森村 美和子:著 熊谷 晋一郎:監修 金子書房 定価:1800円 + 税 (2022.7)
私のお薦め度:★★★★☆
「自分研究」というタイトルを聞いて、最初に思い出すのは、育てる会でも以前講演をお願いした、当事者の小道モコさんの「あたし研究」や「あたし研究 2」ではないでしょうか。
小道さんは、ご自身の学校生活を振り返って、「学校はジャングルのようでした」と書かれているように、当時は発達障害に対する理解もまだまだで、本当に孤立無援の教室だったのだと思います。
それから時が巡り、小道さんたち当事者の方が、自閉スペクトラム症を持つ人から見た、この世界を表現してくださったおかげで随分と自閉症、発達障害への理解も進んできました。
今では、どこの小学校でも発達障害児のための特別支援教室があるのが当たり前、スケジュールの視覚化や教室の構造化、ワークシステムや、支援の進んだ教室ではPECS®なども取り入れられるようになってきました。でも、それだけで子どもたちが屈託無く小学校生活を送れるかというと、そう簡単なものではないですね。
特に高機能な子どもたちの場合、「自分がどこか周りのクラスメイトと違っている・・・」と気づきはじめ、自己肯定感が低くなってしまうことも多いと思います。
そんな時にお薦めなのが、本書の「自分研究」です。
小道さんの「あたし研究」が、小道さん一人で自分のことを “研究” していたのに比べ、「自分研究」では本人と支援者だけでなく、仲間と一緒に困っていることを “研究” し、みんなで解決策を考えていこうというのが目標です。
「自分研究(当事者研究)」との出会い
当事者研究とは,当事者が中心になり,自分と仲間と自分の困っていることを語り,「研究」し「分析」していく過程の中で,等身大の自分を自分の言語でとらえ形作っていくというものです。学校現場にはない発想でしたが,仲間と共に自分の困っていることを研究したり, 自分の好きを語り見つめていくことが,学校で子どもたちにも生かせるのではないかと考えました。
そこで誕生したのが,本書で紹介する「自分研究」の活動です。
本書の編者である東京大学先端科学技術研究センター准教授の熊谷晋一郎先生と同センター講師で自閉スペクトラム当事者の綾屋紗月さんによる「当事者研究」に感銘を受けた、著者の森村美和子先生が、自分の学校で実践していく中で子どもたちと一緒に作り上げたのが「自分研究」です。
やり方は、まず本人が困っていることを見つけ出し、その特徴を持ったキャラクターを創作します。仮想空間でいうアバターみたいなものです。
そのキャラクターに名前をつけることにより、本人とよく似た特徴を持っているかもしれないですが、本人とは別個の存在として(外在化)して考えることができる、というやり方です。
誰しも自分の苦手なことや欠点を指摘されるのは嫌なものですが、自分とは別のキャラクターなら、同じ欠点でも、抵抗なく冷静に見ることができますし、周りの仲間たちも当人に遠慮することなく(別のキャラクターになっていますから)、解決法を考え、クラスの中で言い合うことができるという次第です。
第2章からは、実際に取り組んできた「自分研究」のデータファイルです。
不安タイプの「泣き虫ゴースト」、しゃべり過ぎてしまう「ペラペラノドン」、しつこいタイプの「しつこいざる」などなど、個性豊かなキャラクターが次々登場します。
みんなで意見を出し合っているうちに、自分がやれそうなことに気づいて、「やってみようかな・・・」と思えるようになったら研究の開始です。
もちろん、一生つきあっていかなければならないからこそ“障害”と名付けられるわけですから、そう簡単に実験成功となるわけでもありません。
でも “研究” と思えば、「失敗は成功のもと」、失敗もゆるやかに受け容れられるようにサポートできると思います。
子どもであれ,当事者自身が自分の困っていることを理解し, 自己決定に関わっていくことが大切だと感じています。自分研究は「自己理解」と「自己決定」という大切なものを兼ね備えた方法だと思います。
また「研究・実験に失敗はつきもの。失敗は成功のもと」と研究を通じて思えるようになるため,気持ちが少し楽になる子もいるようです。失敗から発見が生まれることもある。失敗とも上手に付き合っていく。そう感じられるのも自分研究のよさです。
