角松敏生のライブが私にとっての「行く年来る年」ならば、VOCALANDメンバーによるライブは、言わば1年間の修了証書贈呈式だ。

「この1年間、自分、よく頑張った」という意味の、自分自身へのご褒美である。

 

最初の修了証書は、3年前のクリスマスだった。

〝勝手にVOCALAND〟2015.12.21 HEAVEN青山にて。

 

2枚目の修了証書、2年前の吉祥寺。

〝勝手にVOCALAND〟2016.11.28 吉祥寺スターパインズカフェにて。

 

3枚目、去年の目黒で一区切り。

“勝手にVOCALAND”2017,12,17目黒ブルースアレージャパンにて。

 

そして今年は、「縁(ゆかり)」を意味する“ユカリノ”と名称を変え、渋谷セルリアンタワー内のライブハウス JZ BRAT SOUND OF TOKYOにて、11月9日。

 

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最近の私的トレンドは、〝ライブを料理のフルコースになぞらえる〟ことである(例:前回角松ライブの記事)。

食事と音楽は、生きる上で必須アイテムであるという意味でも共通し、適当な〝料理/音楽〟を適当に〝食する/聞く〟こともできれば、極上の〝料理/音楽〟を感動に打ち震えながら〝食する/聞く〟ことができるという意味でも共通する。

そして、料理人達の腕自慢でもあり、美食家達の舌を愉しませる〝フルコース〟は、作詞作曲編曲という素材があり、ボーカリストはじめとするプレイヤーが腕をふるって、音楽通の耳を愉しませる〝ライブ〟と同じではないか、と思う。

 

VOCALANDのライブが、1年間頑張ったご褒美としてのフルコースだとしても、それが何故「修了証書」になるのか。それは、極私的なことを言わせて頂ければ、3年前の第1回〝勝手にVOCALAND〟に遡る。

あの頃の私は結構酷い目に遭っていて、息も絶え絶えの心が限界ギリギリの状態だった。そんな時に、90年代の角松敏生凍結時に一瞬の燦めきを放ち、角松ファンの胸に忘れがたいメロディを残していったVOCALANDの一部のメンバーが、ライブをやると耳にした。どんなメニューなのか、全く想像も付かない。VOCALANDの曲は何曲か演るだろうが、メンバーの持ち歌は多くない。ライブハウスの箱も小さい。

つまり、店に行くまでは闇鍋でも振る舞われるのではないかという覚悟だ。

 

結果、オープニングから激しく心揺さぶられ、滝涙ときたもんだ。

 

そこで奏でられたのは、1996年の夏から1997年末にかけての、角松ファンの時代を季節と共に駆け抜けたVOCALANDの楽曲たちだった。

もう二度と触れることなどできないと思っていた、あの時代の心のアルバム。それをどこからか探し出して、「今、この目の前に」呈示されたようなものだ。それは決して懐古主義などではない。過去があって、今がある。長い沈黙を破り、長いタイムトンネルをくぐり、あの時代を「今」甦らせることで、過去は今となる。

過去が今を創るのだとしたら、過去を肯定しなければ未来へ踏み出せない。あの時代から連綿と続く、過去と今。自分はあの頃から必死に藻掻き続けてきたではないか、よく頑張って生き抜いてきたではないか。それでいいではないかと、過去の自分が今の自分に囁きかける。

 

VOCALANDのボーカリストたちが、あの音を忠実に再現し、耳が心がどこかで求め続けていた曲を甦らせてくれたこと。それはまるで、未来への希望を繋ぐ橋渡しのようだった。

つまり、VOCALANDのライブは、過去と今と、それから未来を繋ぐ存在だ。

 

大袈裟でもなんでもなく、あのライブは、餓死寸前の私に与えられた、極上のフルコースだった。

 

一年頑張って、また来年もこのフルコースを食べに来よう。そう固く決意して、また一年頑張る。この一年よく頑張りましたの証、一年の人生の、修了証書というわけだ。

 

