本田 秀夫:著 SB新書 定価:900円 + 税 (2022.9)
私のお薦め度:★★★★★
本田先生の、SB新書のシリーズでは「自閉症スペクトラム」「発達障害」「子どもの発達障害」に続く 4冊目の本です。
これまでの3冊は、どちらかというと、ASDや発達障害についての基礎的なお話が中心だったのですが、本書ではいよいよ、学校生活という具体的な支援のお話に入っていきます。
学校選びから始まって、学校や家庭での生活、担任の先生との関係やクラスメイトとのつきあい方など、発達障害をもつ子どもの親として、一番悩まれる時期かもしれませんね。
なにしろ、初めて障害児の親となられた方も多く、普通の育児書の枠には入らない我が子たちです。
誰に相談したらいいか分からず、また高機能のお子さんでしたら、「下手に相談したらヤブヘビになるかも・・・」と躊躇されている方もいらっしゃるかもしれません。
その際の羅針盤になるかもしれない本書です。もっとも、本田先生のコンパスの針がさしている方向に進むかどうか決めるのは、あくまで親や本人であるということも、本書で念押しされています。
例えば、本田先生は就学の際には、できれば普通学級ではなく特別支援教育からスタートする方が子どものメンタルヘルスにとって良いと考えられておられますが・・・・
私は、学校というのは子どもががんばって入るところではないと思っているので、親御さんに自分の考えを伝えます。子どもががんばらなくても十分に学べる環境を、まずはおすすめします。しかし、親御さんがいろいろな考え方を知ったうえで「最初は通常学級に」と希望する場合には、それを引き止めて「通級や支援級を選びましょう」とは言いません。
なぜなら、私はお子さんの人生に責任を取れないからです。
発達障害の子の中には、通常学級に入ってみた結果、適切な支援をうまく受けることができて、そのまま小学校卒業まで通常学級で学んでいく子もいます。 一方で、これまでに述べてきたように通常学級では十分に学べず、挫折感を持つ子もいます。どちらになるのか、やってみないとわからないところもあります。専門家でも「絶対にこちらが正解」と、責任を持って言うことはできないのです。
私たちができるのは、基本的な考え方や見通しをお伝えすることです。特別支援教育を利用するかどうかは、最終的には子ども本人や親御さんが判断するしかありません。
そうですね。最終的に子どもの人生への責任は、就学児においてはまだ幼稚園児の本人に背負わせるのは酷ですから、親の判断、責任ということになりますね。
ただ、本書の「通常学級にいれば『いい刺激』を受けられる?」の章にあるように、刺激にも色々あって、かえって「マイナスの刺激を受けて傷つくことがある」、というような専門家からのアドバイスは、知識として知っておいて判断材料の一つにしていただきたいと思います。
また、本書では「はじめに」で、本田先生からこんな問いかけがあります。
ところで、みなさんは「学校」をどんな場所だと思っていますか?
最初に学校のテストのような形で、問題を出してみます。この本を読み進める前に次の文章を読んで、空欄を埋めてみてください。お子さんたちはいつも学校でこういう問題に取り組んでいます。大人もたまには問題を解いてみましょう。
Q1 学校とは「 」場所である
Q2 学力とは「 」である
Q3 教育で大事なのは、子どもの「 」を伸ばすこと
Q4 発達障害の子は「 」から、特別支援教育を利用する
Q5 共生社会とは、「 」な人たちがお互いにリスペクトする社会
どれもある意味、哲学的な問いになっていて難しいと思いますが、ぜひ回答してみてください。
このページに答えを書き込んでもかまいませんし、何かの裏紙にメモするのでも、スマホに入力するのでもよいと思います。すべての答えを記入したら、どうぞ本を読み進めてください。
このあとの各章で、5つの問いに対する私の考えを説明していきます。
あらかじめ注釈として書かれているように、5問全てが“哲学的な問い”になっていますので、正しい答えを見つけるのは難しく、むしろ“絶対的な正解はない”・“一つではないのでは?”と言いたくなってしまいますね。・・・テストで間違えたくはないのは、大人のええかっこしーでしょうか・・・
ただ、各章のまとめとして、本田先生が考える「 」に入る言葉が書かれており、先生の解説に納得すれば、最初に自分で考えた言葉を消しましょう。私も読み進んでいくうちに書き換えていきました・・・ほとんど違った言葉を入れていました。
本書は、副題にある通り、発達障害の子ども達を、~「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち~ ととらえて、合わせられない少数派の人たちは、無理に合わせなくていい、無理をさせなくていいとの視点から書かれています。
