死ぬまでにどうしてもしておきたいことや叶えたいことを強く意識しながら生きているだろうか。遂に私も、青木さん、浅野さんが亡くなられた年齢に到達した。今年は身近で多くの別れを経て、また自身も余命を意識せざるを得ない出来事もあった。遣り残した事は何か、伝承したい事は何か。指折り数えても、意外と多くはない。

 

だけど死ぬまでにどうしてもどうしても「生で」聞いておきたかった曲は、意外に多いのだ。特に今まで一度もライブで聴いたことがない曲。これを聴くことは、最早「最期の夢」である。聴くことが叶った瞬間、「もう死んでもいい」ほどの気持ちになるのだ。

 

2016年、角松敏生35周年記念ライブと同じくらい楽しみに待ち焦がれていたライブが“勝手にVOCALAND Vol.2”。去る11月28日、吉祥寺スターパインズカフェにて。

 

 

昨年の模様はこちらを参照のこと。

 

勝手にVOCALAND@HEAVEN青山前編後編

 

昨年のvol.1が余りに余りに素晴らしすぎたので、今年もパンパンに期待を胸に詰めて行ったが、高めに設定した筈の期待を遙かに裏切られ、またもやられてしまった。なぜなら、私が「死ぬまでに生で聴くことは絶対にないだろう」と諦めていた見果てぬ夢を、勝手に叶えてくれちゃったんだもの。

 

まぁ、とにかくセトリをご覧あれ。そして、行かれなかったVOCALANDファンは悶えていただきたい。

 

勝手にVOCALAND Vol.2 セットリスト(カッコ内はオリジナルボーカリスト)

1. Heart to you~夜が終わる前に~(ANNA)
2. SHADOW(紫藤博子)

3. Don't say “I LOVE YOU”(吉田朋代)
4. ALL IS VANITY(角松敏生)

5. NINETEEN 19(長江健次)
6. あの日のまま~When I doubt my doubt~(紫藤博子)

7. さよならのプリズム(伊藤恵子、藤井喜代理)
8. Voices From December~12月の声~(吉井 弘美、村上 圭寿)

9. CATCH ME(中山美穂)
10. DRIVING MY LOVE(杏里)
11. GIRL IN THE BOX(角松敏生)
12. Because you are(吉田朋代)

13. Splendid Love(Sala)
14. Take me your own way(紫藤博子)

 

encore
15. Never Gonna miss you(角松敏生、吉沢梨絵)
16. Heart to heart(Aki)

 

当ブログを丹念に読んで下さっている人ならば(そんな人はいないと思うが)私がどの曲で「もう死んでも構わない」状態になったのかお分かりでしょう。「プロデュース曲も含めた角松敏生ベスト3」の中で選んでしまう程聴き焦がれた曲が、「さよならのプリズム」

 

実は私たちは少し早めに会場入りしてしまい、リハの音が聞こえてしまったのだ。“あぁ~さよなら~のプリズム~”その瞬間、「えええええーーー!!!この曲やるのーーーーーっ!?」と同時に悲鳴を上げる。そう、この日同行してくれた角友さんもこの曲大好きなんだって。

私は過去何度となくこの曲の何処が好きか語ってきたのだが、「角松ファンにこの曲を熱烈推しが多い」というのも厳然たる事実。胸がキュッと締め付けられる切なさMAXな旋律&フレーズ。トーンの異なる女性ボーカリストのデュオが畳みかける。そして角松凍結前・中期を代表する打ち込みシンセ音が、甘いシュガースクラブのようにキラキラ鏤められている。恋する女子なら誰もがハートを鷲づかみにされる曲・・・だけど、この曲が大好きという男性も多いの。何故だろう?

 

「まだ好きなのに、自分から別れる」ストーリー、これぞ角松女心ワールドの真骨頂・・・と言いたいところ、この曲の歌詞は角松ではなく、加藤健。角松に言わせると「いかにも女の子の心が分かってるぜ風のあざとく狙い澄ましたような」詩を書くそうだが、確かに使われるフレーズが乙女120%。“別れを告げる鐘がこの胸に響いて あなたの知らないいつもの私に戻るの”“あぁガラスのヒールなら もう二度と履かないわ”なんて、まるでシンデレラでしょう?涼しい横顔で何も知らずに眠る王子様にそっと別れを告げて、涙で虹色に光る街灯りの中へ私は消えて行くの・・・。こんなに美しい別れ、女の子なら似たような記憶想い出の1つ2つ、抱えて生きてるもの。

