【絶対に、見つけてやる!】 | todakaclのブログ

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呼吸器内科開業医(救急救命15年/呼吸器40年)
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【絶対に、見つけてやる!】

2007-12-16 21:46:20 | 健康・病気

<前振り>

福岡の内科むけの雑誌に掲載される記事です。中心人物の友人の許可を得ての掲載。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶対に、見つけてやる!」と、吠えた医師が4人(少なくとも2人)このストーリーに登場します。その心意気というか、探究心(科学的であったり、人道的な動機のミックスか)は、皆さんにも共感していただけるかと思い、一筆。

これまでテーマの、脳細胞の知的揺さぶりと異なり、実際に起きたことに、ほんの少し手を加えただけの、限りなく真実に近い実話仕立てです。

 

 

話は、H18年初秋に始まる。大手企業で大阪へ単身赴任していた、小生の親友から電話があった。ここ数年他には何も引っかからないが、HbA1cが6.1とか6.3とかでチェックされてたところに、倦怠感がひどく、ふらつくために近場の中規模の病院を受診したところ、外来の自称糖尿病専門医から、『HbA1cが9.3と異常に高い。緊急入院(1週間予定?)して、早々にインスリン療法を開始すべきだ。』と促された。

のに、直後に4日後の月曜日にならないとベッドの空きがない、待つようにと言われ、彼はいぶかしく思い、福岡に帰ってから入院すべきなのか、電話をしてきた次第。

無病息災に近い、風邪ぐらいでしか病院に縁がない彼は、素人なりに、糖尿病の予備軍・軽症だった自分が、いきなりインスリン注射の世界に突入するという、必要・現実感を引き受けるには、主治医の説明があまりにも不足だと感じたらしい。緊急といった舌の根の乾かぬうちの「4日後」の台詞が駄目を押した。

 

 

小生は、グルグル電話のこちら側で、脳細胞をフル連結。

まずは、症状の倦怠感。働きマンの彼が疲れと表現するのは、朝起きた時にも残る、アパートにたどり着いてからも消えない、慢性的で徐々に強くなってきてるもの。不眠、ストレスとは無縁なキャラクター。糖尿病の急性増悪特有の、食欲の急増や、急減ではなく、徐々に空腹感が薄れ、時には疲れすぎのためのような食べる気力がないこともあったとか。FBS210だって、入院の緊急性は何処に?

ふらつき。三半規管など、脳底動脈循環不全だって考慮のうちだ。50才6ヶ月。

心機能は?、心電図は?

何はともあれ、『倦怠感、ふらつき、食思不振に関し、糖尿病を中心に精密検査が必要です。そのための入院を考慮しましょう。』でしょう、まだ望ましかった説明は。

一部、小生の思考に未熟さもあるかもしれませんが、諸先生方ご容赦下さい。

 

 

彼への助言は、ご同業にとっては灰汁の強いものです、自覚してます。

転医。1週間の入院でインスリン?専門知識と技術の経験的蓄積で鍛え上げられた、職能集団の【医師】という存在と遣り取り(口頭契約・我が身の)において、唯一のよりどころは感性です。一般の方がある日突然患者になったときでも、社会人として、様々な人間と付き合ってきたことの蓄積としての社交的感性を根拠に。

2件、多くても3件まわれば、多数決ではなく、いい医師、任せられる医師に巡り会うはず。その件数以上(3とは限らないが)だと、ショッピングになるリスクがあり、今度は患者側に問題ありとなってしまうことも伝えた。通常は再診までは、だが今回は例外的。

 

 

2日後の土曜日には、今度は会社の近場で受診。外来フォローとなった。ダオニール2.5mgだったかと思う。それから数ヶ月、自覚症状は続くものの、ひどいきつさや、ふらつきは出なくなったとか。

9月末。『何じゃこりゃー』(松田優作風)の緊急入院が。会社で仕事中にばったり倒れて、意識はあるものの、かなり動けない状態に。BSはHighではなく、HbA1cも4.0間近で、脱水・低栄養や過労のような診断で、かかりつけ病院で1週間点滴を受け退院す。4.0は逆の意味で異常を感じる。何が起きてるのENT后にメール来たり。

妙なことに、連絡のたびにSU剤のドーズが減る。あれよあれよという間に1/4錠、投薬無しが11月の終わり。HbA1c4.3。FBS78。Bw80⇒64kg/4ヶ月。食欲6割。??