ここまで言うと極端かもしれませんが、私は基本的に、校則はすべて廃止すべきだと考えています。法律に定められていないことを、関係者(子どもや保護者)の合意もないのにルールにして、しかもそれを子どもに強制的に守らせるというのは、民主主義に反する行為ではないでしょうか。
中には子どもに校則をつくらせる学校もありますが、私はそのようなやり方にも、基本的には反対です。ルールができれば、同時に「守ることを義務付ける雰囲気」もできあがります。守らない人を排除する動きも、必ず生まれます。ローカルルールを増やす必要はないと思います。
子どもたちが「校則を変えたい」と言って、自分たちでルールをつくり直す動きもありますが、私はその場合も、新しいルールをつくり直すよりも、校則を廃止すればよいのではないかと考えています。
~宿題を気にしすぎないようにしたい~
家庭と学校で協力して、宿題を調整できればよいのですが、もう少し突っ込んだ話をすると、私は宿題のためにそこまでしなくてよいとも思っています。子どもたちは、学校でしっかり授業を受けていれば、十分に学習をしているはずです。
私は多くの子どもたちをみてきましたが、宿題があってもなくても、勉強をやりたい子はやります。やりたくない子はやりません。勉強というのはそういうものです。
また、宿題をやりたくない子も、興味を持てる内容のときには自発的にやることもあります。 一方で、勉強が好きな子でも、簡単すぎる宿題ではやる気になれなかったりします。
子どもが自分からやりたがるような宿題を設定するのは、簡単なことではありません。家庭と学校で協力しても調整するのが難しければ、無理に宿題を出そうとしないで、 一度やめてみるというのも一つの方法だと思います。
こんな風に校則は廃止し、宿題も出来ないのならやめてしまう・・・そもそも、最初の設問にあったように、学校とは、学力とは、教育で大事なのは? という基本に返って、発達障害の子ども達の居場所としての学校をどう担保するか、ということになるでしょう。
学力という面では、知的障害やグレーゾーンの子どもたちにとっては、「早くみんなに追いつけるように」「普通になるように」と、教科学習に力を入れられる方もいらっしゃいますが、本田先生の横浜での追跡調査の研究では・・・
調査結果を分析してみると、年齢を重ねることでIQが上がった人は3%でした。変化のなかった人が30%、下がった人が67%でした。知的障害は子どもの頃から知的能力が平均よりも低く、その状態が成人期以降も続く状態だと定義されていますが、この調査結果からも、知的障害の子どもの知能が大人になるまでに上昇することは難しいことがわかります。
「あくまでも、 IQの上がっていく 3%を目指す!」というなら、それも一つのご両親の選択肢ではありますが、やはり私は本田先生と同じく、「小学校で特別な教育の場を確保し、将来、社会人として地域でしっかり生活できるようにしていく」方をお勧めしたいと、この本を「お薦め本」とした次第です。
ただ、最後に一言付け加えさせていただくとしたら、本書の構成は、学校などでの具体的な困りごとに対して「親ができること」「先生ができること」「協力してできること」の形でアドバイスが書かれています。
ここでの「親」は子どものことを一番よく知って、大切に思っている人・・・なんですが、一方の「先生」も教育のプロとして、専門知識を持ち(特別支援教育に携わっている場合)、子どもの育ちに熱意を持って取り組んでいる、あるいは取り組もうとしている人として書かれています。
確かに、それが学校現場でのあるべき姿、理想の姿であり、家庭と学校の協力体制なのですが、残念ながらそんな先生ばかりではないな、というのも親としての実感ではないでしょうか。
育てる会でも毎年、「現場の先生のための即実践講座」を続けていますが、受講してくださる方の多くが毎年同じ熱心な先生方で、本当に基礎知識、実践技法を身につけていただきたいと親が思っている先生方には、なかなか敷居が高いのか、来ていただけないのが現実のように思えます。
本書は新書版で、お値段も手頃、とても読みやすいので、敷居もグッと低くなるのではないでしょうか。
ぜひ、すべての先生方に一読をお薦めしたい一冊です。
(「育てる会会報 第293号」(2022.9) より)
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目次
はじめに
第1章 親と先生ができること
発達障害の子は学校でどんな生活をしているのか
子どものために、親と先生ができること
困りごと ① 教室を飛び出してしまう子に、どう対応する?
