発達障害 ~生きづらさを抱える少数派の「種族」たち~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

本田 秀夫:著 SB新書 定価:800円+税 (2018.12)

 

    私のお薦め度:★★★★☆

 

信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授の本田秀夫先生による、新書版の新刊書です。

本田先生によるSB新書は、以前会報190号でも紹介した「自閉症スペクトラム ~10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体~」に続くソフトバンク新書シリーズでの発行となります。


前著が自閉症スペクトラムの生きづらさについて解説されていたのに対して、本書ではこれまであまり触れられることのなかった、発達障害の中での特性の重複について焦点をあてて考察されていらっしゃいます。
これまで、いわゆるグレーゾーンについては、自閉症の度合いや知的障害の有無によって説明されるケースが多かったようにに思います。その理由の一つは、従来はASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)やLD(学習障害)などが重複した場合は、併記をされずにより重いとされるASDの診断名のみがつけられていたためかもしれません。
確か現在は、DSM-5になってから重複して診断できるようになったと思います。

 

そこで、本田先生はASとADH(障害 Disorderとまでは言えないところまでを含んだAS(自閉スペクトラム)とADH(注意欠如・多動)の表現)の強弱と重なり具合によって、生きづらさを捉えようとされています。

 

そのモデルとして、いろいろなタイプの方を例にあげて解説されておられますが、例えばケース4として紹介されている
成人女性の場合です。

 

この人は仕事でミスが多く、職場でいつも苦労していました。本人はよく気をつけているつもりなのに、見積書を作るときに金額を間違えてしまったり、会議資料に必要な書類を入れ忘れてしまったりするのです。ただ、彼女が勤めている会社にはベテラン社員が多く、数少ない若手である彼女は、先輩からなにかとサポートしてもらえていました。多少ミスしても、余計なおしゃべりなどせず、一生懸命に働いていれば、十分に評価さていたのです。


しかし、キャリアを積むうちに仕事の幅が広がり、仕事量が増えるにつれミスも徐々に目立つようになってきました。ほかの人がテキパキと30分でこなせる仕事が、彼女には1時間近くかかるのです。
また、自分よりも若い社員が入社してきてからは、先輩にフォローしてもらえる機会も減りました。それどころか、中堅社員として彼女も新入社員をカバーしなければならない立場になっていたのです。


仕事が多少うまくいかなくても、人柄がよく、先輩や同僚を頼りながらやっていければよかったのかもしれませんが、彼女は雑談が苦手でした。とくに趣味もなく、仕事以外の話で盛り上がることがなかなかできなかったのです。
彼女は若手時代に、おしゃべりを控えることで「真面目な人」と評価されていました。しかしある程度のキャリアになると、「同僚とうまくコミュニケーションをとれない人」とみなされ、マイナスの評価をされるようになっていったのです。彼女は「このままでは職場でやっていけなくなるのではないか」と不安を抱いています。

 

確かに「障害」とまでは呼べなくて、うっかりミスの多い「ちょっとADH」で、雑談の苦手な「ちょっとAS」なところも持っている女性です。ただ、どちらか一方だけの「ちょっと」でしたら、ある意味普通に仕事ができるともいえるでしょう。

 

もしもケース4の女性に重複がなかったら
ASの特性が強い場合 その人なりのやり方でコツコツと成果を積み上げて、「人づき合いは悪いけど、仕事はできる人」という評価をされることも
ADHの特性が強い場合 仕事でミスが目立っても、明るく人づき合いがいいので、チームプレイでなんとか乗り切れることも

 

こんな風に、重複がなければ、なんとかなりやすいのですが。本田先生曰く「発達障害の特性を持つ人は 1+1が2にならない場合があり、そのケースでは医療機関ではどちらかの障害と診断されなくても、本人が生きづらさを抱えてしまう」ということです。

 

本書の中では、本田先生が図を書いて説明されているように、横軸にADHの特性の強弱、縦軸にASの強弱をとった場合、右端の下の部分はADHDと診断され、左側の上の部分はASDと診断を受け、右側の上部がDSM-5以降は重複障害と診断されます。

ここまでは診断も出て分かりやすいのですが、問題は中央部分です。ここはそれぞれの特性がちょっとずつ重なって、障害の診断は出ないかもしれないが生活の中で困っている人達の場所です。


