剣の形代(つるぎのかたしろ) 1/239 | いささめ

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 現在に生きる我々は知っている。鎌倉幕府は源頼朝が作り出したことを知っている。

 現在に生きる我々は知っている。鎌倉幕府が滅ぶ百年以上前に鎌倉幕府の将軍の名から清和源氏が消えたことを知っている。

 源頼朝が自らの身体に流れる血統を利用して永続的な組織として作り上げたはずの鎌倉幕府なのに、鎌倉幕府は永続的でなかっただけでなく、幕府のトップたる征夷大将軍の地位に至っては源氏が独占することもなかった、いや、源氏が継承し続けることすらできなかったのだ。理由を突き詰めると、源頼朝は永遠の命を持つ存在ではなかったし、源頼家は源頼朝の後継者としての資質を有さず、源実朝は後継者を残す前に命を落としてしまったということになるが、もっと突き詰めると、源頼朝の考案したシステムそのものが永続の保証を生み出さなかったからというのが理由だ。法律に限らずどのようなルールでも言えることだが、ルールを考えている間はこうなれば正しくなると考えるし、ルールが始まってから少しの間はルールが正しく機能する。しかし、現実社会から逸脱するようなルールは時間経過とともに守られなくなり、穴が突かれ、空文化する。そのときになってようやく、ルールを守らなくなったのではなく、ルールのほうが間違っていたのだと気づくこととなる。

 政治というものは、どのような社会にするかという大義名分を掲げるとかえっておかしくなる。政治がうまくいくケースというのは、大義名分を掲げて大義名分の通りに行動するのではなく、現在起こっている問題、そして、現時点ではまだ露見化していないがこのままでは発生してしまう問題を、手にしている強大な権力を用いて強引に解決するというケースである。このような政治を執る場合、掲げる大義名分は、無い。掲げる必要が存在しないだけではなく、掲げることがかえってマイナスに働いてしまうのだ。政治の行動指針が現時点で発生している問題の解決と今後発生するであろう問題の解決であり、それが何であるかはその都度決まるというような仕組みを作り上げると、政治はうまくいき、政治家に求められる唯一の指標である国民生活の向上は具現化する。源頼朝の例で行くと、平家政権と源平合戦によって破壊された日本国というのは誰もが認めざるをない問題であった。だが、日本国を復興させるという大義名分があり、その目的を果たすための手段として征夷大将軍の役職を用いた鎌倉幕府という新たな組織を作り出したことは、必ずしも適切ではなかったとするしかない。

 

 

 

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