思うように釣りができない日々が続いている。
 バラシはしたが、先週土曜日の爆発的な強い当たりと、重い引きが懐かしい。



 早朝の蒼い空に浮かぶ晩春の巨きな雲に、何故か茫漠とした悲哀を感じる。
 海上から次々と生まれては巨きく育ち、流れ、消えゆく雲の変化に、憂愁に満ちた儚さや侘しさを覚える。
 時はただ過ぎゆく。



 この日陽気に誘われて、昼間散歩に出かける。
 青空に芬々と匂う草花や優雅に垂れ下がる藤の花が、晩春の甘い気配を漂わせ、薫風吹き渡る新緑の季節の到来を予感させる。

 そして、今朝感じた蒼穹に漂う不吉な雲の悲哀な感情は、私の中からすっかり消え失せていた。



 海に出れない日が続いたので、石鯛釣りの準備を始めた。竿やリールを丹念にチェックし、磨き上げる。仕掛けも余るほど作る。
 ノッコミの季節なのにこんなに荒天が続くとなかなか沖磯に行けない。



 雨の日。時間がたっぷりあるので、肉じゃがをじっくり煮込んで作ってみた。
 鰹節と昆布で出汁を取り、醤油、酒、本味醂、和三盆糖で味付けて、人参玉ねぎをとろとろに。ジャガイモは煮崩れしないよう後入れで。
 冷まして、ビール片手にご飯に乗せる。



 ついでに定番のきゅうりの酢の物も。



 きゅうりと言えば近所のベーカリーで評判の「きゅうりドック」を試しに買ってみた。
 予想以上に柚子味噌味が濃く、ご飯かビールが欲しくなった。 



 またまた、懲りずに地元産朝獲れ鰹を刺身に。生姜醤油とマヨネーズで。
 脂の乗った身、毎日食べても飽きない。


 この日は、寿司飯を炊いて、漬け鰹の握り寿司。
 口の中でとろける。


 昆布と鰹節で丁寧に取った出汁で薄味のカボチャの煮物を作る。
 ビールにも日本酒でも、もちろんご飯にも、最高のおかずに。





 昨年の元日の朝、公園で私をじっと待ち続けていたかんたろう。
 顔の傷が痛々しい。
 


 家庭を失い、ひたすら憂愁に身を任せていた私の中空の心に、悲愁に満ちたそのかんたろうの苦悶の表情が悲鳴と共に突き刺さる。

 どうしても一緒に暮らしたかったのだ。



 
 今、一緒に暮らし始めて一年が過ぎた。
 春の陽気のせいか最近よく眠るようになった。
 
 少し舌が出ている。



 恥ずかしい。


 夜が来て目が覚めると、二階から遊ぼうと誘う。



 まん丸い黒い瞳がキラキラと煌めいている。

 おやすみ、かんたろう。
 そろそろ寝ようよ。