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呼吸器内科開業医(救急救命15年/呼吸器40年)
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「いい加減療法、もしくは、いい・加減の治療」ってのをやってます。

2009-08-11 00:25:09 | 健康・病気

またまた、医師会の雑誌の原稿の先揚げです。
ちょい、難解なので読むならそのつもりで。

 

 

【声】DyDrm6

「いい加減療法、もしくは、いい・加減の治療」ってのをやってます。

 

 

 

ま、表題には驚きがあると思います。実は開業前から7,8年アッタメてた題材です。

言葉が二通りの意味になってしまう代表格がコレです。前者はどうみても、えーころかげんな、おおまかな、マンゲルなという印象が付き纏います。たいして、いい、で切ってしまうと、良い塩梅、適度、適切、過・不足なき、というすごくポジティブなイメージになるのです。

で、どちらに採られようとも構わないのですが、外来診療の服薬コンプライアンスのことで常日頃、小生が実践してることです。長年の蓄積で煮詰まってきた感があるので、そろそろ公の場に出してみようと思ったものですから、興味を引かれた方は読み進んで下さい。

そういえば、コンプライアンスという言葉には、ちょっとネガティブなイメージがあります。高いところから服薬することを押し付けるプレッシャーの英語に語源が近いからでしょう。かわりにアドヒーランス・アドヒァランスという言葉が提唱されて来てますが、患者さんの自主的な意欲みたいなものらしいのですが、いかんせん日本語部族には発音しにくいし、インパクトのある音でないのが残念。ついコンプライアンスのほうを使っちまいますよね皆さん。小生的にはこの辺が背景の気がします。

 

 

 

実は、生活習慣病(←こいつにも拘りがあって、「成人病」の方が好きです。自己責任みたいな、前政権の至上主義的、医療切捨ての意図が見え隠れする。環境のせいなのに、まるでその人が悪者?)の方々にも、このミニ版で、例えば高血圧管理中の方が、多くは1剤で済む軽症ですが、30日処方をしてると面白いように35日目に再診する。日曜日に忘れる。それも道理です。皆仕事に行く前のバタバタした朝の行事に1錠のむのを入れ込んでるものだから、遅く起きた朝はトブ。その件が発覚したときの対応に、表題が生きてくる。

「ソウだよね、みんな結構おんなじみたいですよ。」、続いて「最近のクスリはよく出来ていて、なかでも36時間効き目が残るのもあるから、忘れたことでビクつくよりも、ソウだったと思い出して、その日一日をゆったり過ごした方が、血圧にいいんじゃないですか。」の駄目押しの言葉が小生の口から出たとき、の安堵感たるや、みてるだけでもほほえましいもんです。働き盛りバリバリの40オトコや、70の女性まで、とても可愛らしく。

さすがに糖尿病はソウはいきませんが、高脂血症とか高尿酸血症はもっと派手で、患者さんが主に、ガッツリはクスリを続けたくないという本能から、コストのこともあるけれど、意図的に2日に1回とか、3日に2回とか、果ては1ヶ月使って、2ヶ月休薬なんて方も稀に発覚する。この辺には、「じゃあ、今度検査したときに、その方法でいいかどうか確かめて見ましょう。ゼロ、服用さえしてない人たちよりはマシなはずですもんね。」

 

 

 

てな具合で、単に小生がいい加減な医師にしか過ぎない印象もありえますが、そろそろほんとの本題の気管支喘息の治療における、この方法のよさ、凄みを語ります。

呼吸器学会の重鎮の先生方の10年以上のガイドライン改定の成果で、2008年版は、その意図する内科医一般臨床家にも読みやすく、実践しやすいものにまとまってます。

吸入ステロイドのポジションを長期管理薬の首座に、テオフィリン、β-2刺激剤、抗ロイコトリエンの3種をその補助として、1~4薬を病状に応じて使うことを薦めてるのが骨子です。