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(この日のSpecialカクテル〝Voices from Descember〟は、速攻SOLD OUT。)

 

 

昨年までの勝手にVOCALAND3部公演で、VOCALANDのスタイルはほぼ固まった。「何を演ってもご褒美サプライズ」な第1回から、VOCALANDプレイリストはほぼ一巡。徐々にハードルが上がり、正念場を迎えた4回目である。

 

ここで彼らは、「円熟」にはまだ早いと、更に挑戦的なセットリストで攻めてきた。プレイする曲のセレクトで攻めたのではない。フルコースになぞらえるならば、「出す皿の順番を変える」事で攻めたのだ。

 

甘やかなベル音のような、最早お馴染みのあのイントロが鳴った瞬間、心の底から驚いた。みんなが大好き「さよならのプリズム」。女子による、永遠の女子のための女子ソング。これをオープニングに持ってくるとは、誰が予想したであろうか。

フルコースになぞらえるのであれば、一皿目に色鮮やかに盛りつけれた極上スゥイーツを出されるようなもの。一番最初に、甘~い一曲、さぁ召し上がれ。

 

個人的には、何度でも言うが、この曲は生涯で一度でも生で聴けるとは微塵も思わなかったので、第2回と第3回で聴けた時はリアルに思い遺すことはないと思っていた。もう二度と驚かないぞ、と心に決めて来た。

しかしまさかまさか冒頭から歌って頂けるとは思わず、一曲目で平伏してしまったのだ。四たび、冒頭の「掴み」でノックアウトなのである。

 

「出す順番を変える」という挑戦その1がオープニングなら、挑戦その2は、エンディングだ。

過去3回は、勝手にVOCALANDを象徴する曲として、オーディエンスと共にハーモニーを奏でる〝Heart to Heart〟で締めるのが恒例であった。フルコースになぞらえるのであれば、〆のコーヒー(フレンチ)若しくは〆の抹茶(懐石)で心を温め帰路に就く、といったところだ。

 

本編のエンディングで吉田朋代は「〆に相応しいドラマティックな曲」と言って、持って来たのが予期せぬ驚きの一皿〝LOVE STORY〟である。

確かにこの曲は「奇跡の復縁ラブストーリー」を歌ったもので、構成から歌詞からドラマティック。そう、「奇跡」と「復縁」繋がりの、VOCALANDライブなのである。折しも今年のテーマは「ゆかり」つまり「縁」で、ライブを象徴する曲とも言える。実に深い。フルコースになぞらえるならばそれはまさしく希少種牛の極上部位をレアに焼いたステーキ。ほんのすこしの量でもなんとも言えない甘み旨みが口いっぱいに広がる。確かにラストに相応しいドラマティックな一皿だ。

 

ダブルアンコール、文字通りのラストを飾る本当の〆の一曲には、今年は紫藤博子の“Take me your own way”を持って来る。「出す順番を変える」という挑戦その3。

未来へと羽ばたく時はイカロス並みの勇気が必要。けれどきっといつかは、心に描いた未来へ辿り着けると、背中を押してくれるこの曲を最後に持ってきた。フルコースになぞらえればまさしく締めの一杯のワイン。そのワインは勇気の色・ボルドーレッド。曲の世界観に酔いしれて、本当にどこへでも跳べそうな勢いで帰路に就くのである。

 

 

 

誰も予期していない、「想像を絶する絶品の一皿」を凄いタイミングで繰り出すのがVOCALANDライブの真骨頂である。ディープな角松ファンだけが知っているイントロが流れ出せば「嘘でしょう!?」「信じられない!」といった驚愕の、声にならない声が客席に流れる。

もう一つの挑戦、「想像を絶する絶品の一皿」第1弾。それは中森明菜の〝SO LONG〟。私の最愛角松敏生プロデュース曲の中でもベスト3に君臨する隠れた名バラードだ。

この曲への熱すぎるラブコール、熱い思い入れと勝手な解釈については過去記事でウザいくらい存分に語っている(検索してみたら、ブログで私はこの曲にラブコールを5回も送っていた)。まさかそれをご覧になって下さった訳ではないだろうが、今年のサプライズとして選ばれし曲のセンスに感動が止まらない。まさか、生きてこの曲を聴くことが出来るとは・・・!

