実家に向かって、車を走らせる。
途中から、雨が降ってきた。
パシャ、パシャ。
車の屋根を打つ雨の音がする。
しばらく聞いていると、何だか線香花火が燃える時の音に似ているような気がした。
パチパチではない。
パシャ、パシャ。
小さな音が、途切れることなく続いている。
昔のことを思い出した。
今のように高いマンションが建っていなかった頃。
平屋の家から外を見ると、雨が田んぼを打っていた。
あの時も、こんな音がしていただろうか。
パシャ、パシャ。
雨は、落ちる場所によって音が違う。
田んぼに落ちる雨。
車の屋根を打つ雨。
窓を叩く雨。
同じ雨なのに、それぞれ違う音を出している。
車の中では、クラシックなど、気分が落ち着くと言われている音楽を集めて聞いている。
「これを聞けば、少しは心が落ち着くのではないか」
そんなことを考えて作った音楽集である。
しかし、その日は何となく音楽を消してみた。
すると、雨の音が聞こえてきた。
パシャ、パシャ。
そこに、ワイパーの音が重なる。
シュッ、シュッ。
何も特別なことはない。
ただ、雨が降っていて、車が走っているだけである。
それなのに、こちらのほうが、よほど気分が落ち着くことに気がついた。
昔、クリニックを開業した頃、自然の音を収録したCDを買ったことがある。
虫の音。
波の音。
森の音。
待合室で流せば、少しでも患者さんの気持ちが落ち着くのではないかと思った。
ところが、流してみると、ほとんど聞こえない。
待合室が静かすぎるのか、CDの音が小さすぎるのか。
近づいて耳を澄ますと、かすかに波の音がしている。
しかし、その程度の音では、誰も気がつかない。
結局、しばらくして止めてしまった。
自然の音というものは、広い場所で流すよりも、車の中のような少し狭い空間のほうが、心に届きやすいのかもしれない。
あるいは、CDから流れてくる音よりも、本物の雨のほうがいいだけなのかもしれない。
それにしても、この日の雨音は少し気になった。
パシャ、パシャ。
線香花火のような音。
遠い昔、田んぼを打っていた雨のような音。
音楽を消してみなければ、聞こえなかった音だった。
何かを聞こうとして、いろいろな音を集めている。
けれど、ときには音楽を消してみると、今まで聞こえなかったものが聞こえてくる。
次に雨が降った時も、また音楽を消してみようと思う。
パシャ、パシャ。
その日の雨が、どんな音をしているのか。
少し耳を澄ませてみようと思う。