中で、小生の好み、信ずるところがあって、当院の安定した喘息の方の処方は、吸入ステロイド(フルタイド、キュバール、パルミコート、オルベスコ:採用順)と、テオフィリン(テオドール、テオロング、テオスロー←最後のはゾロ・後発品・ゼネリック、要はライセンス・オフ品)の2剤を長期管理薬にして、発作止めのSABAサバ(メプチン・エアー、インタール・インヘラー、ベロテック・エアゾル)を付けてるのが大半です。

もちろん、学会員ですし、患者さんの選択の自由を奪わないために、β-2の吸入:セレベント、貼付:ホクナリン・テープ、内服:メプチン・ミニ、スピロペントとか、抗ロイコのシングレア(=キプレス)、オノンも追加したり、前2者と入れ替えたり、アドエアーなんていう、吸ステとβ-2の合剤も使いますが、あくまでも最初の3剤まで絞り込むことをまずはトライするのが。癖。こんな言い方も、あってもいいと思ってます。

拘りの理由の方をちょっといいますと、吸ステは最強の抗炎症効果の内服ステロイドの改良版で、喘息治療のこの10年の劇的進化、奏功率のUpをもたらしたものだから、そうそう使わないわけにはいかない。テオは、12時間徐放製剤がデビューしてからも30年、キサンチン誘導体、メチルキサンチンのなかでも最もテオフィリンが喘息治療に効果があると認められたのが1900年だから、100と9年も使われてる。ちなみに、β-2の元祖エフェドリン、交感神経刺激剤もほぼ同時期に認知され、アメリカはこの100年相変わらずβ-2スプレーの地位は高い。テオはなぜか生みの親のアメリカで疎まれ、不思議に日本が世界一テオ使いが多いのが皮肉といえば、ソウかもしれません。

その、テオは小生が医師としてはじめて働いた病院が、恐ろしいほど喘息が多く、かつ重症者の比率がただならなかったのです。そのために、第1世代のアルデシン、ベコタイドしかなかったがゆえに、吸ステは主役ではなく、ひたすらテオに、β-2の錠剤たち、発作止めの第1世代メジヘラも現存し、それらに加えて恐ろしくともプレドニン・プレドニゾロンの内服の追加しか長期管理の武器はなく、それの力不足ゆえに、頻回に発作来院があり、そのときはNBLネブライザー、吸えないくらい悪ければボスミン(α=β:古きよきクスリ)の皮下注を0.05mlきざみ、点滴の内容はテオの水溶性を高めたアミノフィリンの1Aか先を見据えた1/2Aと、サクシゾン(=ソルコーテフ)200mgかソルメドロール125mgで、それをひたすら繰り返し、それもかなわぬなら人工呼吸器で低圧・低換気で気管を破らぬよう、せめてもの酸素を供給するため、CO2は70、80mmHgがザラ。患者さんは生きて帰ってこれることを信じて、若輩者の主治医を信じてセデーションの夢の中。小生は不眠不休、血ガスを一人の患者から24時間で10数回とることも間々あり、一番覚えてるのは、5日5晩日に15分しか仮眠を取れず頑張った日々。若かった、体力だけは師匠たちに勝マサってましたね。

 

 

 

そんな頃です。第二世代の吸ステがなく、のた打ち回ってたときに、テオは個人差が大きく、同じ方でも発作の出かたでも、中毒域と無効域が狭いため、細心の注意で投与量を決めないといけない使いづらさがある反面、点滴アミノフィリンで言えば25くらいの俗に中毒域まで持ち込むと90%は勝負になる。のこりの9%で30まであげざるを得なかった場合は、恐ろしい嘔吐があるかわりに、発作は沈静化し始めることも目の当たりにした。

それもコレも、大師匠と前号で紹介した親分と呼ぶにふさわしい呼吸器科医長・師匠のお二人と協議ずくの治療でした。ちなみに1%は人工呼吸器に第1世代吸ステを4回/日叩き込んで何とかなるようになりました。

そうこうする内に、テオは3~15がいろんな要素で上限・下限になったのが昨今です。下限が下がったことに注目。気管支拡張作用とか呼吸賦活作用のレベルよりはるかに低いところで、吸ステ、抗ロイコと違った、協調する抗炎症作用に着目したんです。

