甲状腺全摘後は甲状腺ホルモンの補充のため、ホルモン剤を生涯服用する必要があります。補充療法を行わないでそのまま放置しているとどうなるか。血液中に甲状腺ホルモンがなくなってしまうので、甲状腺を刺激してホルモンを出させようとするために、下垂体がTSHをたくさん分泌するようになります(こちらを参照)。しかし甲状腺は切除されていますから、甲状腺ホルモン値は低いままです。そこに甲状腺ホルモンを飲み薬で補充してやると、血中の甲状腺ホルモンが上昇してくるので、下垂体もTSHを過剰には出さなくなります。
甲状腺ホルモン剤はどれだけの量を飲んだらいいのかは個人差があるので、甲状腺機能検査(TSH値と、FT4、FT3の両方あるいはどちらか一方)を行って適切な内服量を決定します。甲状腺機能検査の全項目が正常化するまで内服量を微調整し、その後は同量を継続していくのが一般的でしょう。
甲状腺機能検査で最も重要視するのはTSH値です。TSHが基準範囲に入るように内服量を調節します。基準範囲はある程度の幅があるので、範囲内に入っていれば内服量は適切だと判断されます。例えば内服量を変化させた場合、変更の前後ともにTSHが基準範囲に入っていれば、そのどちらの内服量でも許容されることになります。ですから、この「内服量でなければ絶対だめだ」ということはありません。適切とされる内服量にもある程度の幅があると思ってください。
さて甲状腺癌全摘後のTSH抑制療法についてですが、とりあえず説明はこちらにありますので、参考にしてください。
TSHは甲状腺刺激ホルモンのことですから、文字通り甲状腺を刺激するように働きます。甲状腺癌細胞も刺激することになるので、TSH値が高ければ癌細胞を余計に刺激する可能性があり、癌細胞の増殖を助けてしまうかもしれません。そこでTSHを低めに保って、癌細胞が体に残っていたとしてもできるだけ刺激しないようにするというのがTSH抑制療法です。
内服量をうまく調節して、甲状腺ホルモン値は基準範囲に保ちつつTSHだけを少しだけ低くするくらいなら、体に悪影響はありません。もちろん自覚症状もありません。TSHを検出できないくらい低くする場合には、長期的にみると不整脈や骨粗鬆症の原因になる可能性が報告されています。
TSH抑制療法が本当に再発を防ぐことができるのかについてはいろいろな意見があります。TSH抑制療法をしていたほうが再発や死亡率が低かった、あるいは全く変わらなかったなど、さまざまな報告があります。再発の危険性が少ない場合は積極的にはお勧めしない、再発の危険性が高い場合や遠隔転移がある場合にはお勧めするというのが一般的かと思います。
ただし、TSH抑制についてはこちら①とこちら②のような考え方があり、私もその意見にしたがっています。TSH軽度抑制とすることで、体の代謝はむしろ適切な状態になるのだと理解しています。ですから、私は甲状腺全摘後の患者さんに対しては、原則としてTSHを軽度抑制するようにしています。(今はほとんど診察することはなくなりましたが)遠隔転移がある患者さんの場合には、TSHを完全に抑制することもしています。完全抑制には長期的な弊害もありますが、転移増大を抑制できる可能性とTSH抑制の弊害を避けることのどちらをメリットとするかで、治療法が選択されます。