剣の形代(つるぎのかたしろ) 2/239 | いささめ

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歴史小説&解説マンガ

 鎌倉幕府の歴史は一世紀半を数えるが、そのうち、源頼朝とその子供達が果たした期間は五分の一しか数えられない。しかも、清和源氏が将軍の職位からいなくなった後も鎌倉幕府は存続した、それこそ、源氏将軍が存在した時代の四倍の長さを記録したのだ。鎌倉幕府の歴史のうちの八割は源氏将軍抜きの鎌倉幕府となったことなど源頼朝も想像すらしなかったであろう。源頼朝は超一流の政治家であった。しかし、永遠の命を有する存在ではなかった。源頼朝の死後、鎌倉幕府は混迷と動乱に突入し、源頼朝と共に鎌倉幕府を打ち立てた御家人たちは、一人、また一人と仲間の手で討ち取られていった。源頼朝は超一流の政治家であったからこそ鎌倉幕府という前代未聞の組織を作り上げることに成功したのだが、その源頼朝を以てしても、死後の混迷を防止することはできなかったのだ。しかも、その混迷の行き着く先に、源頼朝が求めていた結果の成就があったのだ。

 多くの人が考える鎌倉時代の情景とは、鎌倉幕府の将軍の名から清和源氏が消えた後の情景である。それまでは、鎌倉幕府は存在していても時代区分としては平安時代であり、鎌倉幕府が源氏のものでなくなってからようやく鎌倉時代が開始する。鎌倉時代が始まるまでは、鎌倉幕府という源頼朝の考えた画期的な権力が存在してはいるものの時代としては平安時代であり、文化も、文明も、社会制度も、変容はしたものの平安時代が継続している。名実共に平安時代が終わりを迎えたのは鎌倉幕府の征夷大将軍の名に清和源氏が記されなくなってからである。

 本作はこれから鎌倉幕府が日本国において圧倒的な存在となる過程を描いていくのだが、それは、源頼朝の死後の、いや、源頼朝が生前の頃から既に顕在化していた混迷を追う過程の描写でもある。

 前作「覇者の啓蟄」は鎌倉幕府成立に至る過程を描き記した。

 本作は鎌倉時代成立に至る過程の前半を書き記すこととなる。



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