本書で紹介される他のケースも、多少上下・左右のブレはありますが、この中央部分で生きづらさを持っています。そして、筆者の本田先生ご自身も、自己分析では「ASとしては、診断が出るかでないかのグレーゾーン 4」「ADHでは生活上の問題になりにくい、診断されにくい 3」の位置にマークされ、全体の表の中では「特性はあり、問題もあるが、障害とは診断されにくい人たち 範囲F」と中央部分より少し左下の部分に、自らを入れられています。

 

さて、そんな分析により特性を掴むわけですが、本書の後半ではその対応について具体的に述べられています。 

 

発達の特性があることがわかってきたら、その特性に合わせて生活環境を整えることが大切です。そのようなアプローチを「環境調整」といいます。
環境調整というのは、一般的には、特性をまわりの人に理解してもらい、まわりの人といっしょに生活環境を調整していくことをさします。しかしこの本ではそれに加えて、本人が自分なりに世渡り術を身につけていくこともひとつの環境調整と考え、そのようなことも紹介していきます。


発達障害への対応の基本は、この「環境調整」です。発達障害の人たちの生きづらさのなかには、先天的な特性への不適切な理解と不適切な対応によって、生活上の支障が引き起こされている場合も少なくありません。特性を適切に理解し、生活環境を調整すれば、障害といえるような顕著な支障は起こりにくくなります。

 

そして、その特性としてあげられているのは、「臨機応変な対人関係が苦手」「こだわりが強い」「不注意」「多動性・衝動性」などなどですが、それらに対して本人の能力を底上げしようという「ボトムアップ式」ではなく、現状を把握して対処の方法を考える「トップダウン式」のアプローチによる具体策です。
本人たちの生きづらさを少しでも少なくするために本書を活用していただければと願っています。

 

ただ、あえて一つだけ本書のスタイルについて言わさせていただくとしたら、本書は一般の方に向けて書かれているためか、各ページの大切と思われる文章に、あらかじめハイライトの網掛けがされています。

私の個人的な好みなのですが、誰かが先にマーカーで印をつけている本を後から読んでいるようで、少し気になるのです。

でも新書版で値段も手ごろなこともあり、一般の方にはなにが重要なことなのかがすぐ分かり、手に取ってもらいやすいのでしょうね。

一般向けの本としては、多くの方にお薦めできる一冊だと思います。

 

          (「育てる会会報 251号」(2019.3) より)

 

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目次

 

  はじめに 発達障害の人の行動や心理によりくわしく

 

プロローグ  発達障害かもしれない人たち

 

  この人たちが発達障害かどうか、わかりますか?
  ケース1 時間にルーズな男の子
  ケース2 ちょっとボーッとしている女の子
  ケース3 「報・連・相」が苦手な成人男性
  3つの例の人たちは、発達障害に該当するのか
  ケース1の解説 この男の子には発達障害があるのか
  発達障害は重複するとわかりにくくなる
  ケース2の解説 この女の子には発達障害があるのか
  発達障害が隠れてしまう場合もある
  ケース3の解説 この成人男性には発達障害があるのか
  発達障害が少しずつ現れている人たち

 

第1章 「自閉スペクトラム症 + 注意欠如・他動」な人たち

 

  発達障害の特性は重複して現れることも
  なぜ発達障害の特性の重複は理解されにくいのか
  発達障害は「1+1」が2にならないことがある
  発達障害の基本的な特性
  ケース4 ASとADHが微妙に重なる成人女性
  「1+1」が2にならない人は、理解されにくい
  もしもケース4の女性に重複がなかったら
  重複によって「こだわり」が弱くなる人もいる
  ASとADHの重複で「こだわり」が弱くなる例
  ASと学習障害の重複で7「こだわり」が弱くなる例
  重複を専門とする研究者は少ない
  とくに女の子の重複例は理解されにくい
  「発達障害ではない」という人もいる

 

第2章 発達障害と「ふつう」はどう違うのか?

 