先生ができること 教室を飛び出す「理由」を考える
先生ができること 理由が特に思い当たらない場合は?
先生ができること 3つのパターンにどう対応するか
家庭と学校が「協力すること」を伝えたい
集団の中で「どんな調整ができるか」を考える
親ができること どんな場面で飛び出すのかを聞いておく
協力してできること 飛び出すことを当たり前にしない
予防的な計画を立てて、授業をする先生もいる
「対策」よりも、予防のための「工夫」を
何より大切なのはコミュニケーション
第2章 学校の中の発達障害
家庭と学校では、立場もできることも違う
1 そもそも発達障害とは
発達障害にはいくつかの種類がある
発達の特性には「重複」と「強弱」がある
発達の特性は、必ずしも「障害」ではない
発達障害は少数派の「種族」のようなもの
2 発達障害の子は、どうして学校で困っているのか
「学校の標準」が狭すぎるのではないか?
ローカルルールは少ないほうがいい
校則は廃止してしまってもいい
「学校の標準」に苦しむ子どもがいる
「学校の標準」からはみ出しても大丈夫
でも「学校の標準」をゆるめることも必要
困りごと ② 子どもが学校で友達を叩いてしまったら
親ができること 「相手への謝罪」と「事実の確認」
先生ができること 「ご家庭でも注意して」とは言わない
協力してできること 「言葉の暴力」にどう対応するか
3 子どもはなんのために学校に行くのか
大人は「登校」「成績」を目標にしがち
登校や成績を目標にすると、燃え尽きる
学校は「社会に出ていくための土台をつくる場所」
寺子屋が学校になり、制度が整っていった
「なんのために学校に行くのか」を考え直す時期に
4 いま学校はどんな教育をしているか
「インクルーシブ教育システム」のよいところ
現在の学校教育にはまだ課題がある
「視覚的構造化」を活用している学校もある
構造がわかりにくい環境では、どうなるか
学校の中の「ユニバーサルデザイン」
学校の中の「合理的配慮」
学校には合理的配慮をする義務がある
なぜか合理的配慮を断られることがある
当たり前のように行われている配慮もある
子どもへの支援を3つのステージで考える
子どもが3つのステージを行き来できるように
3つのステージを意識すると、支援をしやすくなる
発達の特性には、寛容でいてほしい
5 あらためて、親と先生にできることを考える
親ができること 「要求」ではなく「相談」を心がける
親ができること 「こうなります」を伝えて、相手の意見を聞く
親ができること 相談しても、話が進まない場合は
小学校時代の担任といまでも連絡をとり合うことも
先生ができること 子どもに無理な目標を課さない
先生ができること 子どもの自信とモチベーションを大事に
先生ができること 授業をどこまで調整すればよいのか
先生ができること 「教育のプロ」として仕事をするということ
誰もが活動しやすい学校をつくっていくために
第3章 学力と知的障害・学習障害
学びは重要だけど、学力にはこだわらない
困りごと ③ 親や先生が口出ししないと、宿題をやらない子
親ができること 一通り教えたら、それ以上は何もしない
先生ができること 宿題の未提出が2回続いたら対応する
協力してできること 宿題を気にしすぎないようにしたい
1 そもそも学力とは何か
学力を伸ばすべきか、無理をさせないほうがいいか
なぜ私たちは成績や学歴にとらわれてしまうのか
学校では「成績」という一点で評価されやすい
一方で、成績が悪いことは問題になりにくい
学習とは本来、自分の発意で行うこと
2 そもそも「教育」とは何か?
成績を上げるのが教育なのだろうか
成績と引き換えに、自信を失う子が多い
「できる」より「できない」に注目してしまいがち
成績にこだわらず、総合的な教育をしていきたい
得意なことで、総合的な力を身につけられるように
勉強が得意な子も、それだけにならないように
ただし、勉強が得意なのが悪いというわけではない
教育で大事なのは子どものモチベーション
苦手なことには、なかなか意欲は出ない
意欲の持ち方を、専門家に聞いてみたことがある
「コンピテンス・モチベーション」という考え方
3 あらためて、学校教育を考える
子どもは学校の何を楽しいと感じるか
著者は担任から仕事観や倫理観を学んだ
学校で「何かが学べた」と思えるかどうか
子どもの意欲を読み取る方法とは?