 

ところが、みんな大好きなこの「さよならのプリズム」、女性ボーカリストが2人いないと生歌再現不能なのだ。まず間違いなく、角松ライブで歌われることは死ぬまでない。だから絶対に一生、聴けないんだろうなぁと思いこんでいた・・・ら、歌ってくれました吉田朋代&紫藤博子!!!聴いてしまいました私。もう死んでも構わない。

 

 

もう一曲、為す術もなく感動に打ち震えるのみ、のダンテな神曲があったんだな。角松ライブでもすっかりお馴染みのダンスナンバー、中山ミポリンのヒットソング“CATCH ME”でビートの渦に突き落とした後、軽いノリで吉田朋代「懐かしいの、歌っちゃうよ~」と刻むリズム、揺れる身体、このイントロは・・・まさかまさかの、作詞作曲編曲角松敏生の、杏里「Driving My Love」!!!!!ってええええええーーーーーーっっっっっ!!!!!「懐かしいの」のレベルを遙かに超えるんですけど!!!!

 

 

角松ファンには最早説明不要、杏里の大ヒットアルバム“Timely!”収録の「Driving My Love」。なんという選曲をしてくれるんだ。この曲も、杏里のライブですら聴くことはなさそうなのに、こんなところでクライマックス序章に使うとは!

 

このアルバムが世に出たのは1983年。当時はまだ「草食男子」「肉食女子」なる言葉が世に存在しない頃、角松は時代を先取りして“恋愛に積極的な女の子”ワールドを杏里に歌わせたのだ。Driving My Loveの彼氏はどうやらShyness Boyではなさそうだが、浮気な彼にただ振り回されるだけじゃぁない。ギアを入れるフリして彼の手に触れ“この気持ち感じるかしら”なんて、可愛いテクを披露している。この曲を初めて聴いたのは私が女子高生の頃。大人になったらこんな恋愛の駆け引きするのかなぁ~なんて思いながら聴いてたなぁ、あれは丁度33年前の冬だったっけ。

いや~、生きてて良かった&もう死んでも構わない。角松との出逢いの年である1983年の私に戻れるなんて、夢にも思わなかった・・・!

 

ノンストップで繋いだダンスナンバー、止めは吉田朋代のこのナンバー、「Because you are」

 

プロデューサー角松敏生は編曲参加だが、プレイヤー陣が超絶なのだ。ベース青木智仁を筆頭に、ドラム江口信夫、キーボード小林信吾、パーカッション田仲倫明、ホーンセクション数原晋とか中川英二郎とか勝田一樹とか、そしてギター浅野祥之。この日プレイされたダンスナンバーで、最も盛り上がった一曲だったと思う。

 

今年はセトリの曲順に関して、むらかみけいじゅと吉田朋代の2人で喧々諤々議論を重ねこだわり抜いたとのこと。その成果はしっかり出ていた。オーディエンスが聴きたい曲を、聴きたい順番でプレイすることで、客席の心を完全に手中に収める。ていうか「聴けるとは思わなかった」曲を聴けるサプライズそして幸福感。

 

今年は吉田朋代の“Together”を聴けなかったのがちょっと残念。でもVol.3が必ずある。「あともう1、2回くらいできる」ほど、歌っていない曲があるから。いやいや、何度でも歌って下さいよ、来年も是非、「さよならのプリズム」を・・・!

 

こうして並べて聴くと、VOCALANDの曲には、間違いなく90年代中頃の、あの「角松不在のミュージックシーンにあって、角松の息吹を何とか拾い集めて生きていた」独特の空気感が凝縮されている。角松の曲じゃないのに、角松よりも角松らしい曲っていうか。この、時代の思い出ごと封じ込めたVOCALANDの曲には、VOCALANDでしか再現できない世界があるんだな。それは、ただの懐かしさだけじゃない。あの時代があったから、今がある。生きてきた証。音楽ってやっぱり道標だ。

 

「勝手にVOCALAND3」が待ちきれない人は、こちらをどうぞ!年明けカミングスーンですよ。

TOMOYO YOSHIDA LIVE “T-Breeze”

 

 

では、これから2016年を締めくくる角松敏生カウントダウンライブin京都へ、いざ!

・・・の前に、吉田朋代さんTwitterより。2017年ハッピーニューイヤーの絵を頂きました!