そして, 自分の「好き」を大切にすること! 自分の「好き」を発見していくこと,堂々と「好き」を語ることも, 自分研究で素敵だなと感じることです。好きなこと,ワクワクすることを話しているときの子どもたちの生き生きした顔をいつまでも見ていたいなと思います。 (あとがき より)
また、自分が困っていることに気づかない子や、自分の弱みを見せたくない子など、いろんなタイプの子がいるので、「自分研究」にしても「こうすればうまくいく」というようなマニュアルがあるわけではありません。また、支援者の立場として、ついつい本人の困っていることより、周りの困っていることに目が行きがちになることもあります。常に自省の気持ちを忘れないようにしないといけませんね。
現場で対応していると,ついつい困っていることをなくすことに全力を注いでしまう自分がいたな・・・と,筆者もしんちゃんの言葉から自戒の念を抱きました。こちらはそのつもりでなくても, よかれと思ってやっていても,そのこと自体が,「困っていることはダメなこと」という暗黙のメッセージを送ることになっていたのかもしれません。
困っていることも,付き合っていく自分自身の一部なのに, 自分の一部を否定されたようにも感じている子もいたのかもしれないとハタと気づきました。
困ったことだって,少しだけ,見方を変えるとなんだか愛すべき部分として,見えてくることもあるかもしれません。もしかしたら,時代や環境,価値観が変われば,困ったことが才能や強みになるかもしれません。
そんな視点をもって子どもに接することができたらな・・・・・・と,この出来事で子どもから教えられました。
たしかに困ったことだって、本人の一部ですね。それをなくそうとしたら、本人だって嫌かもしれません。
できれば、困ったことを、本人も周りも受け容れられやすいものに変えていけることが、自分研究なのかもしれませんね。
それでは最後に、【 ICTで困ったことを解決できるか 】の研究に取り組んだ、黒板の字をノートに写すのが苦手だったこーくんからのメッセージを紹介して、「自分研究」のススメとします。
「先生,iPadを教室に持ち込むのに,周りからいろいろ言われないか怖いって言ったでしよ。でも,それは本当の理由じゃない。
本当はね,眼鏡を付けると目が悪いってばれるでしょ。iPadを持ち込むってことは,ぼくは字が書けま
せんって宣言するようなもの。それが怖かった」
こう彼は言いました。そう, ご―くんは字が思うように書けない自分や自分の苦手さを隠してずっと生きてきたのです。
「でもね,苦手さを出したら逆に楽になったよ。ぼくにはぼくのやり方があるつてわかったんだ」
こんな子どもの言葉の中に,学校現場での支援のヒントがある気がしています。
(「育てる会会報 294号」(2022.9) より)
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目次
第1章 自分の困つていることを研究しよう
- よりよい未来を切り拓くために
1 学校で出会う ‘生きづらさ’ を抱えた子どもたち
2 「自分研究(当事者研究)」との出会い
3 「自分研究」とは
- 困つていることを仲間と研究しよう!
第2章 子どもたちが取り組んできた「自分研究」
- 「自分研究」データファイル 子ども研究員の実践事例集
はじめに
「自分研究」データファイル 子ども研究員の実践事例集
VOL.1 不安タイプの【泣き虫ゴースト】の研究
VOL・2 しやべりすぎてしまう【ペラペラノドン】の研究
VOL.3 しつこいタイプの【しつこいざる1の研究
VOL.4 めんどくさいタイプの【だらだらきん】の研究
VOL.5 イライラタイプの【イカリボール】の研究
VOL.6 文字が読みづらいタイプ【読み読み大作戦】の研究
VOL.7 ノートに書きづらいタイプ【lCTで困つたことを解決できるか】の研究
第3章 「自分研究所」開設のススメ
- 「自分研究」を行うための心得
1 はじめに
2 自分研究の3つの「フエイズ」
フェィズ 1: 導入・スタートアップ期
フェイズ2: 分析・実験期
フェイズ3: アウトプツト(表現)期
フェィズ0: 関わる大人の心得
第4章 解説 子どもたちの当事者研究が未来をつくる ・・・ 熊谷 晋一郎
あとがき