  発達障害には「強弱」がある
  発達障害と「ふつう」の境界線はどこにあるのか
  「オタク」とASはどう違うのか
  ケース5 ゴルフオタクの男性
  ケース5の解説 ASの特性との違いは?
  世の中には「社交上手なオタク」もいる
  ASの特性がある人はどう社交するか
  会話がなくても、いっしょにいれば親友
  何も話さず見てるだけでも「好き」ということ
  ひとりで遊ぶ「黒ひげ危機一発」ゲームが楽しい
  楽しみ方の違いに優劣の差はない
  「マニアックな知識」はオタクとASの共通点?
  オタクの人は「マニアックな知識」を調整する
  ASの人は知識をとことん追求する
  交流重視の会話と、内容重視の会話がある
  オタクとASに、明確な境界線はない
  「うっかり屋」とADHの不注意は違うのか
  「うっかり屋」で支障をきたすのはどんなとき?
  ミスが気にならなければADHDではない?
  ミスを周囲が受け入れられるかどうか
  全体として帳尻が合うかどうかを考える
  「活動的」とADHDはどう違うのか
  一つひとつの作業が中途半端になりやすい
  興味が広がり、元の場所に戻ってこない
  学習障害は読み書き計算の機能的な困難
  LDと「勉強が苦手」はどう違うのか
  LDの特性に気づかれない場合もある
  大人で判読不能な字を書く人はLD?
  発達障害には運動面の特性もある
  目立ちにくいが手作業の特性もある
  特性の濃淡を知り、生活上の支障を予防しよう

 

第3章 発達障害の人が「本当の自分」を知る方法

 

  特性の「重複」と「強弱」を考える図
  従来の「重複例」と、この本が考える「重複例」
  中央のゾーンの人たちが十分に理解されていない
  左下のゾーンの人たちは問題になりにくい
  図はあくまでも理解のヒントに
  重複や強弱を重視している専門家たち
  「DAMP症候群」と「ESSENCE」
  特性を14項目、5段階で評価する「MSPA」
  自分の「発達の特性」を知っておこう
  発達の特性① 臨機応変な対人関係が苦手
  発達の特性② こだわりが強い
  こだわりの強さは、記憶力の強さにもなる
  感覚面の異常が、問題になる場合もある
  発達の特性③ 不注意
  不注意なタイプの子の「過集中」をどう考えるか
  発達の特性④ 多動性・衝動性
  場所によって多動が出やすい場合は・・・
  ADHの特性による「段取りの悪さ」
  ASの特性による「段取りの悪さ」
  発達の特性⑤ 読むのが苦手
  発達の特性⑥ 書くのが苦手
  発達の特性⑦ 計算が苦手
  発達の特性⑧ 運動が苦手
  発達の特性⑨ 手作業が苦手
  発達の特性⑩ チック
  発達の特性⑪ 知的な発達が遅い
  うつや不安は特性ではなく主に「二次障害」
  特性のなかに当てはまるものがあったら

 

第4章 「やりたいこと」を優先する!

 

  特性がわかったら「環境調整」を
  発達の特性への対応には2種類のアプローチがある
  環境調整が十分に行えないケースも
  まわりの人にどこまで理解を求めるべきか
  やりたいことと環境のバランスを考える
  環境調整は本人の試行錯誤を支えるもの
  仕事が「やりたいこと」でない場合
  自分の「やりたいこと」を生活の中心に!
  「やりたいこと」と「やるべきこと」を考える図
  一般の人は「やりたいこと」を要領よく調整できる
  特性がある人は「やりたいこと」の調整が難しい
  バランスがとれなくて睡眠不足に
  「やるべきこと」に過剰反応している人も
  ケース6 ごっこ遊びを我慢してやる女の子
  過剰反応を防ぐためにも「やりたいこと」を大切に
  特性別の「環境調整」のポイント
  特性① 「臨機応変な対人関係が苦手」なことへの環境調整
  私も「対人関係」の調節術を使っています
  特性② 「こだわりが強い」ことへの環境調整
  「こだわり保存の法則」を活用する
  特性③ 「不注意」への環境調整
  特性④ 「多動性・衝動性」への環境調整
  時間にルーズなところはどうやって調整するか
  特性⑤~⑦ 「読む・書く・計算が苦手」への環境調整
  特性⑧~⑨ 「運動・手作業が苦手」への環境調整
  特性⑩~⑪ 「チック」や「知的な発達が遅い」ことへの環境調整
  環境調整によって自律スキルが育つ
  環境調整でソーシャルスキルも育つ
  2つのスキルが心の健康を支えている
  「やりたいこと」だけでは生きていけない場合は

  
第5章 自分が「発達障害かもしれない」と思ったら

 

  発達の特性がある人の「生きづらさ]を軽視しない
  微妙な「生きづらさ」からわかることがある
  研究でも対人関係の違いがあきらかに
  恋愛も、必ずしも苦手というわけではない
  特性を、対人関係の「選好性」として考えてみる
  発達の特性があるかもしれないと思ったら
  信頼できる相談相手をみつけよう
  自分には関係がなさそうだと感じたら
  「ふつう」は多数派、発達の特性は少数派
  少数派が暮らしやすい社会を目指して

 

おわりに あらためて、発達障害とはなにか