(前回からのつづき)
ふたたびトラバース気味のところを歩く。
気持ちは落ち着いたようでまだ落ち着いていなかった。
たぶん自分でそう思いたかったのだろう。
まだ気が動転しているのは明らかだった。
自分の歩いている方向が分からない。
どっちを見ても同じ景色にしか見えない。
腰をおろした。最後のミニクリームパンを食べる。
もう食料の心配をする必要もないからだ。
再び歩き出す。
見覚えのあるところに辿り出た。
「林道まで戻ってきた!」
「あとはここを戻れば帰れる!」
歩きながらいろいろなことが頭をよぎる。
「なんでこんなことになった?」
「時間を巻き戻せるなら山頂のところまで戻りたい」
「きっといろいろ言われるだろうな」
「っていうか、また山に登れるように治るのか?」
「山に登れなくなったらどうしよう」
同じことを何度も考えた。
林道が長い…。
行きに通ったときはそれほど長く感じなかったのに。
気持ち的な影響もあるのだろう。
今はゆっくりながらも一歩一歩進むしかない。
暑くないのに汗をじんわりとかいている。
いやな汗だ。
やがて遠くの方から音が聞こえてきた。
もう少し進むとそれが音楽だと分かった。
「ゲレンデまで戻ってきた!」
ゲレンデまで戻ったらスキー場の人に助けを頼もうと思っていた。
それほど今の状況を脱したいという気持ちだった。
助けを頼んだらゴンドラで下山して救急車だろう。
「こうして歩けるのに救急車をたのんでもいいのか?」
急に現実的になる。
スキー場にもどって、スキーを楽しんでいる人たちを見たからかもしれない。
人工的な設備、日常的な風景が目のまえにある。
「ここから救急車に乗って病院へ行ったらそのあとどうなる?」
家に帰ることはできないし、場合によっては家族に来てもらうことになるかもしれない。
レンタカーだってそのまま放置していたら後々めんどうだ。
「痛みさえ我慢すれば家に帰れる」
だんだんとその気持ちが強くなってきた。
「どうする?どうする?」
そんなことを考えているうちに駐車スペースに戻ってきた。
「ここまで下山できた!」
「よかった、本当によかった…」
2台停まっていた先行者の車も1台はすでに無く、
もう1台では下山したばかりの登山者が身支度をしていた。
「あの人はいったいどういうルートで下りてきたんだろう」
車に乗って、しばらく呆然とする。
暖房をガンガンにかけた。
汗をかいて着替えたかったけど身体が痛くて着替えられない。
少し落ち着いたところで、おにぎりを食べた。
どれだけ時間がたったろうか?
スマホを取り出して下山通知を送る。
いつものようにLINEでも下山連絡を送った。
「よし、帰ろう」
自宅に帰ることを決めた。
ロキソニンを飲んで、片手で車を運転した。
危ないとは分かりつつも仕方がない。
そしてどうにかこうにかして、その日のうちに帰宅することができた。
「無事」とはいえない状態だけど…。
「ちょっと怪我をして明日、病院に行く」とだけ報告。
なるべく平然をよそおった。
けれども実際は痛くてたまらない。
そもそも横になることができない。
その晩は身体の痛みで一睡もすることができなかった。
翌朝、病院へ行った。
診断の結果は、「左肩脱臼、左肋骨骨折(ひび)、右足大腿部打撲、右足首捻挫」
医者からは「なぜ救急を要請しなかった?」と言われた。
「とりあえず歩けたので」と答えるのが精いっぱいだった。
利き手の右手ではなく、左手であったのも不幸中の幸い。
よくよく考えると、これだけで済んだのがラッキーとも言える。
ホント、運が良かった。
「あの時もし…」
怖くて考えたくもない。
左手は痛くて未だに上にあげることができない。
けれども今後も山には行けそうだ。
今回の怪我が完治するまでこの山行は終わらない。

野伏ヶ岳山頂より(前日の登山)
おわり
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(あとがき)
こういうことを書くとバッシングがあるかもしれない。
それ以前に僕自身がこのことを忘れたい。
なので記録してここに書くかどうか迷いました。
けれどもこれを教訓として誰かひとりでも感じていただけたらと思い書きました。
この先、雪山に行くかどうかは分かりませんが、
山には登ります。
すでにこの山行のあと、低山ながらも数回、山に登りました。
正直、下りは怖くなりました。
「この石に躓いて転んだらどうしよう」
そんなことがすぐに頭に浮かんできます。
トレイルランは当分しません。怖くてできません。
6月に大会を控えていますが、そこでは全て歩くつもりです。
もっとも出られるような状況になっていたらの話ですが…。
再確認できたのは
「山が好き」だということ。
これだけは間違いありません。
これからも安全第一で楽しんでいくつもりです。
長文にお付き合いいただきありがとうございました。
チャレ
動画「三上山 ~近江富士に登る~」公開
YouTubeチャンネル:としの山行記

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