高木さんと編集部に乗り込むと、僕はまず編集部の雑然さに

驚いた。参考に使うのであろうさまざまな本、いろんな原稿や

書類が乱雑においてあり、とにかくカオスというイメージが

ぴったりだった。まず編集部のボスの川上取締役に挨拶する。

その後、各編集長に挨拶を交わし、編集部員の人とも挨拶した。

こちらのフロアは販売・管理のいるビルと違い、みなが私服で

思い思いの格好をしている。会社にはスーツでくるものと思っていた

僕は、まずそのことに強烈なギャップを感じていた。

今回は顔合わせということですぐに終わったが、次にくるときは

早速大問題を抱えて編集部フロアに訪問することになる。


その管理部長氏は現在は病気で休職中とのことだった。ゴールデンウィークに

会社にずっと泊り込んで仕事をし続けてしまうような人らしい。初めて聞いた時はえらい熱血な人でかつ僕もそういう風に仕事をするのかと正直恐怖を覚えたが、現実はそれどころでは済まなかった。

そういった自己紹介を受け、自分の新しくもらったデスクを整理したりしていると、ひょっこり高木さんが現れた。高木さんは親会社から来た役員なので出社日や出社時間もまちまちらしい。そして高木さんに改めて会社の紹介をしてもらったが、僕が出社したこちらのビルは販売部門と管理部門が占めており、なんと別のビルのもう一フロアを編集部が占めているらしい。場所は賃料が非常に高そうなところにあったので、この会社はさぞ儲かっているんだろうなとその時は甘い幻想を抱いた。こちらのビルの販売部門の人は出社が直行等でまちまちのため、とりあえず編集部のあるビルの方から僕の紹介をしてくれることになった。僕が魔の巣窟に踏み込む第一歩のことであった。

兼戸さんに扉を開けてもらった僕は、「管理部」の島に案内してもらい、管理部の人達が出社するのを待っていた。どこの会社、誰でもそうだろうが初出社はきついものがある。知らない人の回りでポツンとただ座っている孤独感は独特のものがある。その内にようやくこれから僕の働く管理部の人が出社し始め、まず自己紹介を受けた。僕の対面の人は林川さん、その隣の人は大野さん、僕の右隣りは短井さんと名乗ったが、なんとこの短井さんは今日が退職日で、夜は送別会をやるらしい。さらに一番奥に空席があるが、そこは管理部長の席であった・・・。


そうして面接も終了し、一週間ほどで採用との連絡を受けた僕はその出版社に就職することに決め、入社の日を迎えた。初出社ということで珍しく白いワイシャツを着込み、約束の時間の30分前に会社に到着すると、確かに面接を受けたはずの会社の入口がみあたらない。階を間違えたかと思い確認してもこの階であっている。どうしたものかかなり焦り、しばらく外に出たり付近をうろうろして時間を潰しているとどうもその会社の社員らしい女性が出社し、会社の入口ドアの前にあった分厚い白いシャッターを開けてくれた。入口は暗証番号プラス鍵で開ける分厚いガラスドアで、社内も擦りガラスのため内部は透けて見えない。これだったら紛らわしいのでシャッターはしなくてもいいのにと思いながら、シャッターを開けてくれた女性と慌ただしくも初対面の挨拶を交わした。この女性は兼戸さんというらしい。





その社長と取締役との面接中、僕は面接の基本ではあるが、志望理由に「御社の本を愛読しています」と言った。しかしそのジャンルは主力でも社内製作でもなく、社長は「それはメインじゃないけど、読んでくれてるのは大変うれしい」と答えてくれたが、僕はこの時点でここの会社はしくじったかなと思った。今から考えてみるとこの役員は二人とも落下傘で、この会社の主流ジャンルに愛着がなかったから助かったのだと思う。編集志望なら間違いなく落とされていた。しかしこの主力ジャンルへの異常なこだわりがすべての崩壊へとつながるのだから皮肉な話である。