 

女心を歌うなら、やはり女性のボーカルが曲の世界観を最大限表現できるはず。まだ愛してるのに、いや、愛すればこそ、自ら別れを告げる〝強く切ない〟女心を美しく歌い上げた吉田朋代さんに、心からの感謝を。

 

( この曲で最も美しく最も難しい箇所は、ドアを閉めた後にそっと女が囁くI love you…である。この一言に美しい余韻を残しつつ、情感を込めなくてはならない。当時の中森明菜にはちょっと早かった。この難しい一言を、吉田朋代さんは清らかな色気で表現。満足度200%💖)

 

 

女心とくれば、揺れる男の下心。男の下心とくれば、そうです角松バブル絶頂期に角松敏生が世に送り出した伝説のバンド、ジャドーズである。

乾いたドラムのイントロが流れた瞬間、条件反射で身体が跳ね上がる。「今日は金曜日だからね」・・・と、けいじゅさん。「想像を絶する絶品の一皿」第2弾は、何とジャドーズのデビュー曲・究極のバブリーナンパソング〝FRYDAY NIGHT〟!一夜限りの夢に、とりわけ男性ファンは、狂喜乱舞阿鼻叫喚!!!

 

 

今年のサプライズゲストは、VOCALANDのメンバー吉井弘美。〝12月の声~Voices from Descember〟、村上圭寿の本当の相方である。3年にわたるラブコールに応えて、登場・・・これはもしや、21年ぶりの共演ではないだろうか!?客席の誰もが、彼女が来るのをずっと待っていた。でもきっと一番待っていたのは、けいじゅさんだろうなぁ。

 

 

 

 

 

〝ユカリノ〟ライブで語られたのは、紫藤博子と吉田朋代のファーストコンタクトのエピソードだった。ある英会話学校へ申し込みに行った吉田朋代。受付に座っていたのはVOCALAND1で既にデビューしていた紫藤博子。「ご職業は?」からはじまり、「私、今度、エイベックスのVOCALANDで歌うんです」「え?私もVOCALANDですけど??」「ホントですか???」えーーーっ!こんなことって、あるんだろうか。

 

実はこれは、第1回の時もステージで語られていたのだが、20年の時を経て、こうしてVOCALANDのメンバーでのライブが毎年実現している今、改めて聞くと、つくづく人間の縁は不思議なものだと思わされる。

生きていると、こんなこともあるのだ。

そういえば、〝縁〟すなわち〝ゆかり〟には、原点へと辿っていくという意味もある。

究極のところ、縁を辿れば、自分自身の原点に立ち返るのかもしれない。

 

今の縁は過去になり、過去の縁は今へと繋がる。

繋いだ縁は、未来になる。さぁ、2019年へ。

 


ユカリノ 

《むらかみけいじゅ 吉田朋代 紫藤博子》

 ゲスト:吉井弘美

 

SET LIST


1部

1 さよならのプリズム
2 Don't say I love you
3 Shadow
4 Summer days(むらかみけいじゅ)
5 いらだつ季節を抱きしめて(吉田朋代)
6 Never gonna miss you

チルゴンズ(紫藤博子&鈴木英俊)
7 Run to you
8 Follow your road


2部

9 Discover(むらかみけいじゅ)
10 Magic

11 So long
12 Voices from december(ゲスト:吉井弘美)
13あの日のまま
14 Together
15 Love story

Encore
16 Friday night
17 What cha doing

More Encore
18 Take me your own way

 

2018.11.9 at JZ BRAT 渋谷セルリアンタワー