四大悲劇の一つ、『オセロー』も登場人物が多い作品ですが、ここでは、ムーア人の将軍オセロー、副官キャシオー、旗手イアーゴー、オセローの妻デスデモーナとその侍女でイアーゴーの妻エミリアの五人に絞ります。オセローは「おまえを愛さない時がくればこの世は混沌の闇に飲まれよう」というほど妻を愛しています。それがイアーゴーの策略によって「嫉妬」という毒薬に侵され、悲劇的な結末を迎えてしまうのです。
イアーゴーは、「将軍──」と切り出すものの、ちょっと気になることがあるとか、私の推測は間違っているでしょう、などと含みを残した言い回しでオセローの心に、ありもしないデスデモーナとキャシオーの不貞の虚像をつくりあげていくのです。
エミリアはデスデモーナが落としたハンカチを拾い、イアーゴーに渡します。夫から盗んでくれと言われていたこのハンカチは、オセローが愛の証として妻に初めて贈ったものです。イアーゴーはそれを二人の不貞の「証拠」に仕立て、オセローを翻弄します。
嫉妬心を煽られたオセローは妻を疑い、自分を失い、ベッドのなかで妻を絞殺してしまいます。そこにエミリア、イアーゴーたちが駆けつけます。「奥様は天使、あなたは黒い悪魔だ!」とエミリアはオセローを罵りますが、オセローはあのハンカチをキャシオーが持っていたと語り、殺人を正当化します。日頃、夫に蔑ろにされ、服従を強いる夫に、“私だってやれるよの”との一心で、何も考えずに夫に渡したハンカチがもとでデスデモーナが死に至ったことに、エミリアは胸が裂けるほどでした。だから、犯行が暴露されるのを恐れたイアーゴーが「黙っていろ!」とエミリアを脅した時に、彼女は男たちの束縛からの自由を求めて、真実を語るのです。
黙っていろだって!
とんでもない、北風のように遠慮なく
言いまくってやる。神も人間も悪魔もいっしょになって、
よってたかって黙れと言おうと、言ってやりますとも
エミリアは罪を暴いた後、夫イアーゴーに刺殺され、オセローはイアーゴーが生きて苦しむことを願いながら、短剣で自害して果てます。