グローバル炭素循環とそれに伴う地学作用 | 文字の風景──To my grandchildren who will become adults someday

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After retirement, I enrolled at Keio University , correspondence course. Since graduation, I have been studying "Shakespeare" and writing in the fields of non-fiction . a member of the Shakespeare Society of Japan. Writer.

 

              © Anton Balazh / Adobe stock

 

 

グローバル炭素循環とそれに伴う地学作用について述べる。

 

1.グローバル炭素循環とは何か

 

 炭素は形を変えながら、陸-大気-海水─海底-マントルの中を循環している。したがって、「大気中の二酸化炭素の量は、この地球上の炭素循環がどうなっているのかによって決ま」(註

1)る。大気中の二酸化炭素は炭酸として雨水に溶け込み、この炭酸によってケイ酸塩鉱物は化学的に風化される。風化作用とは大気中の二酸化炭素を消費するプロセスであり、温度が高いほど風化が進み、その風化によってイオンを溶かし出す。とくにカルシウムイオンCa2+は大陸から海に流入し、大気から海に溶け込んだ二酸化炭素と反応して炭酸塩CaCO3となって海底に沈澱する。炭酸塩鉱物というのはいわゆる石灰岩などのことで、地球上でもっとも多くみられる堆積岩である。この炭酸塩生成反応は本来無機的に進行するものであるものの、地球ではそのほとんどに生物が関与している。たとえば、有孔虫やココリスなどのプランクトンがあげられる。沖縄土産として知られる「星の砂」は有孔虫の殻であり、サンゴ礁も石灰岩でできている。

 

 炭酸塩は、深海底に堆積した炭酸塩鉱物や有機炭素は、海底プレートの運動によって移動していて、いずれは大陸の下に沈みこむ。ここで一部は大陸地殻上に付け加えられ、現在陸上に見られるような石灰岩地帯をつくりだす。残りの炭酸塩鉱物は大陸の下に沈み込み、その一部は上部マントルまで沈み込む。しかし、大部分は高温・高圧下において変成作用を受け、二酸化炭素・カルシウム・ケイ酸塩に分解される。二酸化炭素は火山活動を通じて再び大気中にもどされる。また、マントルへ沈み込んだ炭酸塩もマントル対流によって、やがて中央海嶺から脱ガスして大気中へもどる。このように炭素は二酸化炭素、炭酸水素イオン、炭酸塩などと形を変えながら地上表層を循環している。これが炭素循環である。

 

2.炭素循環に伴う地学作用について

 

 長期的な炭素循環においては、風化作用が大変重要な役割を果たしている。とくに珪酸塩鉱物の風化作用は、海洋における炭酸塩鉱物の沈殿と連携することによって、正味で二酸化炭素を固定する重要なプロセスである。「じつはこのプロセスこそ、地球環境の長期的な安定性を担っていると考えられている(註2)」。塩鉱物の風化作用というのは、一般的な化学反応と同様に温度依存性をもつ。つまり風化作用は、温度が高いほど速く進み、温度が低いほど進みにくい。

 

 ここでいう温度とは、風化作用が生じる場所の気候を反映したものである。風化作用は地球の気候状態に右され、二酸化炭素の消費量は気候状態で決まる。熱帯気候での二酸化炭素の消費は寒冷気候と比べて激しくなる。「したがってこれはまさに二酸化炭素濃度を調節する役割を果たすことになる(註3)」。

 

 すなわち、地表温度が高いと岩石はわずかに水に溶けやすくなるため、風化しやすくなり、カルシウムイオンの供給も多いので、二酸化炭素が炭酸塩として固定される量も多くなる。仮に、炭酸塩として固定される二酸化炭素量が、マントルからの供給量よりも多いと、大気中の二酸化炭素は減り、温室効果が弱まって、地表温度は下がる。このことによって風化作用はほとんど進まなくなるから、二酸化炭素の消費が減ることになる。一方で、火山活動は地表温度に関係なく一定なので、二酸化炭素の消費よりも供給が多くなり、大気中には二酸化炭素が蓄積され、やがて温室効果が強くはたらくようになる。その結果、気候システムはもとの状態に戻る。

 

 逆に、二酸化炭素の量がマントルから供給される量よりも少ないと、徐々に大気中の二酸化炭素は増え、地表温度は上昇し、風化作用が促進されるために、二酸化炭素の消費量が増加し、大気中の二酸化炭素濃度は低下し、温室効果も低下する。その結果、やはり気候システムはもとの状態に戻る。

 

 結局、この過程では、マントルからの二酸化炭素の供給と、炭酸塩として二酸化炭素が固定される量がつり合うようになる。地表温度は、このつり合いが成り立つような温度になるのである。

 

 地球では活発なプレート運動が起こっていて、マントルからの二酸化炭素の供給はある水準を維持し、地表温度は、この供給量に見合う量だけ、炭酸塩として二酸化炭素が固定されるような温度に維持されることになる。この温度は、太陽放射が増えてもほとんど変わらないので、太陽放射によらずに温度が一定に保たれると考えられている。   

 

 

<引用註>

1 山賀進(2010)、『一冊で読む地球の歴史

としくみ』、ベレ出版、p.73

2 田近栄一(2009)、『地球環境46億年の

大変動史』、化学同人、p.71

3 同上、p.72

 

<参考文献>

・小久保英一郎・嶺重慎編著(2004)、『宇宙と生命の起源』、岩波ジュニア新書      東京大学出版会

・松井孝典(1990)、『地球=誕生と進化の謎』講談社現代新書 

・住・松井・鹿園・小池・茅・時岡・岩坂・池田・吉永編(2010)、『地球環境論』、岩波書店