 

 

また、二人で悩むことに。遠方にて、直接助けきれないもどかしさ募る。

 

 

この親友は、近場で知り合ってからは15年来の付き合いで、オゾマシキかな、喜ぶべきか、亭主の生まれ年、月が一緒のみならず、奥方の御ん年、長男、長女、次男まで同級生(男女の別までも一緒)。ついでに、眉をひそめる方がいるのも構わず、血液型まで、順に、B、A、AB、AB、AB。恐いぐらいの一致率で、若い方々には、占いやら、運命やらのネタになる次第。・・・少なくとも5vs5全員が、気が合います。

子供が小さい頃は、親戚に6人の子供預けて、Wカップルでサンパレスに、油の乗った松任谷由美のコンサート行ったりして、そのあと、マリナ通りのカクテル・バーでくつろいだり、「金・妻」のよい時期のシーンもどきありました。

我が家の古~い、ボロ・コンピュータの面倒な修理もしてくれたっけ。

 

 

その彼が、遠くて。と思ってたら、天の恵みか、H19.4に5年ぶりの帰社賜ったのです。

5月はじめ、拙医院の待合室に、奥様に付き添われた、やせ細って色白の、182cmの彼が、肩を落としてベンチ・シートに座り控えてる姿あり。

 

 

「絶対に、見つけてやる!」

そうです。最初に吠えたのは、小生です。

この疲れ、脱力、栄養失調は、あたかもアジソン。だが、この白さはマッチしない?

HbA1cは4.5。糖尿病は説明の主役足り得ない。思いつかない、まず通常の血液生化学とCBCを診ると、Hbが10.8、RBC350万だ。大阪からの紹介状では、注目されておらず、当然データも経過の中に無し。貧血が二次的にあるというのは考えられる。色の白いことへの説明にも。それで、消化管出血を先ず探ってみることにした。拙医院の近くに、バリバリの外科・胃腸科の先生がいらっしゃって、日頃からよくお願いしてる。(実は、T.Cho120はじめ脂質プロファイル低値も気になるが、先ずは)

 

 

「絶対に、見つけてやる!」

出た~(マスダ・オカダ風)、また出た~。上・下とも原因病巣らしきもの無し。だから、この先生は、吠えたんです。こんな状態の患者に何か病気がないはずがない。正確には「私のところでは手がかりは無かったが、何かキッとあるはず。」というお言葉ですが、患者の彼は、その台詞だけで嬉しかったそうな。

この方には、決着がついた日に診断をお伝えし、顛末は過日、西区の消化器の講演会で座長をされておりましたので、懇親会で申し上げました。

スッキリ。

 

 

それました。今度は、骨髄性の貧血を考え、某巨大私立大学病院の腫瘍・血液内科へ紹介。彼自身が、「絶対に、見つけてくれ!」の第一発声者で、奥様もそうなので、気力充実バリバリの勢いで受診しました。小生のことですが、この病院には特に呼吸器科のW教授をはじめ、多数の科で大変お世話になって(ご迷惑も甚だ掛け)、苦しい時の○○頼みです。

その血液でまた軽く問題発生、あちらではHbが11.8。WBC、platは正常。

でも、「絶対に、見つけてやる!」

でした。担当のドクターは、低脂質、低アルブミンもあるので、代謝・内分泌科に依頼するとの事でしたが、親友には『必ず、戸高先生に診断と治療を提示する。』とおっしゃられたそうです。その日にご夫婦揃って、報告にいらっしゃいました、よい表情で。

 

 

佳境に入って来ました。内分泌科なんです、そう、糖尿病も扱うけど、ホルモンのスペシャリストがいるんですね。散弾銃なのか、3連バースト・ショットなのか(どの分泌臓器をターゲットに?)詳細は分かりませんが、見つけて下さいました。

 

 

 

 

【ステロイドホルモン】が殆ど、全くというほど分泌されてないのです。その上、極めて稀なことに、上位のACTHのみが不全なのです。下垂体機能不全ではなく、 【ACTH単独欠損症】だそうです。

さもありなん、ステロイドが出てなけりゃ、身体能力はガタガタです。アジソン風なのに白いのは、上位の不全という推測が出来なかったのは、小生(だけ?)の未熟なり。

因みに、「絶対に、見つけてやる!」

と、この内分泌の先生がおっしゃたかどうかは、少しだけ薄い。ただ、診断がついたときに、お若い女医さんらしく『見つけましたよ。当病院で3例目という稀な病気です。しっかり治療しましょう。』と、おっしゃってましたが、親友には、楽しそうにみえたとか。それもありですよね。

最終的な功績は、この方と、そのチームです。有り難いことです。

血液内科の先生から、口頭連絡の後、治療が始まり、正式に報告の文書をいただいたのは、初診から2ヶ月を経ていました。ようやく、明けました。(謹賀新年的に)

 

 

今彼は、コートリルを10と5mg(朝・夕)だったかと思いますが、内服して元気に仕事してます。よく食べよく働き、たまに家族には理解不能な切れ方をする、元の彼が戻ってきました。最近は2ヶ月で4kgも太ったとかで、担当の先生にちょっとたしなめられたそうです。

傍から無責任に、福与かに肉のついていく彼を観るのは楽しいものです。

病気の不幸自体には変りはありませんが、治療の存在することの喜びは大きい。

 

 

「絶対に、見つけてやる!」