子どもの意欲は「準備」に現れる
意欲を失いつつある子は、どんな行動をするか
自分にできること・できないことを知っておきたい
勉強を通じて得意不得意を知ることができる
困りごと ④ 勉強をするのが嫌で、イライラする子への対応
親ができること 何が子どもを苦しめているのかを考える
親ができること できそうなことを一つ、やってみる
先生ができること 先生もできそうなことを一つ、やってみる
協力してできること 気づきを伝え合い、授業や宿題を調整する
協力してできること 相談・調整しても状況がよくならない場合は
4 学力と知的障害・学習障害
知的障害の子・学習障害の子の学習を考える
知的障害とは何か、学習障害とどう違うのか
知能指数は年齢を重ねても変化しないもの
「勉強が苦手」の背景に知的障害・学習障害があるかも
知的障害の子は、どんな学習をするのがよいか
なぜテストで高得点を目指すことが難しいのか
予習をすれば、テストで高得点を取れるけれど
高得点を取る力よりも、社会生活に即した力が重要
学習障害の子は、どんな学習をすればよいか
タブレット機器の使用を「ずるい」と言われたら
知的障害・学習障害の子の進路を考える
子どもの夢は何かしらの変遷を遂げていく
成績よりも、子どものモチベーションを大切に
第4章 特別な場での教育 - 学校・学級の選び方
特別な場での教育は子どもの「保険」になる
困りごと ⑤ 学校からの配布物をきちんと持ち帰れない子
親ができること 連絡帳を使って、子どもをサポートする
先生ができること 手間のかけ方を「予防型」に切り替える
協力してできること 協力しながら、よい対応方法を探っていく
1 特別な場での個別の教育とは
特別支援教育の仕組み
4タイプの中から「居場所」を探す
居場所が「べ―スキャンプ」になるように
通常学級にいれば「いい刺激」を受けられる?
どうすれば「居場所」をつくれるか
2 特別な場では、どんな支援が受けられるのか
特別な場では「自立活動」に取り組める
自立活動は6区分27項目で設定されている
発達障害向けの「自立活動」とは
特別な場で利用できる支援は一人一つだけ
本来は、支援の枠組みを調整できるほうがよい
3 学校・学級の選び方
発達障害の子は小1から特別支援教育を利用しよう
なぜ「小1の4月」から支援を受けるのがよいのか
「次の4月までは現状維持」となることもある
親や先生の安心感と、子ども本人の安心感
「小1から」はおすすめであって、絶対ではない
大事なのは「保険」をかけておくこと
特別支援教育の中で、どの学校・学級にするか
地域によって通級・支援級の設置状況が違う
見学会や体験会を活用して、現場を確認する
中には最終的に通常学級を選ぶ人もいる
4 特別支援教育の「その後」
早く支援を受けた子は「その後」の社会適応がよい
特別支援教育の「その後」を、二択で考える
「いい刺激」に期待しすぎてはいけない
「いい刺激」を受けるのは、まわりの子どもたち
子どもは支援級や通級でも「いい刺激」を受ける
「その後」を見据えて、子どもの居場所を考える
この本の内容に、納得できないという場合は
一人ひとりが居場所を見つけ、自信を持って学べるように
第5章 これからの学校教育
学校の未来をつくるために、私たちにできること
困りごと ⑥ 子どもに「学校に行きたくない」と言われたら
「登校しぶり」はどの程度のSOSなのか
親ができること 休ませて「どうしたの?」と聞く
先生ができること 「楽しく通えているかどうか」を観察する
協力してできること 「何がしんどいのか」を情報共有する
1 学校を小さな「共生社会」に
どうして「集団」は生きづらいのか
いまでも「五人組」になっているのでは
学校で「みんなで一緒に」を目標にしない
学校を小さな「共生社会」にするために
「みんなで一緒」よりも「お互いにリスペクト」
私たちができること ① 誰もが自分らしくいられる環境づくり
私たちができること ② みんながお互いを攻撃しないこと
2 「共生社会」での過ごし方
どうすれば「お互いにリスペクト」できるのか
「迷惑をかけてはいけない」という考え方
迷惑はコミュニケーションのきっかけ
衝突は人間関係を学ぶチャンス
「要求」ではなく「困っています」を伝える
ほかの子も、悩みを打ち明けやすくなる
問題は「人情」ではなく「契約」で解決する
失敗を気にしない雰囲気づくりも重要
よい集団活動を進めていくために
3 将来に向けて、いまできること
義務教育の「義務」を見直す
「全員一律」の授業や宿題をやめる
教育は「共通項を少なく、オプションを多く」
「がまん比べ大会」をやめて、ゆとりを持とう
おわりに