そこが好きなんだな~、これが。

長期管理薬に、吸ステだけでなくテオを加えると、吸ステの欠点(ほぼ唯一の)の減量時期、休薬・中止時期が見えないことを補うことが出来るのです。10年しか歴史がない弱さで、さすがに今度のガイドラインでは、半量にすべきタイミングを明記してますが、提案的な要素があり皆でトライ&エラーてきな意味合いが含まれている。

テオの面白さはその至適濃度の狭さゆえに、逆手に取ると面白い。

つまり、同じ患者さんを3年、5年と診ていると、全体の基調が改善して落ち着いてくると、400mg投与でなんともなかった方が、ある時期から胃もたれがする、寝付けない、イラッとする、おなかが緩くなったと、カフェインそのものの副作用に類することを訴え始めるので、減量のタイミングとネコでもわかる、長所に。

 

 

 

そこらあたりで、ひょっとしたらというのが小生の気付きでした。

1ヶ月に一度の診察で、服用量を決めてしまわず、「減らす分は構わないので、自由に使ってみてください。」というやり方を提案し始めたのです。そうしたら、400を300にしましたどころか、軽い人は、眠前1錠100mgをベースに、不調時に朝・眠前の計200mgとか、ケースにより(1,2)、(2,2)、(1,1,0,1)、(1,0,1,1)、(1,0,1,2)といろんなことをしてくれて、小生のヒントにもなって処方のバリエーションが広がったのです。

嬉しそうに、定期受診で「減っちゃいました。」という患者さんの輝き、旨みがあります。

吸ステも似たような感じで、あまり怖れずに変動させてるようです。

 

 

 

この延長に、小生が是非伝えたかったことですが、「その眠前の1錠・1puffさえも忘れて寝込んだのに、あくる朝後悔せずに済んだときは、基調が改善してる兆しですよ。」「そのとき欲を出さないこと。またきちんと守るようにすれば、徐々に忘れても後悔しない日が多くなりますからね。期待して。」と話すと、とても嬉しそうです。だって、薬が減ること、いつかはナシの日を手に入れることが皆の願いなんですから。

【忘れること】は本来、霊長類・人類の宝だと、哲学する戸高は確信してます。

生きている間の全ての記憶を持ち続けたらどんなにか幸せで、有能の誉れがくると信じてる貴方に、いかに間違いか単純な命題を示しましょう。

例えば、最初のとても純粋な頃の恋愛・お付き合いの相手に振られたときのワン・シーンを毎日繰り返し思い出してたら。その苦さが超級だったら、地獄でしょ。アハハッ。

笑えんかも。あと、小学校の教室で思わずもらして笑いものになった3分間。ひどい。

てなわけで、考えていたら、忘れることのために人間の脳の回路は一部のエネルギーを裂いていているのだと思いつきました。上手に忘れることにこそ、今のところコンピュータが人間になれない能力だと。

それを含めて考案したのが、先の言葉・メッセージなんです。

忘れるくらい、楽になったんですよ、と。超ポジティブ解釈でしょ。でもコレが効くんです。良くなったことを自覚させることが、長期の治療で下手をすれば薬剤よりも効果が上がるのです。

今すごい成績があります。喘息のおなじみの方から年に1人から3人は、卒業するのです。つまり、メプチン・エアーとか、サルタノール・インヘラーを持ってたけどお守りのようになってしまって1年間使わなかったとか、2年たってしまって期限切れになったので新しいの下さいと来院するのです。

20年前望んでも得られなかった、結果・成果です。素晴らしい時代に呼吸器科内科をやってる幸せを、当の患者さんや、その予備軍の大多数の方々と享受できる。よきかな。

 

 

 

一気に走ったので、マイナー、マニアックな話になったかもしれませんが、近いうちに呼吸器学会に500~1000人のデータを添えて、論文出そうと思ってます。大それてるのは承知で、この方法が、通津浦々の数人の先生が共感してやってくれるだけでも甲斐があるのです。バッシングあったとしてもへこたれないだけの信念あるつもりですが。

よければ、この原稿に賛意でも反論でも助言でもありましたら、お寄せください。

傾聴ありがとうございました。

 

 

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